第2話 お嬢さまは『警察官』だそうでございます
お初にお目にかかります。
もとい。
私はロドリゲス公爵邸に勤め始めて2年目の新米侍女ナナリ・ブラウンと申します。私の勤めはロドリゲス公爵の長女ラピス・ローズ・ロドリゲスさまにお仕えすることでございます。
ラピスお嬢さまは見目は白銀の長い髪に白磁の肌をしたお美しい容貌をして天才彫刻家が女神を彫るとこうなるだろうという姿をしております。が、性格は……天上天下唯我独尊状態で大問題を抱えており私がお嬢さま付きの侍女になるまでに優に片手を超える侍女がクビになっておりました。
お嬢さまは気分屋でわがまま、しかも、少しでも反論しようものなら癇癪を起して
「お前の様なものがいなくても代わりは幾らでもいるんですからね!!」
と即クビの上に屋敷を追い出すという事をされておりました。
ええ!
ええ!!
ええ!!!
私も今日か明日かクビになるのではないかと戦々恐々としておりました。
そんな恐怖に打ち震えていた昨日の昼間に私とラピスお嬢さまを乗せていた馬車の車輪が片方外れて横転し私は運良く軽傷でしたがお嬢さまは身体を強く打ち付け呼吸が止まり回復魔法をおかけしましたが甲斐無くお亡くなりになりました。
という事で、この物語は終了です。
ではなく、全ての始まりはここからでございました。
突然の死にご葬儀の準備のあいだラピスお嬢さまのお部屋でお眠りいただくという事態になりました。
お嬢さまの父君であるロドリゲス公爵は様子を見に来たものの複雑な表情で
「ラピスには申し訳ないが……これで安心して次女のフローラに家督を継がせることができる」
とポツリと呟かれ、その場にいた誰もが視線を逸らして聞かなかったことにしました。
酷い言葉だと思います。
ですが。
ですが。
私も沈黙を守らせていただきました。
その瞬間、まるでロドリゲス公爵の呟きに反応したと言わんばかりにラピスさまの目が見開いたのでございます。
私の心臓が止まるかと思いました。いえ、メデューサの如く全員を凍らせてのお目覚めでございました。
チーン……ではなく、シーンと静まり返った中で最初に我に返り反応なさったのはミランダ・エバンス侍女長でございました。
「ラピスさま!! ラピスさまが目を覚まされました!! お嬢さま! 良くお目覚めになられました!!」
その手の平返しは流石でございます。
私も恐る恐るお嬢さまの側に行き
「ラピスさま! お身体の具合はいかがでしょうか?」
と手をそっと重ねてお聞きいたしました。
私の呼びかけにお嬢さまは素早く顔を向けられました。
「はぁ? 誰だ? それにラピスって……俺は鳥飼聡だが……」
お嬢さまはそう仰ってガバリと布団を跳ね飛ばしてブンブンと頭を振り
「すっげ、頭が重い」
と言いながらベッドから降りると驚愕するロドリゲス公爵を見て
「ん? あんたが俺を助けてくれたのか? ありがとう。あれで助かったって……マジかって思うけどな」
と白魚のような手をロドリゲス公爵に差し出されました。
フラフラすとんと公爵が尻餅をつかれても誰も何も言いません。
私も心の中で悲鳴を上げて逃げ出したい気分です。死者の復活は女神ソフィアの恩恵と言われております。
恩恵。
恩恵。
私は蒼褪めて逃げ腰の誰もをスーと見回して思いました。
「よりにもよって……傍若無人のラピスお嬢さまを」
何故!? でございましょう。
しかし、その日からラピスお嬢さまは別人のように振舞われるようになりました。
死しても白銀の長い髪に白磁の肌、そして彫刻家が彫った女神像のような容貌は変わりがありません。が、行動と言動は正に『別人』でございました。
私、ナナリ・ブラウンは今日も女神ソフィアの恩恵を受けて別人のようになったラピスお嬢さまに引き摺られてフェッツランド王国のロドリゲス公爵の領地の首都ウェールズの城下町へ訪れております。
自らの美しさと公爵家という地位を自慢するために開くお茶会大好きだったラピスさまが『警察』と称して騎士たちと町を見回るためにでございます。
昨今のお嬢さまのお言葉を借りれば、まさに。
マジか!! でございます。
ロドリゲス公爵家だけではなく貴族の人間に害がない限り市井で人がどうなろうと気にする人間はいなかったので、公爵は突然ラピスお嬢さまから『警察機構無くして治安なし!!』とドーンと執務机を叩きながら言われ、もう何度目かになるか分からない尻餅を執務室でつかれました。
「屋敷にいる騎士の一部を借りる!」
そう宣言されたお嬢さまを前に公爵も圧に押されて頷くしかなく、今日はその警察機構とやらの発足式となったのでございます。
燦燦と照り付ける太陽。
吹く風は温かくロドリゲス公爵家はフェッツランド王国の南側の海のある領地であるため潮風も香ってきております。
ウェールズの中心地にあるサンフラワー広間に人々も興味津々と遠巻きに集まり見ております。
いやはや、とても賑やかでございます。
私はその騒ぎの中心にいるお嬢さまの横に控えながら整列して控える騎士を前に腰に手を当ててドーンと立っているお嬢さまを見つめました。
銀の長い髪を一つに束ね、女性騎士の衣服を身に纏ったお嬢さま……何故でしょう、凛々しさすら感じます。
「よし! 町の治安こそ公爵家を守る! 右からの第一小隊は北区画。第二小隊は西区画。第三小隊は南区画。最後の第四小隊は東区画を巡回し異常がないかを本部に報告! 我々は領地領民を守る警察だ!」
おー! とお嬢さまが片手を上に掲げると警察機構に選任された騎士も腕を掲げました。
ロドリゲス公爵家の警察機構の誕生でございます。




