自分なりの道01
海沿いを東に進む。
各宿場町でちょこちょこ海産物を仕入れながらのんびり進むと十日ほどでアリエスタ公国と隣国エントハイム公国の国境をなす大河に突き当たった。
エントハイム王国も海に面していることから貿易が盛んな国ではある。
しかし、アリエスタ公国に比べて国土が狭く良港が少ないこともあって、貿易量はそこまで多くない。
ただし、エントハイム公国から北に連なる川沿いの国家では繊維産業や手工業が盛んなため、その輸出を一手に担う事でかなり栄えた裕福な国だ。
私はそんなエントハイム公国に入り、大河に沿って北上していくことにした。
この川沿いの街道は地域によって様々な柄や素材の織物が作られ、被服産業も栄えていることから、通称「繊維街道」または「おしゃれ街道」と呼ばれている。
私はそんな街道で珍しい布や小物の他、自分ではなかなか思いつかないような服のデザインを仕入れながらとこしえの森を目指すことにした。
(布は森の素材で作れないわけじゃないっていうか、むしろ高級なものが作れるんだけど、やっぱり普段使いの綿や麻は欲しいし、自分では作り出せないような色とか模様のある布は欲しいのよね。あと、レース。あれは自分では作る気にならないし、小物類もやっぱり自分じゃ実用的なものしか作らないからこういう機会にたくさん買っておきましょう)
と考えながら渡し船に乗り込む。
船はゆったりと進み小一時間ほどで対岸に到着した。
さっそくたくさんの行商人にまじって船を降り、町へ向かう。
対岸の港町は行商人でかなり賑わっているように見えた。
(まだ日も高いし、近くの村まで進んじゃいましょうか)
と考え、さっさと町を出る。
そして少し急ぎ足に街道を北上していった。
翌日。
村の小さな宿を出る。
雲一つない快晴の下、気持ちよく街道を進んでいると、一台の荷馬車が私をゆっくり追い越していった。
さしに気に留めることなく見送る。
しかし、その荷馬車は私を追い越してしばらく行ったところでゆっくりと止まった。
(あら。どうしたのかしら?)
と思っていると馭者席から一人の女性が降りてきて、
「ねぇ。ちょっといい?」
と声を掛けてくる。
私は、
(はて?)
と思いつつも、その女性がいかにも朗らかで害意がなさそうなのを見て取り、
「なぁに?」
と気軽に応じた。
「ごめんね。急に声を掛けちゃって。私はタニア。服飾職人をしているの」
と言いつつ右手を差し出してくる女性に私も、
「ナッシュ。冒険者よ」
と気軽に応じながら手を差し出す。
そして私たちは握手を交わしながら、
「この辺じゃ珍しい服に見えたから思わず声を掛けちゃったわ。どこで買ったの?」
「ああ。これは自作ね。正確には私の師匠が作ってくれたの」
「そうなんだ。ご出身は?」
「私はルクセリア王国の北の辺境だけど、師匠はフルベール皇国の人だったらしいわ」
「なるほど。言われてみれば確かにフルベール皇国風ね。でも、機能性が高そう。よければ少しスケッチさせてくれない?」
「……それはいいけど、ここで?」
と会話を交わした。
「そうよね。ごめんなさい。えっと、今日はどこまで?」
「特に決めてないけど、このまま北上して適当な宿場町で一泊するつもりだったわ」
「そっか。私はこの先にあるユルトの町で一泊する予定だったんだけど、よかったら一緒にどう?」
「え? 乗せていってくれるの?」
「ええ。その代わり宿に着いたらその服を詳しく見させて」
「あはは。いいわよ。どうせ急ぐ旅でもないし」
「ありがとう。じゃあ、さっそく乗って」
と言うタニアの言葉に甘え私はさっそくその小さな荷馬車に乗り込む。
そしてゆっくりと動き出した荷馬車に揺られながらまずはチッチを紹介し、その後タニアと詳しい自己紹介を兼ねて話を始めた。
「私、ノルドバス王国の王都で服飾職人をしてるの。で、今はエントハイム公国に最新の流行調査に行った帰りってわけ。ついでに各地でいろんな生地や小物を仕入れながら帰るつもりなんだ」
「へぇ。エントハイム公国って流行の中心地なの?」
「ええ。あそこはいろんな場所の服が集まるから珍しい物がたくさん集まるのよね。だからそこから新しい流行が始まることが多いの。それで、私も毎年仕入れも兼ねて調査に行ってるって感じかな」
「そっか。私はそういうのに疎いか気づかなかったけど、たしかにいろんな地方から人が来て賑わってる感じだったわね」
「ええ。よく見ると変わった服を着た人がたくさんいるのよ」
「へぇ。そこでも私にしたみたいに声を掛けてスケッチをさせてもらってるの?」
「ええ。特に気になる服を着ている人にはね。あとは、通りを眺めて柄や着こなしを観察したりもしているわ」
「そうなんだ。仕事熱心なのね」
「あはは。まぁ、そうかもしれないけど、私としては好きだからやってるって感じかな?」
「それでも感心するわ」
「あはは。そう言われるとなんだか照れるなぁ……」
と照れながら軽く頭を掻くタニアをなんだか微笑ましく思いながら、普段どんな服を着ているのか? とか、アクセサリーはどんなものが好き? というようないかにも女子らしい話をしつつ街道を進んでいく。
普段そんな話をする相手がいない私にとって、その時間はなんだか女の子に戻れたような気がして、すごく楽しく感じられた。
そんなタニアと一緒にユルトの町に入る。
時刻は夕方前。
私たちは同じ宿に入ると、タニアはさっそく私のスケッチをしたいと申し出てきた。
私の部屋に集まり、
「ねぇ。スケッチって夕食までには済むかしら?」
「ああ、そうね。けっこうお腹空いてる感じ?」
「うーん。私は大丈夫だけど、チッチが……」
「あはは。そうね。じゃあ、手早く済ませるわ」
と話してさっそくスケッチに取り掛かる。
タニアはスケッチブックのような帳面を取り出し、私の服をいろんな角度から観察し始めた。
しばらくして、
「ねぇ。内側も見ていい?」
と言い出すタニアに少し苦笑いしつつも、
「ええ。いいわよ。なんなら脱ぐ?」
と半分冗談でそう告げる。
するとタニアは目を輝かせながら、
「いいの!?」
と言ってきた。
そう言ってしまった手前後には退けず、私は、
「あはは。じゃあ、その間にお風呂を済ませてくるわ」
と苦笑いで応じ、服を脱ぎ始める。
そんな私から服を受け取るとタニアはさっそく服を観察し始めた。
「ははは。じゃあ、ちょっとお風呂に入ってくるわね」
「ええ。ごゆっくりどうぞ」
と言葉を交わし、私はさっそくお風呂の準備を始める。
そんな私の後からタニアが、
「ねぇ。よければ下着も……」
と声を掛けてきた。
私は、さすがにそれはと思いながらも、
「替えの下着を出しておくから、それを見てちょうだい」
と若干引き気味の笑顔を浮かべ、他人に下着を預けるというなかなかの苦行を経てお風呂に入っていった。
いつもよりのんびりお湯を堪能してお風呂から上がる。
するとすぐに私の下着を手にしたタニアが詰め寄るようにやってきて、
「ねぇ! これってなんの生地使ってるの!?」
と、すごい勢いで聞いてきた。
「あ、ああ、それはスパイダーシルクね。ワイヤーの部分はサーペントの革を加工したもの使っているらしいわ。耐久性もあるし、防御術式との相性もいいから冒険者向けの仕様ね」
とある程度正直に答えると、タニアはさらに驚いた顔をして、
「し、下着にそんな……」
と、つぶやいた。
私は、
(前世で体験した着心地を参考にマスターと一緒になって魔改造したなんて言えないわね……)
と思いつつ、
「あはは……。師匠はフルベール皇国で魔導技術を学んだらしいからそんな細部にまでこだわれたのかもしれないわね」
と、全てをマスターのせいにして、苦笑いで釈明する。
するとタニアは、驚愕の表情を崩さないまま、
「さすが、魔導大国フルベール皇国ね……」
と、何かを諦めたかのようにつぶやいた。




