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とこしえの森のナッシュ~魔導人形に転生した私の異世界冒険譚~  作者: タツダノキイチ


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海01

イビルオークを討伐し、またのんびりした旅の空に戻る。

時折、ゆったりと宿に逗留しながら十日ほど進み、トリニシア王国を抜け、南の大国アリエスタ公国へと入った。

アリエスタ公国はルクセリア王国よりはやや国土が狭いが、その分海に面しており各国を結ぶ交易の中継点として発展している。

特に険しい山脈で陸路を断たれる大陸東側の国から届く鉱石などの産物を北のルクセリア王国や西のエルフの国エルフォニア王国に運ぶ重要な拠点港と街道を持っており、なかなかに影響力のある大国だ。

そんなアリエスタ公国を南北に貫く街道をのんびり歩きながら私は、

(お刺身に、お鍋、あと南方の国らしく香辛料もたくさんあるからフィッシュカレーっぽい料理もあるって本には書いてあったわね。それに干物や乾物も輸出用にけっこう作ってるって聞いたから、美味しそうなのがあったら積極的に仕入れちゃいましょう。そしたら帰って和食三昧の日々が送れるわ)

と考え、なんとも呑気な気持ちでまだ見ぬ海辺の地へ想いを馳せた。

そんな呑気な旅を続けること五日。

海まであと五、六日ほど宿場町に到着する。

(さて。とりあえず宿を取りましょうか。とりあえずお風呂に入りたいわ)

と考えながら通りを歩いていると、

「おいおい……。これっぽちかよ……」

「ああ。すまねぇな。なにせこの状況だ。こっちも商売あがったりってもんさ」

「まったく。シーサーペントだかなんだか知らねぇが、たまったもんじゃねぇぜ」

「ああ。このままじゃ妹たちが飢えちまう……」

「そうだったな。お前も大変だなぁ」

「まったく。まいっちまったぜ……」

というなんとも嘆かわしい声の会話が聞こえてきた。

(え!? 今シーサーペントって言った? それって図鑑で見たことあるけど、たしかけっこうな魔導師じゃないと太刀打ちできないやつじゃなかったっけ?)

と思いつつ、その会話が聞こえた方に近づいていく。

するとそこには口ひげを生やした中年の露天商とまだ十五、六歳くらいの少年が腕組みをしてため息を吐いているのが見えた。

「ねぇ。ちょっといい?」

と声を掛けると、口ひげの男の方が、

「へい。らいっしゃい!」

と陽気に応じてくる。

私は、ちょっと情報を聞きたかっただけだったが、

「ああ、今シーサーペントがどうのって話が聞こえたんだけど、詳しく聞かせてくれない? あ、ついでにその貝の干物もひと袋もらうわ」

と、ついでに売り物の貝の干物を注文しつつ話を聞かせてもらうことにした。

そんな私に少年の方が、

「なんだい、姐さん知らないのかい? 最近、町じゃその話でもちきりだぜ?」

と、いかにも「おいおい」といった感じの表情で声を掛けてくる。

私は、

「見ての通り旅の冒険者なの。この町にはさっき着いたばっかりよ。とりあえずそのシーサーペントって話を聞かせてくれない?」

と言うと少年は、

「ああ、それなら知らなくても無理ねぇか。なに、おいらここから五日くらい行った海辺のトレスタって町から干物の行商に来てるんだけどさ、今からひと月くらい前、湾の中にシーサーペントって魔獣が出ちまったらしくて、うちの町はおろか近隣の町でも船が漁に出られなくなっちまったんだ。おかげで魚が入らなくなっちまって、こちとら商売あがったりってわけよ。今はなんとかとれる貝の干物なんかを仕入れて持ってきてるけど、そのうちそれも在庫が底をつくかもって話だから、みんなまいっちまってるんだ」

と、ため息まじりに今起きていることを教えてくれた。


「え? じゃあ、今海辺に行ってもお魚が食べられないの?」

「ああ。この街道を真っすぐ進んだ湾に面してる町は全滅だね」

「ってことは、もっと東にいけば?」

「ああ。そんなに魚が食いたいならそうするしかねぇだろうな」

「……それは参ったわね」

「へっ。旅人さんは気楽でいいや。魚がとれる港まで行けばいいんだからよ。おいらたちはそう簡単に仕入れ先を見つけられねぇから、おまんまの食い上げってもんさ」

と言って少年がため息を吐くと、露店の主人も、

「ああ。別の港からくる行商人から仕入れるとなると、うちも値段を上げざるを得ないから、下手すりゃ商売にならなくなる。まったく、とんだとばっちりだぜ」

と言いながら、私に貝の干物を差し出してきた。

そんな露天商に代金を渡し、

「国は動いてるんでしょ? 見込みは立ってないの?」

と、さらに聞くと、また少年が、

「ああ。軍艦を出したりしてるみたいだけど、どうにもならねぇんじゃないかって噂だぜ。なにせ、デカいうえに恐ろしく強いらしいから、今んとこ、お国もお手上げなんだとよ」

と少し吐き捨てるような感じでそう言った。

「……それは大変ね」

と言いつつ私もため息を吐く。

(たしかに、私は別の町に行けばいいだけだけど、町の人たちにしたらまさしく死活問題よね。さて。これはどうすべきか……)

と悩んでいると、少年が、

「ところで姐さん、目的地はどこだったんだい? もし街道を南に下るんだったら荷馬車に乗せていくぜ。トレスタの町の手前にある街道の分岐点まで、大銀貨三枚でどうよ?」

と妙なことを言ってきた。

「え?」

と思わず聞き返すと、その少年は、

「いや。そういう事情で少しでも金が欲しいんだ。妹たちも待ってるし、急いで帰りたいから駅馬車より早く進むぜ。どうだい? ちょいと人助けだと思って乗っていってくれないかい?」

と、その妙な提案をした理由を言ってくる。

私はその少年の真剣な目とちょっとした商魂のたくましさに感心し、

「ははは。いいわよ。乗っていってあげる」

と苦笑いでその提案を受け入れた。


「よっしゃ! 毎度あり! じゃあ、明日の朝町の門のところで待ち合わせな」

「ええ。わかったわ。ああ、私はナッシュ。君は?」

「ん? ああ、すまねぇまだ名乗ってなかったな。おいらはニルスってんだ。よろしくな」

「ええ。よろしく」

と待ち合わせ場所を決めつつ自己紹介をしてその場は別れる。

そして私は、

(なんだか妙なことになっちゃったわね……。しかし、シーサーペントだなんて、どうするのかしら? いざとなったらそれこそフルベール皇国にいるマスターみたいな魔導師に退治を依頼しないといけないやつよね……。そんな案件、私に対処できるかしら? うーん……。まぁ、とりあえず行ってみてから考えましょうか)

と、ひとり考え事をしつつ大通りを歩いていった。


適当な宿に入り、さっそくお風呂の準備をして小さな浴槽に浸かる。

浴槽の脇に置いた桶の中でチッチが、

「チチィ……」

と、なんとも気持ちよさそうな声を上げているのに癒されながら、私はその昔マスターの蔵書で見たシーサーペントの情報をなんとなく思い出してみた。

(詳しいことは覚えてないけど、たしかやたらと大きいなって思ったのは覚えてるのよね。最初、『ドラゴンの仲間ですか?』って聞いたらマスターはそうじゃないって言ってたっけ。たしか、種類的には森にいるマーダーサーペントとかと近いってことだったから、生態も似てるのかしら? だとしたら光系の魔法に弱いはず。目くらましをしてあとは火か風の魔法で削っていく感じになると思うんだけど……。そんな対処法が通じるのかしら?)

と考えていると、桶の中からチッチが、

「チチッ?」

と声を掛けてきて、いかにも「どうしたの?」という感じで小首をかしげてみせる。

私はそんなチッチに、

「うふふ。ちょっと考え事をしていただけだから、大丈夫よ」

と笑顔で答えると、チッチは少し安心したように、

「チチッ!」

と鳴いてまたのんびりお湯を堪能し始めた。

その日は宿の食堂で簡単に夕食を済ませてゆっくり体を休める。

そして、翌朝。

私は、

(とりあえず、出来ることをやってみましょう。いざとなったら飛んで逃げればいいんだから、落ち着いて対処すれば大丈夫よ)

と自分に言い聞かせつつ待ち合わせ場所の町の門へと向かっていった。


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