ブルーチーズとそのお礼02
翌朝。
たっぷりの朝食をいただき、さらにお弁当のサンドイッチまでもらって村長宅を出る。
(ああ、いい村だったなぁ……)
と振り返りながら村の奥を目指して歩き、私はそのまま森の中へと入っていった。
適当にあたりを付けながら歩き、お弁当を食べる。
お弁当のサンドイッチは牧畜の盛んな村らしく、チーズやベーコン、パストラミビーフなんかの肉系がわんさか入っていた。
(あら。すっごいボリューム。あ、でもこのピクルスがさっぱりしてるから意外とペロリといけちゃいそう。マスタードの加減もいいし、さすがベティさんね)
と、なんだか上から目線の感想を抱きつつ、美味しくいただく。
そして、同じく、
「チチッ!」
と嬉しそうな声を上げながらサンドイッチをかじるチッチと楽しいランチタイムを過ごした。
食後。
再び森の奥を目指して歩いていく。
そして夕方前。
私はある程度村の人たちが入り込まないだろう地点まで来ると、そこで杖を取り出し、集中して魔力を練り始めた。
やがて私の足元に特大の魔法陣が展開される。
私は慎重にそれを制御しながら、時間をかけて魔力の流れを整えると、頃合いを見計らい、一気に魔力を放出した。
私を中心に同心円状の魔力の波が広がっていく。
私は目を閉じ、集中してその魔力の流れに違和感がないかどうか慎重に探った。
やがて、魔法陣が消える。
私は、
「ふぅ……」
と軽く息を吐くと、
「いたわね……」
と、つぶやき、さらに森の奥を目指して進み始めた。
ある程度進んだところで野営にする。
その日は軽く行動食を口にしてさっさと体を休めた。
夜明け前。
まだ暗い空に上がり、昨日感じた違和感の方に向かって飛ぶ。
すると一時間ほどで違和感の正体であろう魔獣の群れが草地にたむろしているのが見えてきた。
(イビルオークか……。なるほど、こういうのが奥にいるから、たまに食いっぱぐれのコボルトが村に出てくるのね。氾濫が起きる前に気が付けてよかったわ)
と考えながらその草地を急襲する。
上空から五月雨式に高威力の魔法の矢を放ち、まずは十匹ほどを黙らせた。
群れの数はおよそ二十。
おそらくこのまま放置しておけば後々、魔獣の異常発生、「氾濫」を起こしかねない規模だ。
(森の中に逃げ込まれても面倒だし、あとは地上戦ね)
と思いながら着陸する。
イビルオークは普通のオークと違って結構素早く知能が高い。
私が地上に降りたとなれば、おそらく陣形を整え、集団戦で挑んでくるだろう。
私はそんなやつらの先の行動を予測しながら私は杖をしまい、剣を抜いた。
「ブモォォッ!」
とリーダーらしき個体が雄叫びを上げる。
予想通りやつらはそのリーダー格の個体を中心に陣形を組み始めた。
とりあえず、風魔法を放って牽制しつつ、まっすぐ突っ込んでいく。
イビルオークたちは少し慌てたのか、陣形が組み上がる前に二匹ほどがこちらに向かって突っ込んできた。
(かかった!)
と思いつつ、全速力で一匹の懐に飛び込む。
そして、体長およそ三メートルはあろうかという巨体の太もも辺りを横なぎに斬り払った。
「ブモォォッ!」
と痛そうな叫び声を上げ、斬られた個体が倒れる。
私はその個体には見向きもせず、次に襲い掛かってきたものすごい勢いの拳をギリギリでかわした。
また素早く突っ込み、高々と飛び上がる。
そしてやつの頭上から剣を振り下ろすと素早く飛び退さった。
私が着地すると同時に斬られた個体が真っ二つに割れる。
私はまたそれを気にせず残りの群れに向かって魔法を放ち陣形を崩そうと試みた。
「ブモォォッ!」
とリーダー格の個体が雄叫びを上げる。
おそらく群れの動揺を鎮めたのだろう。
そのせいで群れの結束が固まり、陣形が崩れてくれない。
私は軽く、
「ちっ!」
と舌打ちしつつ、真正面から突っ込んでいった。
今度は三匹ほどが同時に襲い掛かってくる。
続けざまに振り下ろされる拳を上に飛んで避け、空中で軽く体を捻りながら少し大き目の風魔法を放った。
突っ込んできたやつらの顔面を中心にパッと切り傷が出来る。
私は、
「ブモォォッ!」
と痛がってうずくまるやつらの頭を踏みつけるようにして着地するとまた群れに向かって突っ込んでいった。
縦横無尽に駆け回り、時々魔法を放って陣形を崩しにかかる。
しかし、やつらはなかなかしぶとく抵抗してきた。
(あー、もう!)
と心の中で悪態を吐きつつ、いったん動きを止める。
そして、大規模な魔法を使用するような感じで集中し魔法陣を展開すると、
「ブモォォッ!」
と雄叫びが上がり、やつらがこちらに向かって突っ込んできた。
再び、
(かかった!)
と思いつつ魔法陣をさっと閉じる。
そして、その様子に動揺するやつらの間を縫うように素早く駆け抜け、次々とやつらに斬撃を食らわせていった。
私が駆け抜けた後ろから、
「ブモォォッ!」
という叫びがいくつも上がる。
そして、私はリーダー格の個体に到達すると、まずは挨拶代わりと言わんばかりに剣を振り、けっこうな威力の風魔法を叩き込んだ。
それをリーダー格の個体は腕を顔の前で交差させるようにして防ぐが、その防いだ腕がざっくり深く切れる。
「ブモォォッ!」
と怒りの声を上げたやつは苦し紛れに蹴りを繰り出してきた。
ろくに狙いも定めていない苦し紛れの攻撃を簡単にかわし、お返しとばかりにまた剣を振り風魔法を叩き込む。
すると、その攻撃はやつの太ももの辺りをざっくりと切り裂き、また悲鳴を上げさせた。
痛そうにしてうずくまったやつの懐に飛び込み首筋を一閃する。
そして私が素早く飛び退さると、そのリーダー格の個体は地面に突っ伏すようにして沈黙した。
あとは殲滅戦になる。
私はその辺でうずくまったりのたうち回ったりしている個体に次々とトドメを刺して回り、粛々とその場を静かにしていった。
やがて、そんな作業も終わり、倒れたイビルオークを焼いて回る。
そして、その作業が終わると私はようやく、
「ふぅ……」
と額の汗を拭うような仕草をしつつ安堵の息を吐いた。
「チチッ!」
と鳴いて懐からチッチが顔を出す。
私はそれに、
「お待たせ」
と返すと、とりあえずその場でお茶の準備を始めた。
「ちょっと小腹が空いたわね……」
と、つぶやきながらリンゴを取り出してかじる。
もちろんチッチにも小さく切ってあげ、二人してのんびり体をくつろげた。
やがて、腰を上げ魔石を拾って回る。
(これで路銀はばっちりね。ああ、でも、目立たないように小分けにして売らないと。ソロだから二、三個ずつが関の山かな? こういう時、隠し事があるとちょっと面倒なのよねぇ)
と呑気なことを思っていると、チッチが、
「チチッ!」
と鳴いた。
「ん? どうしたの?」
と問い返すと、チッチはまた、少し鋭い感じで、
「チチッ!」
と鳴く。
どうやら浄化作業をするよう言っているようだ。
私は、
(え? ここに魔素溜まりなんてないけど……)
と思いつつも、杖を取り出し、地面に突き立てて大地を流れる魔素の様子をみた。
(うーん、言われてみれば確かにちょっとだけ魔素の流れが悪いかも。……子供とはいえ、さすがは精霊ね)
と思いつつ、
「さすがね、チッチ。よくできました」
と言ってチッチを褒めてあげる。
そして、
「チチッ!」
と嬉しそうに鳴くチッチをたくさん撫でてあげてからさっそく魔素溜まりを解消する作業にとりかかった。
やがて、
「……はぁ、はぁ」
と肩で息をしつつ作業を終える。
チッチもややぐったりとしていたが、どこか満足げだ。
そんなチッチと一緒にその場に寝転がり、空を見上げた。
太陽はとっくに頂上を過ぎている。
(意外と重労働だったわね……)
と心の中でつぶやきつつも、私は村のチーズを嬉しそうに自慢するコールさんとベティさんの笑顔を思い出し、ふと頬を緩めた。
(私、あの笑顔を守ったのよね)
と思うとなんとも言えない充実感が湧いてくる。
そして私は軽く目を閉じ、爽やかな午後の風を全身で堪能した。




