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とこしえの森のナッシュ~魔導人形に転生した私の異世界冒険譚~  作者: タツダノキイチ


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21/33

薬師ナッシュ02

夕方。

無事に峠を越え、麓の村に入る。

村に一軒しかない宿はそれなりに客が入っていたようだが、混雑しているというわけではなく、ゆったりとした気持ちでくつろぐことができた。


翌日。

貴族様を待たせるわけにはいかないと思い、少し早めに宿を出る。

次の宿場町には昼過ぎに到着し、私は軽く道を訪ねながらその貴族様が泊っている「黒曜亭」という宿を目指した。

その宿は大通りに面したいわゆる高級宿で、

(さすが、貴族様ね……)

と思いながら受付に、

「こちらにお泊りの貴族様の騎士団の団長さんでクルトさんという方に面会にきました。お取次ぎをお願いできますか?」

と、いつもより丁寧な口調でそう訊ねる。

すると、受付係の女性は落ち着いた様子で、

「予め伺っております。少々お待ちください」

と言い、いったん奥へと下がっていった。

しばらくその場で待っていると、昨日主人の介抱をしていたメイドさんがやって来て、

「お待ちしておりました。ナッシュ様」

と声を掛けてくる。

私はそれに、軽く礼を取って返すと、そのメイドさんは、

「昨日は本当にありがとうございました。おかげで主の体調も持ち直し、今は起き上がって食事もなんとかとれております」

と深々と頭を下げ、礼を述べてきた。

私はその大袈裟な礼に恐縮しつつも、

「それは安心しました。しかし、今日一日は無理をせず、食事も消化のよいものをとるよう心掛けてください」

と微笑みながら応じる。

そして、

「さっそくですが、主が直接礼を伝えたいと申しております。こちらへどうぞ」

という案内に従って、最上階に設けられているという貴族専用の空間へと上がっていった。


(さすが、貴族専用……。すごい内装ね)

と感心しながらメイドさんについていく、

すると、メイドさんが、

「こちらでございます」

と言い、ひと際豪華な扉の前で立ち止まった。

丁寧なノックに、内側から扉が開く。

私は、

「どうぞ。お入りください」

と言ってくれるメイドさんに促され、妙に緊張しながらその扉をくぐった。


「おお。よく来てくださった」

とベッドの上で上半身を起こし、微笑みながら迎えてくれる貴族様のもとに歩み寄り、少し離れた位置で、

「改めまして、ナッシュでございます。ご快復なさりなによりでございます」

とマスターから教わった礼を取り挨拶をする。

そんな私に、貴族様は、

「ほう。ナッシュ殿はフルベール皇国の方だったか」

と意外な言葉を掛けてきた。

きょとんとして貴族様を見る。

すると貴族様もややきょとんとした顔で、

「違いましたかな?」

と聞いてきた。

「あ、いえ。私はフルベール皇国の出身ではありませんが、師事した方がそちらの国の出身でしたので、このような礼の仕方を教わりました」

と、少し慌てつつ答える。

そんな私に貴族様はにこやかに微笑みながら、

「ははは。そうでしたか。あ、いや。申し遅れましたな。私はギルベルト・フォン・エスコバル。今は隠居の身で爵位はないが、元はトリニシア王国で侯爵をしておった者ですよ」

と自己紹介をしてきてくれた。

(なっ!? 侯爵様だったの!)

と驚きつつ、

「そのような高貴な方とは知らず、失礼いたしました」

と再び礼を取る。

しかし、元侯爵のギルベルト様はニコリと笑って、

「いや。礼を申さねばならないのはこちらの方だ。どうぞ、お楽になさってくだされ」

と柔らかい口調でそう言ってきてくれた。


「ありがとう存じます」

と軽く頭を下げ、

「どうぞおかけくだされ」

と傍に置いてあった椅子を勧めてくれるギルベルト様に、

「失礼いたします」

と再び軽く頭を下げて腰掛ける。

(うわ、これってトレント材よね? さすが貴族様用だわ……)

と私がその椅子の素材に軽く驚いていると、ギルベルト様が、

「ナッシュ殿が師事された方は貴族出身の方だったようですな」

と話しかけてきた。

そんな言葉に私は少し苦笑いを浮かべながら、

「はい。そうだったようです。詳しいことは本人があまり話したがらなかったので、聞いておりませんが、一応、そういう機会があるかもしれないから礼の取り方くらいは覚えておくよう言われておりました」

と在りし日のマスターが、なんとも苦々しい顔で、

『あんな世界、見なくて済むなら見ない方がいいわ。安易に近づいてはだめよ』

と言っていたのを思い出しながら、正直に事実を伝える。

そんな私にギルベルト様はニコリと笑って、

「いいお師匠に出会われましたな」

と言ってきたので、私は迷わず、

「はい」

と心から微笑み短く答えた。


その後、せっかく来たのだからといって軽く診察させてもらう。

胃の状態は悪くないようだったが、やはり全体的に体力が落ちているように思われた。

(……そういうことなのね……)

と思うと悲しくなる。

私はなんとなくマスターと過ごした最後の日々を思い出しながらも、努めて明るく、

「ずいぶんよくなられています。ただし、ご年齢もありますから、今後は脂っこいものは控えめにするなど、食生活に気を付け、無理をせず、定期的に医師の診察を受けてください。あとで、症状に合わせて調合した薬草茶のレシピをお渡ししますから、帰ったらすぐに薬師に注文してください。高いものではありませんし、材料もどこでも手に入るものです」

と進言すると、ギルベルト様は少し苦笑いをしながら、

「そのお茶は苦いのですかな?」

と聞いてきた。

そんな大貴族様の子供っぽい質問に、笑いながら、

「なるべく飲みやすくなるよう工夫してみますね」

と答える。

すると、ギルベルト様もニッコリと笑って、

「よろしくお願いしますよ」

と冗談っぽく言ってきた。

そんなどこかお茶目で柔らかい印象のギルベルト様に別れを告げて部屋を辞する。

そんな私にメイドさんさんが、

「本日はお部屋を用意させていただいておりますので、どうぞごゆっくりおくつろぎください」

と言ってきてくれた。

「いいんですか?」

と遠慮する私に、

「はい。主がせめてもの礼にとのことですので、どうぞお受けになってくださいませ。こちらの宿の料理は大変美味しいと評判でございますよ」

と、こちらも主同様ニッコリ笑って勧めてくれるメイドさんに、

「ありがとうございます。お言葉に甘えます」

と言って、その部屋へと案内してもらう。

部屋は貴族専用階にあり、入った瞬間私は、

(なにこれ! まるでお姫様のお部屋じゃない!)

と感動してしまった。

「すぐにお茶をお入れしますね。その間にお湯の用意をさせます。部屋着はこちらで用意させていただきましたのでゆったりおくつろぎください」

と、なにからなにまで至れり尽くせりの申し出に、

「すみません。本当にありがとうございます」

と再び礼を言い、なんとも言えないふわふわした気持ちで文机に向かう。

そして私は宿備え付けの高そうな紙にペンを走らせ、なるべく苦くない薬草茶のレシピを記し始めた。


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