旅は道連れ01
山岳地帯で未知の魔獣ゲネルと戦い魔素溜まりを掃除し終えたあと。
さっそく帰路に就く。
帰りは、先にワイバーンと戦った地点辺りまでは飛んでいき、そこからはまた猿型の魔獣ヨックがいそうな場所を重点的に見て回りながら慎重に森の中を進んでいった。
歩くこと二日。
他の冒険者たちが活動していそうな地域に入る。
(この辺りからはあまり目立ち過ぎないように気を付けなきゃ……)
と思いながら進んでいると、少し先から、
「きゃっ!」
という短い叫び声とともに、戦っている気配が漂ってきた。
(もしかして苦戦してる?)
と思いながら、とりあえずそっちの方向に急ぐ。
すると、案の定そこでは三人の女性がヨックに囲まれて戦っていた。
(やっぱり苦戦してるみたいね……)
と思い、静かに普通の弓矢を取り出す。
そして、適当な木の枝に飛び乗ると、そこから冒険者たちを取り囲むヨックの一角を崩すように矢を射始めた。
突然のことに驚く冒険者たちにほんの少し風の魔法を乗せた声で、
「大丈夫? 援護するわ!」
と声を掛け、さらに矢を射る。
するとなんとかヨックの陣形が崩れ、冒険者たちが優勢に立ち回り始めた。
それを見て、安心しつつも、最後まで油断なく弓矢を構え彼女たちの戦いを見守る。
どうやら一人ケガをしているようだ。
様子から見て、足を捻ったのだろう。
(大けがじゃなさそうだけど、心配ね)
と思いながらも、無事戦いが終わったことを見届けてから木の枝から下り、その冒険者たちの方へ近づいていった。
「大丈夫? 余計なおせっかいだったかしら?」
と言う私に、その冒険者のリーダーだと思われるエルフの剣士が、
「いえ。助かりました」
と礼を述べ軽く頭を下げてきた。
「いえ。困った時はお互い様ですもの。で、ケガの具合は?」
と言って足を押さえて痛そうにしながらしゃがんでいる同じくエルフの女性を見る。
こちらはどうやら弓士の様だ。
「ええ。ちょっと捻ってしまったみたいで。でも大丈夫です。固定すればなんとか歩けそうなんで」
と言うその女性に、私はまたしてもおせっかいかと思いつつ、
「見せてみて。良く効く薬を持っているの」
と言いながらその女性に近づく。
するとその女性は遠慮したが、もう一人の盾役らしいヒトの女性が、
「お言葉に甘えましょう。まだ森の奥なんだから、無理はいけないわ」
と言い、私に向かって、
「お願いしてもいいですか?」
と聞いてきた。
私はそれに軽くうなずき、
「ええ。じゃあ、さっそく診るわね。ちょっと痛むかもしれないけど、ブーツを脱いでもらえる?」
と言って、さっそく薬や包帯、それに固定用の薄い木の板を背嚢から取り出しはじめた。
治療しながら患部を見るが、骨に異常は無さそうだ。
ぷっくりと腫れてしまっている患部にマスター直伝の薬を塗り、手早く固定していく。
「最初のうちはちょっとジンジンする感じがするけど、じきに痛みは退いていくわ。でも、無理は禁物よ。帰りはゆっくり慎重に歩いてちょうだい。なんなら仲間に肩を借りるといいわ」
と助言して治療を終える。
すると、治療を見守っていたエルフの女性が、
「ありがとうございます。私たちは冒険者パーティー『精霊の矛』と言います。私はリーダーのユーカでそっちのけがをしてしまったのが、私の妹のニーナ。そして、こっちがエレナです」
と丁寧に自己紹介をしてきた。
そんな態度に、
(あら。素直でいい子達ね)
と好感を抱きつつ、
「私はナッシュ。見ての通り単独で行動しているわ」
と自己紹介を返す。
そんな私の紹介にユーカは、
「こんな場所でも単独で行動しているんですか?」
と驚きの表情を見せたので、私は、
「ええ。こう見えて魔法も使えるし、歴もそこそこ長いのよ」
と少しおどけたような苦笑いを交え、そう答えた。
「そうなんですね……」
と、まだどこか釈然としないような顔をしつつもユーカが一応納得したような返事をしたので、
「さぁ。治療も終わったしさっさとこの場を離れましょう」
と声を掛け、なんとなく一緒に移動を開始する。
ケガをしているニーナのことを気遣って時々みんなで手を貸してやりながらゆっくりと進んでいった。
やがて、少し開けた場所を見つけ、
「とりあえず今日はここまでにしましょうか。この感じなら明日の晩には森の入り口に到着できると思うわ」
と「精霊の矛」のみんなに提案する。
「精霊の矛」のみんなもその提案にうなずいてくれたので、私たちはそこで野営の準備に取り掛かった。
私はもう一度ニーナのケガの具合を診て薬を塗り直す。
マスター直伝の塗り薬は本当によく効いていて、腫れはずいぶんとひいているように見えた。
「ずいぶん痛みも減ったかと思うけど、この薬による一時的な効果だから、無理はだめよ。ここからの道もゆっくり歩くのを心掛けてね」
と診たてを伝える。
ニーナはなぜか私をキラキラした目で見、
「はい。ありがとうございます!」
と元気に返事をしてきた。
とりあえず、
「うふふ」
と苦笑い交じりでそれに応じて、治療を終える。
ここまでの道中で私はこの三人に対し、姉のユーカはしっかりもの、妹のニーナはおっとり、エレナは元気で明るい性格というような印象を持っていた。
(なんだかバランスのいいパーティーね)
と密かに思いつつ、ユーカが作ってくれた簡単なスープとパンの夕食を囲む。
夕食は楽しく進み、そんな空気の中私は、
(ああ、なんだか林間学校みたい)
と妙な前世の記憶を思い出してしまった。
食事の途中、
「ナッシュさんはどうして単独で行動してるんですか?」
というエレナの率直な質問に私は、
「うーん。なんでだろう? 最初は師匠と一緒に行動していたんだけど、師匠がいなくなってからは、自然とひとりで行動するようになったかな? まぁ、もともと辺境の森の近くで仲間になってくれる人がいなかったっていうのもあるけど」
と嘘を交えて苦笑いで応える。
すると私の胸元からチッチが顔を出し、
「チチッ!」
と鳴いた。
「え?」
と一様に驚いた顔を見せる三人に、
「ああ。紹介が遅れたわね。私の相棒のチッチ。ユキリスっていうちょっと珍しいオコジョの仲間なの」
とチッチを紹介する。
するとチッチはもう一度自己紹介するように、
「チチッ!」
と鳴いてみんなの表情を一気にとろけさせた。
「すごくなついててかわいいですね! どうやって知り合ったんですか?」
「餌は何を食べるんですか?」
「私も仲良くしたいです。コツはありますか?」
と立て続け質問してくる三人に、
「うふふ。出会ったのは本当に偶然。たまた持っていたリンゴをあげたらなついてくれたの。そこからはずっと一緒にいるわ」
と、また嘘を並べてなんとなく説明する。
するとチッチは少し不満そうな顔で、
「チチッ!」
と鳴いたが、私はそんなチッチを軽く宥めるように撫で、
「本当に偶然だったのよ」
と少し言い訳をするような感じで言い、チッチと出会った頃のことを思い出しながら、なんとなく目を細めた。
「いいなぁ……」
と、つぶやくようにいうニーナに、
「抱っこしてみる?」
と言うとニーナはパッと顔を輝かせて、
「いいんですか!?」
と言ってチッチに手を伸ばしてくる。
「うふふ。さぁ、チッチ。お姉さんに抱っこしてもらいなさい」
と言ってその手にチッチを乗せてあげると、チッチは大人しくニーナの手に収まり、
「チチッ!」
と少し甘えるような声を出した。
「きゃっ! かわいい!」
と相好を崩すニーナの横から、
「あ。いいな! 私も後でいいですか?」
「え。ずるい。次は私よ」
とエレナとユーカがそう言ってニーナの手の上にいるチッチをこちょこちょと撫で始める。
そんな三人に構われてまんざらでもないような表情を浮かべているチッチを見ていると、喜ばしいけど、ちょっと嫉妬してしまうような、そんな複雑な気持ちになってしまった。
やがて、存分に三人と遊んだチッチが私の肩に戻ってくる。
私はチッチに、
「たくさん遊んでもらえてよかったわね」
と声を掛けつつ、小さく切ったパンを食べさせてあげた。
その姿にも、三人は、
「かわいいですね」
「ええ。小さいお口で一生懸命食べてる!」
「あはは。意外と食いしん坊さんなんですか?」
と微笑ましい視線を送ってくる。
そしてその日は全員がほっこりとした気持ちのまま交代で見張りをしながら体を休めることになった。




