ちょっとしたお掃除01
のんびり西へ向かうことひと月と少し。
ようやく西の辺境に辿り着く。
馬車を乗り継げば十日ほどで着いたはずだから、ずいぶんのんびりとしたものだ。
ここまで時々森に入り、冒険もしたが、ゴブリンやオーク、イノシシ型のボアや鹿型のセルフを狩る程度に抑えておいた。
小物しかいない地域で狩り過ぎるのは他の冒険者の仕事を奪うことになりかねない。
そんな配慮をしながら狩った魔獣の魔石をさっそく辺境のギルドに持ち込む。
魔石は全部で金貨二枚になった。
大銀貨十枚と金貨一枚にわけてもらい、無造作にポケットに突っ込んでいったん買い取りのカウンターを離れる。
そして、私は多くの魔獣討伐の依頼票が貼られた掲示板に近寄ると、その内容を検分し始めた。
(あら。サーペントの皮はともかく、サイクロプスの角なんて依頼もあるのね。……サイクロプスの角が万病に効くって迷信、まだ信じられてるのかしら? へぇ。ミノタウロスの角は金貨五十枚ですって。けっこういい値段で売れるのね。ああ、でも、ソロの私が持ってきたらどう思われるかしら? うーん、もし上手い具合に遭遇したとしても、素材は売却せず、いざという時のために保管しておきましょうか)
と思いながら適度な依頼はないかさらに詳しく見ていく。
すると、ヨックという猿型の魔獣の魔石が一つ大銀貨一枚という依頼を見つけた。
(あら。ヨックなら一体一体は弱い魔獣だし、一つの群れで少なくとも三十はいるからちょうどいいわね。オークよりは安いけど、効率が良さそう)
と思ってその依頼票を剥がす。
そして再び受付に行きヨックがよく出る地域の情報を聞くと、最近浅い場所でヨックが出てきて難儀しているのだそうだ。
それで見つけたら積極的に狩るように指示を出しているが、それでも一向に減らないらしい。
そんな情報を聞いて私は、
(いや、それって森の奥に異常があるってことじゃない……)
と思い心の中で軽くため息を吐きつつ、ギルドを後にした。
ギルドの横にある宿で一泊した翌朝。
さっそく辺境の山岳地帯のすそ野に広がる森に向かう。
森の入り口付近までは馬車が出ているらしいが、私は人ごみを避けるようにその馬車が通る道を徒歩で向かった。
途中、素材を積んだ荷車や冒険者を運ぶ馬車と何度もすれ違う。
素材には例のミノタウロスの角もあり、その荷車を押している五人ほどの冒険者パーティーはどこか鼻高々といった感じだった。
やがて昼を少し過ぎたくらいの時間になってようやく森の入り口に着く。
そこにはギルドの出張所兼簡易の宿やちょっとした道具を売ったり酒を出す店もあって、いかにも冒険の入り口といった雰囲気を醸し出していた。
そのちょっとした町を素通りして森の中へ入っていく。
私は他の冒険者との競合を避けるように少し狭い道を選び、どんどん森の奥へと入っていった。
そうやって進むこと三日。
ヨックの目撃例が多いという場所のやや奥に到着する。
私はそこで軽く周りを確かめると杖を取り出し、軽く上空から周りの様子を確認してみた。
浅い場所に目立った異常はない。
しかし、遠くに見える山にはワイバーンが群れをなして飛んでいるのが見える。
(……絶対、なにか大物がいるわね)
と状況を確認して私は再び地上に戻った。
再びヨックの群れを探して移動を開始する。
すると、しばらくしてつい最近までヨックの群れがいたであろう痕跡を発見した。
(ちょっと大きな群れかもしれないわね……。六、七十ってところかしら?)
と、あたりを付けてその痕跡を辿っていく。
しかし、私の予想に反して、その痕跡は辿れば辿るほど規模を拡大していった。
(ちょっと……。これって百以上いるんじゃない?)
と思いながら気を引き締めて進んでいく。
そしてそろそろ夕暮れが近いかというところでヨックが集まっている場所を見つけた。
(よし。そろそろ群れが集合して体を休める時間だから、これ以上増えることはないでしょう。しかし、すごい数ね……。これだけの群れってことはきっとリーダーがいるんでしょうね)
と目の前の林にたむろする百を優に超える巨大な群れを見つめる。
私は胸の中にチッチに、
「少しの間大人しくしてるのよ。大丈夫だからね」
と小声でささやくと、チッチも小さく、
「チチッ」
と返事をしてくれた。
そんなチッチを軽く撫でてやってから剣を抜く。
そして私は意を決すると全身に魔力を巡らせ、ヨックの群れへと突っ込んでいった。
とりあえず襲い掛かってくるヨックを右に左に薙ぎながら群れの中央に突っ込んでいく。
そして、私は群れの中央でいったん立ち止まると、その場に剣を突き立て、一気に魔法陣を展開した。
青白く光る魔法陣の中心にいる私めがけてヨック達が襲い掛かってくる。
私はその様子を冷静に見ながら、ここだというタイミングで一気に魔法を解き放った。
「ゴォッ!」という音と共にまるで竜巻のような業火が巻き上がる。
突っ込んできたヨック達はたちまち消し炭となって消えていった。
ある程度の数が消えたところでその業火の魔法を解き、今度は剣に風魔法を纏わせる。
私がその状態の剣をくるりと回転するように一閃すると、先ほどの炎の外側にいたヨック達に無数の風の刃が襲い掛かっていった。
次々とヨックが切り刻まれて倒れていく。
私はその様子を冷静に観察し、群れの大半が消滅したのを確認すると今度は素早く移動して残党狩りを始めた。
身体強化を使い、右に左に素早く動く。
慌てふためくヨックを斬っては駆け、最後に他の個体のヨックより一回り大きい個体を袈裟懸けに斬ったところで周りに動く気配はなくなった。
「ふぅ……」
と軽く息を吐いて剣を納める。
「さて。とりあえず終わったわよ」
と胸元に声を掛けると、チッチはいつも通り明るい声で、
「チチッ!」
と晩ご飯をねだってきた。
「あはは。暗くなる前に魔石拾いをしてしまいたいから、もうちょっと待っててね」
と声を掛け、さっさと魔石を拾い始める。
ざっと数えた感じだと、やはり百を少し超えていた。
(……これは奥まで様子を見に行ってみないといけないわね)
と軽くため息を吐きつつ、お腹を空かせたチッチのために晩ご飯の用意を始める。
その日はここまでの旅で仕入れた濃厚な味のチーズをたっぷり使い、手軽なのにきちんとお腹に溜まるホットサンドを作って食べた。
食後にミカンを食べ、お茶でお腹を落ち着ける。
そして、私は手早く後片付けを済ませ、満腹でうとうとしているチッチを起こさないようにそっと胸元に入れると、杖を取り出し、ゆっくりと山がそびえる方に向かって飛んでいった。
星灯りに照らされた森の上を一時間ほど飛び、少し広めの草原を見つけたところでそこに降り立つ。
私はそこで簡単に野営の準備を整えると、焚火の横でブランケットに包まった。
静かな森のどこかでフクロウが鳴いている。
私はその声をなんとも長閑なものだと思いながら、ゆっくりと目を閉じた。




