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とこしえの森のナッシュ~魔導人形に転生した私の異世界冒険譚~  作者: タツダノキイチ


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旅の始まり05

ジャックと別れた翌日。

朝から下町の市場で食料品やちょっとした道具の買い物をし、いったん宿に戻って買ってきた物を収納の魔道具に移すと、今度は貴族街に近い商店街を目指してまた宿を出ていく。

そして、この王都で一番大きいという本屋に入って面白そうな物語の本を何冊も購入するとまた宿に戻り、それらを収納の魔道具に収めた。

いつの間にか王都の路地に西日が入り込んできている。

私は、

「なんだかあっと言う間だったわね……」

と苦笑いでつぶやきながら、銭湯に行くべく部屋を出ていった。


風呂から上がり、今夜の晩ご飯に良さそうな店を探す。

(王都最後の夜だし、ちょっと良いものが食べたいわね……)

と思いながら大通りから少し入った広めの路地を歩いていると、ブドウと肉の絵が描かれた看板がかかった、ちょっと洒落た作りの店構えの店を見つけた。

(あら。ちょっと美味しそうね)

と思いながらその店の扉をくぐる。

「ひとりと一匹だけどいいかしら?」

「チチッ!」

と訊ねると、優しそうな女将らしき女性に、

「ええ。どうぞ」

と、にこやかに迎え入れられた。

さっそく隅の方の席に座ると、品書きを持ってきてくれた女将が、

「今日はロース肉の良い所が入っていますよ。あと、それに合わせるワインはこの南方産がおススメですね」

と本日のおススメを教えてくれた。

「じゃあ、それでお願い。スープとパンもたっぷりもらえると嬉しいわ」

「ええ。かしこまりました」

と、値段も見ずにさっそく注文を決める。

やがてやってきたワインとお通しの小さなチーズをつまみながら料理を待っていると、たっぷりのパンとスープに続いて鉄板の上でジュージューと音を立てるいかにも美味しそうな厚めのお肉がやってきた。

「お待たせしました。とっておきの部位なんで、柔らかくて美味しいですよ」

と言ってくれる女将に礼を言ってさっそく肉にナイフを入れる。

すると、驚くほどすんなりと切れ、それだけでこの肉がいかに柔らかいかが分かった。

(すご……。シャトーブリアンとかそんな感じの所なのかしら? すっごくいい値段がしそうね)

と内心苦笑いしつつ肉を口に運ぶ。

(なっ! これは……。ここまで柔らかいともはや罪ね……)

と、わけのわからない感想を抱きつつ夢中になって食べ、結局ワインを三杯ほど飲み干してしまった。

食後のお茶を頼んでお腹を落ち着ける。

その後会計を頼むと案の定立派な値段がした。

(まぁ、ジャックの就職が決まったお祝いだからね)

と適当な言い訳をしつつ大銀貨を何枚も払い、店を出る。

そして、私は軽い足取りで宿へと続くにぎやかな道をふわふわと歩いていった。

宿に戻ってぼんやりとした月を見上げる。

(頑張っていればきっといいことがあるわよ……)

とジャックの顔を思い出しつつ、心の中でそんな言葉をつぶやいた。

やがて、ふんわりとした夜風にほんの少しの肌寒さを感じ、いそいそと布団に入る。

チッチはすでに枕元で丸くなっていた。

そんなチッチをひと撫でしてゆっくりと目を閉じる。

酔いはすっかりさめていたが、それでも私はなんとも言えない、いい心持ちで眠りに落ちていった。


翌朝。

宿を出て一応ギルドを覗く。

なにかついでに受けられる依頼でもあればと思ったが、貴族や大商人の護衛などが多く、ひとりで受けられるようなものはなかった。

仕方なくギルドを出て駅馬車の乗り場へと向かう。

乗り場は混んでいたが、目的の馬車にはなんとかすぐに乗れた。

またゴトゴトと揺れる馬車の硬い座面にお尻を叩かれつつ旅の空に戻る。

(さて。次の町でまた魔石をお金に変えなくっちゃ。それにそろそろ冒険もしたいし……。そうね、次の町で降りたらいったん西を目指しましょうか? 西側は山岳地帯だから魔獣の依頼も多いだろうし。ああ、でも久しぶりに海のお魚も食べたいから南にも行きたいのよね……。うーん……)

と、ひとりこの先の予定を考えていると、私の横にいた年配の女性が、

「お嬢さん。リンゴをどうぞ」

と言い私によく熟れた真っ赤なリンゴをひとつ差し出してきた。

「あら。いいの? ありがとう」

と微笑みながらそのリンゴを受け取ってさっそくかじりつく。

そして、すかさず私の懐から出てきたチッチにもりんごをかじらせてあげると、チッチが嬉しそうに、

「チチッ!」

と鳴き声を上げた。

「うふふ。美味しかった?」

と聞いてくるおばあさんに、

「ええ。とっても。うちのチッチも美味しかったみたいですよ」

とチッチを紹介しつつ礼を言う。

するとそのおばあさんは、

「今の時期、西の方は果物の旬なのよ。リンゴも柿もミカンもたくさんとれるわ。それに、前の年に仕込んだワインやリンゴ酒の樽開けも始まるから西の方の村はどこも一年で一番美味しいものが食べられる時期なのよ」

と嬉しそうに目を細めてそう教えてくれた。

その話を聞いて、私は、思わず、

「へぇ。いいですね。じゃあ、次は西の方に行ってみようかしら」

と、つぶやく。

するとそのおばあさんはにっこり笑って、

「あらあら。ずいぶんと自由なのね」

と、おかしそうにそう言った。

「ええ。なにせ、自由気ままな冒険者ですから」

と苦笑いで応える。

そんな私におばあさんはにっこり微笑んで、

「若いって素敵ね」

と言い、もうひとつリンゴを差し出してきてくれた。

また礼を言ってそのリンゴにかじりつく。

そして私は次の町までそのおばあさんから西の方の村の様子を聞いたり、おばあさんの思い出話を聞いたりして、楽しい時間を過ごした。


次の町の駅に着き、

「じゃあ、気を付けてね」

「ええ。そちらこそお達者で」

と別れの挨拶をしておばあさんと別れる。

私は適当な風呂無しの宿に荷物を置くと、その日も銭湯に向かい、この辺の名物だという鴨のローストとワインを楽しんで床に就いた。


翌朝。

西へと続く街道へ足を向ける。

馬車を使おうかとも思ったが、そろそろ自分の足で歩きたいと思って徒歩での移動を選んだ。

景色を楽しみながらのんびりと進んでいく。

おばあさんの言う通り今はいろんな果物の旬らしく、各村で新鮮な果物をこれでもかというほど買い込んだ。

(新鮮なのはパイにジャム、フルーツポンチもいいわね。あ、プリンアラモードもいいかも! 夏になったらゼリーもいいし、果汁を使って飴を作るのも楽しみだわ……)

と帰ったらどんな料理にしようかと考え、ウキウキしながら歩いていると、私の肩でチッチも嬉しそうに、

「チチッ!」

と鳴いた。

きっと私のウキウキした気持ちが伝わったんだろう。

そんなチッチをこちょこちょと撫でてあげながら、のんびり街道を行く。

途中、裏街道との分岐点を見つけたので私は迷わず細い裏街道の方へと入っていった。

(急ぐ旅じゃないし、ゆっくり行きましょう)

とそんなことを思いながら歩いていると、道端で行商人らしき人が道端に腰を下ろしているのが見えてくる。

どうやらお昼を食べているらしい。

「こんにちは」

と声を掛け通り過ぎようとすると、

「ああ。冒険者さん。この先はちょっと道が悪くなってるから気を付けた方がいいよ」

と教えてくれた。

「そうなの? ありがとう。気を付けて通りますね」

と、にこやかに答えてその行商人と別れる。

しばらく行くと、さっきの行商人が言ってくれたように、倒木やらがけ崩れでずいぶんと道が狭くなっていた。

(大雨でも降ったのかしら?)

と思いつつ、通りすがりのちょっとした親切のつもりで土魔法を発動し、土砂を片付けておく。

やはり大雨が降ったのだろう。

その先でも同じように土砂崩れで道幅が狭くなっているところがあった。

そこも同じように軽く整備して通り過ぎる。

そんなことをしていたせいか、次の村に着く前に日暮れを迎えてしまった。

その日はその場で野営をすることにする。

少し道をそれて森の中に入り、適当に開けている場所を選んでテントを張った。

焚火の炎に当たりながら、ゆっくりと新鮮な果物をかじりお茶を飲む。

久しぶりの森の空気にチッチもどこか嬉しそうに果物にかじりついていた。

そんなチッチとしばらくお茶を楽しみ、

「さて。今日は満月で明るいし、この先の道の様子も気になるから、ちょっと夜空のお散歩に行きましょうか」

と声を掛ける。

チッチは、

「チチッ!」

と嬉しそうな声を上げ、すぐさま私の胸元にもぐりこんできた。

「うふふ。じゃぁ、行こうか」

と言って杖を取り出し、ふわりと浮かせたところにさっと腰を下ろす。

そして、私は月灯りに照らされた夜空へ舞い上がると、いつもよりゆっくりとした速度で夜空の散歩を始めた。

途中道が悪くなっているところを見つけては直し、また夜空に舞い上がるというのを繰り返しながら月に照らされた夜空をゆっくりと散歩する。

そして、眼下に広がる広大な森を見つめながら、

(私っていったい何者なのかしら……)

と魔導人形であり転生者である自分のことを考えた。

この世界に来て二十年ほど経っているにもかかわらず私の見た目はほとんど変化していない。

ということは、私という存在は人という生物とは一線を画しているのだろう。

かといって私は神でも精霊でもない。

所詮、マスターの手によって作られた魔導人形だ。

(なぜ私はこの世界にきたんだろう……。そして、何のためにこの世界に存在しているんだろう……)

そう思うと、なぜか無性に物悲しいような気持ちになる。

そんな私の胸元から、チッチが、

「チチッ?」

と少し心配そうな声を掛けてきた。

私はそんなチッチを優しく撫で、

「うふふ。ちょっと考え事をしていただけよ」

と言いなるべくいつものように優しく微笑んでみせる。

そんな私にチッチは、

「チチッ!」

と励ますような声を掛けてきてくれた。

きっと、チッチなりに私のことを気遣ってくれたのだろう。

その声は、

「大丈夫。私が一緒にいるよ」

と言ってくれているように聞こえる。

私は微笑みながら軽くチッチを撫で、

「うふふ。ありがとう」

と応じ、少し明るい気持ちで輝く森を見つめた。

森は先ほどとなんら変わらない。

しかし、どこか清らかに見える。

私はそんな単純な自分を苦笑いしつつ、夜空に大きく浮かんだ月の優しい光に照らされながら、

(大丈夫。私は私。きっとなんとかなるわ……)

と言い聞かせて少し気持ちを切り替え、また夜空の散歩の続きを楽しんだ。


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