死の概念
「この小道を抜けるとジャワ街道に着きます」
クソガキがあの有名な、みたいな雰囲気で話してるが、俺はまったくピンと来てない。何だよ、ジャワ街道って。カレー街道なのか?
そんな俺の反応に疑問を覚えたのか、クソガキが立ち止まる。
「まさか、知らないんですか? アズーレに居るのに?」
「知らねぇよ。逆に何で知ってると思ったの?」
「それはタロウさんが冒険者だから……え? 冒険者ですよね?」
「いや、冒険者じゃないから。ただの旅人だから」
「え? 旅人? 僕、旅人のパーティーに入ったんですか?」
「そうなるな。嫌だったら抜けても構わないぞ?」
というか、抜けて下さい。
「ただの旅人なのに、ソラリオース家と敵対してるんですか? 馬鹿ですか?」
「だぁかぁらぁ、嫌だったら抜けろって。こっちだって色々と都合があって敵対しちゃったけど、本当は一切合切スルーしたい案件なんだから」
「モネさんの意見を聞かせて下さい」
「ごめん、レノア。私は囚われの身。タロウに口出し出来ない」
と、被害者振る羽虫に、俺は憤りを隠せない。オマケにクソガキが釣られて俺を睨みつけてくる始末。
囚われの身? はぁ? それは俺の事だろうが!
口出し出来ない? はぁ? 出来ないんじゃなくて、しないだけだろうが! 俺が何度お前に助言を求めたと思ってんの? その尽くを知らんぷりしたのは誰だよ!
「レノア、私はタロウに話がある。先に装備を見てくるといい」
渋々ながら頷いたガキは、俺を睨みつけてからジャワ街道とやらに向かって行った。
「ねえ、さっきの茶番は何なの? そこまでして俺の評価を貶めたいの?」
「私は事実を言っただけ。それにタロウの評価なんて、元から無に等しい。評価が下がると考える事すらおこがましい」
酷い言われようだ。最早これは言葉の暴力だろ。俺じゃなかったら泣いてるぞ。
「で? 話ってのは何?」
「タロウの意識がズレてる件について」
「何そのラノベみたいな案件。って言うか、ズレてる? 俺が?」
「私がレノアを守るのは、クエストに支障をきたさない為」
「待って、あのガキってそんなに大事なの?」
「レノアがいなければ、国の再興なんて無理。そして他のNPCと同様に、彼女にも死がある」
死がある? 俺にもありますけど?
「このゲームには死者蘇生の魔法やアイテムが存在しない。NPC達がタロウのように復活出来る訳じゃない」
「いや、でも、俺が死ねば時間は戻るよね? 別に死にたい訳じゃないけどさ、ガキが死んだら最悪後を追って俺も死ねば戻るんじゃない?」
「クエスト中は自動的にセーブされる。それはタロウの死で更新され、レノアはその恩恵を享受出来ない」
えぇ、何でそんな面倒なシステムにしたの? 主のバカ野郎。
「はぁ、分かったよ。どっちにせよ、俺が死ななければいい話だろ? 死ぬ気なんてないけど」
「……前々から思っていたけど、タロウは人に興味がないの?」
「興味? いや、別にない訳じゃないけど。何で?」
「レノアに関して色々と訊いてくると思ったから、肩透かし感が半端じゃない」
あのクソガキについて? ん〜、どうでもいいかな。親はどこにいるの、とは思わなくもないけど、俺にとっては関係ないし、人様の事情なんてもっと関係ない。前から言ってるよね? 俺はシナリオライターが憤慨するレベルで画面スキップを多用するってさ。
「どうせ、訊いても教えてくれないんだろ?」
「まあ、それはそう」
駄目じゃん。じゃあ、何で訊いてきたのって話だよ。
「あ! それが守る理由ってことは、モネはオッサンの頭が嫌ではないってことだよね?」
「は? 嫌ですけど?」
マジ勘弁、みたいな口調で羽虫がぶった斬った。あまりにも速い脊髄反射に、俺は黙る事しか出来なかった。




