逃れられない炎上
あーあ、何が悲しくてこんな得体の知れないガキを仲間にしなくちゃならないんだ。大体、俺って悪くないよね? 勝手に宿に来て、勝手に自分で服を破く。これで俺のせい? まだ美人局の方が常識あるレベルだぞ。
……このガキ、消しちゃおうか? うん、そうだよ、綺麗さっぱり消して、俺自身の潔白を証明すればいいじゃない。
「タロウ、パーティーメンバーに危害を加えることは出来ない」
マジで? クソっ、判断が遅かったか。せめて、仲間になる前に消しておけば、俺は汚名をそそげたのに。
「遅い早いの問題じゃない。タロウがひとつ屋根の下で、年端もいかない少女に猥褻行為を及んだ」
「だぁかぁらぁ、それは冤罪だって言ってんだろ!」
「残念ながら、優秀な私は映像を記録し、仲間と共有した」
え? 何してくれてんの? デジタルタトゥーって知ってる? お前のせいで俺はこれからロリコン認定されるんだぞ? 消せ消せ消せ消せ!
「おじさん、この妖精族とはどんな関係ですか?」
チッ、羽虫が見えるって事は、本当に仲間となったのか。邪魔くせぇ。
「おいガキ、さっさと服着ろよ。これ以上、俺を貶めるな」
「言われなくても着ますけど? それより、僕の名前はレノアです。お前、とか、ガキ、なんて呼び方しないで下さい」
ガキが青いローブに袖を通しながら文句を言ってくる。だが、そんなのは後回しだ。
「ちょっとモネさん、記録って何? 仲間と共有ってどこまで? 俺にとって不利益が生じない?」
「仲間内で炎上してるだけ。安心」
どこが? え? 安心できる言葉一つでもあった?
「炎上って、どんな風に?」
「女の敵とか、現実のSNSにアップさせるとか、他愛ないもの」
「やめて! 他愛なくないから! 社会的に死ぬから本当にやめて!」
「心配し過ぎ。寿司ペロに比べれば弱火」
あんなドラゴンブレスの大炎上と比べないで欲しい。つうか、この羽虫、現実の世界に精通し過ぎじゃない? もしかして、中身はAIじゃなくて普通の人間か?
「おじさん、そろそろ僕にも紹介してくださいよ。その妖精族は誰なんですか?」
誰って言われても、俺だって知りたいわ。
「まあ、仲間だ」
「心外。私はタロウのお目付け役」
「わぁ、僕、初めて妖精族に会いました」
「妖精族じゃない。私はモネ」
「ごめんなさいモネさん、僕はレノアと言います。よろしくお願いします」
「うん、レノア。覚えた、よろしく」
なんか、羽虫がガキの頭を撫で撫でしているが、あいつ、あんなキャラだっけ? 睡眠を妨げるとブチギレて熊を瞬殺する奴だよな?
「それで? お前の目的は何なんだ? わざわざ仲間になってまで、何がしたいんだ?」
「お前じゃなくて、レノアです。何度目ですか? 頭が悪いにも程がありますよ。健忘症ですか?」
うーん、殴りたい。世間ではポリコレポリコレ騒いでるし、ここで女性だから殴らないなんてのは、むしろポリコレに反するよね? よし、殴ろうか。
「レノア、落ち着いて。タロウという人間は、鳥にちょっと賢さを与えた程度の脳みそ。イチイチ腹を立ててたら、こちらが損をする」
「そんな残念な人間がいるんですね。分かりました、僕が我慢します」
偉い偉い、と羽虫がガキを甘やかす。
はぁ? 鳥様を舐めんなよ?
「僕がおじさん、いやタロウさんの仲間になったのは、イメガに行く為です。タロウさんは、冒険者ギルドに依頼を出しましたよね?」
「ああ、出したな」
「僕もその場に居ました。だから、片っ端からパーティーに入れてくれないか交渉したのですが」
「全滅だった、と?」
「はい、なのでタロウさんが駄目だったら、一人で依頼を受けるつもりでした」
どうぞどうぞ、一人で行ってください。なんなら、今からでも遅くないんじゃないかな?
「あっ! そう言えば、知り合いのパーティーがいたわ。知ってるかな、赤坊主に青坊主、それと黄坊主の三人パーティー。彼らなら仲間に入れてくれるんじゃない?」
「何言ってるんですか? あのパーティーはマフィアじゃないですか。問題外ですよ」
「何で? マフィアってだけで偏見してない? 彼らを知ろうとする努力が足りないと思うな」
「タロウさん、馬鹿ですか? 冒険者として知ってるからこそ、問題外なんですよ。彼らが何をしたのか知っていますか? 誘拐に密売に殺人です。これだけの事をしても平然と冒険者を名乗れるんですから、マフィアの根が深いと言わざるを得ません」
へぇ、あいつらそんな事やってたのか。そりゃ印象最悪だわな。ケンの馬鹿はよくそんな奴らとつるんでいられたな。やっぱり馬鹿だからか?
「申し訳ないけど、俺も殺人してるよ?」
「知ってます。だから、タロウさんは最後の手段でした」
苦肉の策とか言ってたもんな。そりゃ、誰だって人殺しの仲間にはなりたくないよね。
「レノア、安心して。タロウは屑だけど、最弱だから」
「最弱? でも、ピンクパンサーのパーティーを全滅させたと聞いていますが」
「それは私の力」
羽虫が胸を張り、フンスと鼻息を荒くする。
「……タロウさん、レベルを訊いてもいいですか?」
「え、俺? 15だけど?」
ガキは唖然とし、羽虫に小声で囁いた。
『ざっこ』
俺に聞こえないとでも思ったのか? 舐めるなよ、悪口なら俺の耳はどこでもフリーワイファイだ。
「タロウ、レノアが虚弱体質ですか、だって」
羽虫、お前は脚色のセンス皆無だ。そこは、嘘でも褒める所だろうが。
キャッキャッとしている女性共に、俺はただただ無力感に襲われた。




