それでも俺はやっていない
食料を色々買い込んでいたら、宿に戻るのが遅くなってしまった。睡眠を大事にする俺にとっては、あまり宜しくない。でも、仕方がない、と割り切る事にした。楽しかったのだから、仕方がない。
肉肉亭で食べた肉、ギュエルという肉は、解体された状態で売られていたが、どうやら牛と馬を合わせたような生き物らしい。畜産もやっているようだが、野生のギュエルは更に美味との事だ。
この世界の生物は、モンスターとそれ以外の事を指す。モンスターは倒せば金を落としてくれるが、消えてしまう為、食料にはならない。では、食料になる生物の見分け方は? 恐らくだが、過去の偉人達が手当たり次第に捕食を試み、その経験が歴史となって今の世代に受け継がれているのだろう。鑑定が使えないのなら、そうするしかないはずだ。
現実でも言える事だが、始めの一歩を踏み出した偉人には、心から敬意を払うべきだと思う。
「遅かったじゃないですか。また会いましたね、おじさん」
俺のベッドに座り、ふてぶてしく笑うガキ。なるほど、お前は俺に始めの一歩を踏み出させたいんだな? 敬意を払えよ、クソガキ。
「おじさん? 何で笑いながらナイフ取り出しているんですか? 怖いのでやめてください、話し合いましょうよ」
「ナンデココニイル」
「えぇ、カタコトなのが更に怖いんですけど。言ったじゃないですか、追跡の魔法を掛けたって」
「コタエニナッテナイ」
「……バレました? この宿に泊まってるのは、調べたので知っていました。宿屋の人には親戚だと言って嘘つきました。ごめんなさい」
しおらしく頭を下げるガキを見て、俺の良心が少なからず疼いた。はぁ、俺も大人になったものだな。
「で? お前の目的は何? 金か?」
「そんな低俗な理由じゃありませんよ、おじさんじゃないんですから」
あ、やっぱムカつくわ、このガキ。
「僕を仲間にして下さい」
「だから、それは断っただろうが。それともすぐ忘れる程、お前の頭は空っぽなのか?」
「馬鹿な人に馬鹿って言われても、何とも思わないのでごめんなさい。もしかして、煽ってました? すみません、僕、嘘が苦手なんですよ」
どの口が言ってんだクソガキ! お前が宿屋にいる状況を鑑みてから発言しろよ。
「はぁ~、どっちにしろ仲間はもう間に合ってるから。他を当たってくれ」
「馬鹿ですか? 他を当たって駄目だったから、ここに居るんですけど。もしかして、おじさん、自分が一番に選ばれたと思ってます? 妄想も大概にしてください。おじさんは本当に最後の手段、言わば苦肉の策ってやつですよ」
おいおいおい、怒涛に切り込んでくるじゃねぇの。人の痛みが分からない怪物か? お前、それを仲間に入れてもらおうとしている人に向ける言葉か? こんなん即パーティー解散だろ。
「さてはお前、口が悪過ぎて仲間に入れてもらえなかったな?」
「違いますよ、僕は嘘が苦手なだけです」
「あっそ、まぁ、どうでもいいや。ご苦労さん、帰ってくれ」
「……僕を仲間にしないと後悔しますよ?」
「はいはい、後悔後悔。俺はずっと後悔して生きているから気にしないわ」
ガキは、すっとベッドから立ち、おもむろに青いローブを脱いだ。中に着ている麻のシャツをナイフで裂く。見えてくるのは、胸にさらしを巻いた姿だった。
え? どういう事? さらしって男でも巻く物なの? 待って、すっごく嫌な予感がする。
「僕はこの姿で出て行きます。その後どうなるのか、おじさんは理解できますか?」
「いやいや、男がヤンチャしたってだけでしょ?」
俺は冷や汗をかきながら、悪い予感を振り払う。
「いつ僕が男だと言いましたか? 僕は女ですよ」
あー! クソっ! 悪い予感が当たった! 紛らわしいんだよクソガキ! ボクっ娘なんざ今日日流行らねぇんだよ!
それより、どうなるの俺? ゲームの世界で未成年猥褻容疑? 最低じゃん。これより下はないと思っていたよりも、更に下があるじゃん。
「モネ! これって俺が悪いの!? どうなるの?」
「タロウ、未成年猥褻容疑で懲役10年。臭い飯、どんまい」
「冤罪だ! 嵌められたんだよ! それでも俺はやっていない!」
「冤罪の約九割は有罪。悪魔の証明。勝ち目無し」
「そ、そんな」
「ねえ、おじさん、誰と話してるんですか? 気持ち悪いですよ?」
黙れクソガキ! お前のせいだろうが!
「タロウ、諦めるのは早い。最後の手段がある」
「教えてくれ!」
「示談する。それしかない」
俺はガックリと肩を落とした。
ねえ、知ってるかい? 正義って敗れる為にあるんだよ。
「君を仲間として迎えよう」
「うん、賢明な判断ですね、おじさん。僕はレノア、これからどうぞよろしくお願いします」
俺は虚ろな目でコクリと頷いた。
こうして、俺に柔軟剤のような名前の仲間が加わった。




