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人生はクソゲーだって? 本当のクソゲーを見せてやろうか?  作者: しらたま


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肉日和

 この街を出立するまで二、三日。どうやって時間を潰そうか考えていると、俺は自分の準備が出来ていないことに思い至る。武器、食料、その他諸々、潰していい時間など微塵もない。


 そもそも俺は、この街を端から端まで見て回るつもりなど初めからない。何でそんな面倒な事するの? 学生時代の修学旅行をすべてホテルで過ごした俺には、到底理解できない。でも、ゲームではそういう何気ないアクションでイベントが起こったりするんだよね。敢えて言うけど、だからRPGは嫌いなんだ。


 正直に言うと、今いる宿屋から外に出るのも億劫なんだよ。ぶっちゃけ、羽虫がいれば武器なんていらないからね。でも、その対価として羽虫に捧げる供物を用意しないといけない。なので、食料が第一優先だ。腹ペコモンスターの機嫌を損なう事だけは、避けなければならない。


 はぁ~、と重い腰を上げ、俺は領主邸からパクってきたバスローブから外出用の冒険者装備に着替える。


 「タロウ、腹ヘリ」


 「あー、クソジジイの乾パンしかないんだけど、それでもいい?」


 「それ、不味いから嫌」


 チッ、一丁前にグルメ気取りかよ。速やかに領主邸から追い出されたせいで、領主邸から食料をパクれなかったのが痛い。そして羽虫、この石みたいな乾パン、お前しか食えないんだから文句言うなよな。


 「タロウも食べてみれば分かる」


 「いや、俺には硬すぎて歯が立たないんだが?」


 「以前なら無理でも今なら大丈夫」


 あ、レベル上がってたんだっけ。改めて思うけど、自分のステータスが分からないとか、末期のバグだよね。

 俺は乾パンを一つ齧ってみた。うん、歯が通ったけど、マジで不味いな。泥のような味がするし、洗ってない犬の臭いがする。羽虫のやつ、よくこれを食べられたな。初めて尊敬したわ。


 よし、さっさと食料を買い込んで、この泥団子をどこかに寄付しよう。捨てるなんて、勿体ない。俺が味わった不快感を、誰かにお裾分けしないと気が済まない。


 「モネ、今日は外食だ。金ならある」


 「イエス」


 俺と羽虫は意気揚々と宿屋を出た。アテなどない。信じるのは己の嗅覚のみ。


 スンスンと鼻を鳴らしながら、街を歩く。誰かに店を訊いた方が早いって? 俺もそう思った。時間がないくせに何やってんだろうね。でも、食事に掛ける羽虫の怨念とも呼べる執着心が、一つの店を見つけた。その名は《肉肉亭》羽虫らしいチョイスだ。

 ん? 肉肉亭? どこかで聞いたような聞いてないような……ま、いっか。


 中に入ると、肉の焼ける旨そうな匂いが鼻腔をくすぐる。いいね、テンション上がるよ。

 暫くその場で突っ立ってたが、店員から案内される様子がない。これは勝手に座っていいのだろうか? ま、適当に座ろう。客なんだから追い出されはしまい。


 どれどれ、メニューはどこだ? キョロキョロと辺りを見ると、壁に直接書かれてあった。大胆過ぎるだろ。消すときどうすんの? 魔法か? 分からん。


 んーと、新メニューに旬の野菜炒め? いらんいらん、肉肉亭なのだから、肉が食いたい。


 「すみませーん、肉肉ランチ二つお願いします」


 「あいよ! 兄ちゃん、そんなに食えるのかい? 旬の野菜炒めにするかい?」


 厨房から野太い声が響く。


 「いえ、肉肉ランチでお願いします」


 「そっかぁ、旬の野菜炒めも旨いんだがなぁ」


 なんなの? 肉屋なのにビーガンに目覚めちゃったの? 野菜の推しが強い。


 「アンタ! いい加減にしなよ! お客さんが困ってるでしょうが! ごめんな、お兄さん。今、スープとパン持ってくるから」


 恰幅の良いお母さんが、平謝りで話しかけてくる。

 俺は笑顔で会釈し、店の当たりを確信する。この店で大事なのは、スマートな美女ではなく、米俵を担げるようなばあさんだ。


 スープとパンが到着し、肉はまだかとソワソワしていると、お母さんが鉄板を二つ持ってきた。


 「熱いから気をつけなよ」


 ジュウジュウと脂が弾ける音をさせた、三センチ程の厚みがあるステーキ肉。何の肉かは知らんが、そんなのは些末な事。今はただ早く食いたい!


 「タロウ、切って」


 羽虫は涎を垂らしながら、マイフォークを握りしめている。

 クソっ、俺だって早く食いたいのに!

 俺は肉を切って切って切った。しかし羽虫の小さな口に合わせるよう切るのは困難で、慣れないカトラリーを必死に動かしサイコロステーキを作っていく。

 それでも切る度切る度、羽虫がせっせと口に運んでいき、あっと言う間に一人前を平らげた。こいつの胃袋は宇宙か?


 「美味」


 だろうよ! あんなにガッツイてたんだから、そりゃ美味いよね。さて、俺も食べるとしますか。


 俺はもう一枚の鉄板を引き寄せ、ナイフで切り、フォークで突き刺し食べる。うん、冷めちゃったね。

 クソっ、冷めてもこれだけ美味いのだから、熱々で食べてみたかった。羽虫がいる限り、無理そうだけど。一枚一枚別で頼むか? それとも改めて熱してもらう?

 どちらにせよ、俺はすっかりこの店の虜だ。これで一人1000ゴルド? 安くない? 経営大丈夫?


 俺は会計を済ませ、お母さんに何の肉を使っているのかを訊いた。ギュエルの肉らしい。まったく知らないが、記憶に留めておこう。

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