セーブデータ
心機一転、俺は折れた心をなんとか添え木で支え、現実へ戻る為にするべき事を思案する。
って言ってもなぁ、ぶっちゃけクエストってやる必要ある? ソラリオース家というマフィアを潰しても、俺には関係ないよね? 大体、クエストを依頼したケン本人がいないし。マフィアと因縁がある領主邸からは出禁にされたし。
「ねえ、このクエストって無視しても大丈夫なやつ?」
「この場に留まり続けるつもりなら、無視してもいい」
駄目じゃん。何が、無視してもいい、だ。駄目なら駄目ってはっきり言えよ。シニカルな説明なんて疲れるだけなんだからさ。
「あー、クエスト面倒臭い。他のプレイヤーもこんな面倒事に向き合ってんのかね」
「観る?」
「え? 何を?」
「クリアしたプレイヤーのセーブデータなら、観る事が出来る」
「マジで!? 観たい! けど、その前に、クリアしたプレイヤーって増えた?」
「まだ一人しかクリアしていない」
良かったぁ。見知らぬプレイヤー諸君、俺達はズッ友だよ。勝手に抜け駆けしないでね。約束だよ?
だが、ゴトウ、てめぇは許さん! お前の名前はしっかり覚えてるぞ。ジパングという日本からスタートした卑怯者、そしてあっさりイチ抜けした不届き者。
羽虫が何やら呟き、翼が生えた青い目玉が召喚された。それに既視感を覚えていると、主との邂逅を思い出した。あの時の黒目玉と姿が一緒だ。今回は青だけど。
青目玉からライトのような光が放たれ、空中にスクリーンが投影される。便利だな、この目玉。
『え? どこだここは? 僕の家じゃない!』
映像には、キョロキョロと辺りを見渡す男が映っている。学生か? 随分若いな。こいつがゴトウ? 幼さが垣間見えるし、何か可哀想になってきた。
『落ち着いて下さい、勇者様。ここはジパングの帝都モンジャです』
『勇者? 僕がですか? あなたは誰ですか?』
『私はジパングの王、エドと申します。勇者様、貴方の力を私の国に貸しては頂けませんか?』
『僕の力? 無理ですよ! 僕なんて、ただの高校生ですよ? それに、人前に出るのは苦手で』
『大丈夫よ、ゴトウ君。私と一緒なら、あなたは誰よりも強くなれるわ』
『え? 妖精さん? 何で僕の名前を?』
『私はガーネ。ゴトウ君のサポーターよ』
えっと、色々突っ込みたいんだけど、キリがないなこれ。モンジャとか適当すぎるだろ。
『よっしゃー! ステータス1万超えたぜ!』
『やったねダイキ!』
『流石だぜダイキ!』
『素晴らしいですわ、ダイキさん』
「はい、ストップ! ストーップ!」
「何、タロウ?」
「いやいや、端折り過ぎじゃない? さっきまでウジウジしてたじゃん、ゴトウ君。何で急にイキってんの? 後、周りの女性は何? 気持ち悪いくらいヨイショしてるんだけど」
「ザッピングして編集してるから仕方ない。それと彼女達はゴトウのパーティーメンバー。皆、ゴトウにメロメロ」
ハーレムかよ! ラブコメは他でやってくれない? ゴトウもなんか顔色がおかしいし。
「あれ? そう言えば、ゴトウって寝ないでクリアしたんじゃなかったっけ?」
「そう。一週間寝ずにクリアした」
「なんで? そこまでしなくても、クリア出来たでしょ?」
「その場面なら、確かここらへん」
『無理だよ、僕が勇者なんて。それに八つ首のモンスターを倒せ、なんて言われても、僕なんかじゃできっこないよ』
ゴトウ君、ベッドのシーツに包まってガタガタ震えてるな。って言うか、八つ首モンスター? もうクリア条件提示されたの? 早くない?
『ゴトウ君、大丈夫。私がついてる』
『ガーネさん。でも、僕、怖いんです』
『何が怖いの?』
『色々です。僕は昔から何をやってもダメで、親からも呆れられて。だから、怖いんです』
『そうなのね、可哀想なゴトウ君。だったら、一度私に意識を預けてみない?』
『意識を預ける? どういう事ですか?』
『私があなたの手足を動かすって事』
『……それで上手くいくのなら、お願いします』
『任せて。私、一週間後に予定があるの。早く終わらせるわ』
「え? 何これ? つまりガーネがゴトウ君を動かしてたって事? モネ、これってセーフなの?」
「ギリギリ黒に近いグレー。ガーネが上手くやった」
いやいや、完全にガーネの予定ありきのクリアじゃん。私がついてる? 憑いてるの間違いじゃないの? さっきのイキりゴトウも、ガーネが言ってたって事だよね? これ、ゴトウ君のその後大丈夫? 現実に戻って支障きたしてない?
「意識預けるって、その間のゴトウ君の意識は何処にあるの?」
「変わらない。ゴトウの中にある。勝手に体が動くのを見ているしかない」
怖っ! 急にホラーにするの止めてくれない?
「モネはそんな事しないよね?」
「この手はもう使えない。主からの通達。不覚、遅れを取った」
こいつ、使うつもりだったな? つうか、サポーターってヤバい奴しかいないの? ガーネとか、ぱっと見妖精のお姉さんみたいな雰囲気出してたけど、やってる事えげつないし、自分最優先だし。
俺は当初抱いていた嫌悪感が消え、ゴトウ君を許し、憐れむようになった。




