最後の晩餐
オールバック兄貴が部屋を去り、しばらくすると、最初にこの屋敷で会った老執事セバスチャン(仮名)が、俺の元に現れた。
「ジュラルザード様からお申し付けられました、私がタロウ様を案内させていただきます」
「お手を煩わせてすみません、よろしくお願いします」
「あまり畏まらないで下さい。私はイグラシオン家の執事、お客様をもてなすのは当然の事なのですから」
うん、そうなんだろうけど、日本人としてはやっぱり慣れないよね。例えこの屋敷がボロ旅館でも、対応が素晴らしいと横柄な態度はなかなか取れない。ましてや、俺の場合なんて勝手に居候してる迷惑客なんだから。恩があると自覚してる分、更にタチが悪い。
「分かりました。でも、年長者を敬う分は見逃して下さい」
え? クソジジイ? 知らねぇな、そんなヤツ。俺は過去を振り返らない男だ。
「タロウ様はお優しいのですね」
そう言って微笑む老執事に、俺は微妙な笑顔で応える。
俺で優しく感じられるのなら、ダルンさんには後光が差して見えるはずだ。拝まれる姿が容易に想像がつく。
「では調理場へ向かいましょうか。その間、老人の戯言に付き合っていただければ幸いです」
そう言って歩き出したのだが、これがなかなかしんどい。絶対遠回りしてるだろ、とツッコミたくなるほど調理場が遠い。
その訳はきっと、老執事が戯言と弄した切実な現状の悩みを、俺に聞かせたい為だろう。
手っ取り早く纏めると、領主死すべし、そしてそれに賛同する者も同罪なり。
こんな内容を何重ものオブラートで包んでいたが、よくそんな言い回しが出来るものだと感心した。でも、最後の方はちょっと破れてたからね、オブラート。
「この先が調理場となっております。タロウ様がどうなされるのか、私には見当もつきません。ですが、どのような結果になったとしても、私達は貴方に感謝を忘れることはないでしょう」
そう言って、老執事は姿を消した。
いや、調理場の案内しないんかい! えぇ、これ俺一人で行けって事? 料理人に叩き出されない? 大丈夫?
クソっ、行くしかねえ! 俺は素材の分からない真っ白な扉を開けた。
……誰もいない。え? そんな事ある? 晩餐会やるよね? 調理場間違えた?
しかし、辺りからはいい匂いがする。大きな鍋の蓋を取ると、たっぷりとスープが仕込まれている。他に目を移せば、厚切りの肉や新鮮な野菜など食材が大量に置かれていた。
もう、スープでいいか。だって、まだ調理されていないし、この食材からどれが使われるのか俺には分からない。きっと人がいないのは、オールバック兄貴が何かしらの号令を掛けたからだろう。だったら、この状況でしか俺が毒を仕込める時間はない。
俺はダルンさんから貰った小瓶を懐から取り出し、蓋になっているコルクを外す。鼻に近付けて嗅いでみるが、匂いはない。
さて、どれくらい入れれば良いだろうか? ダルンさんが言うには、一滴で十分らしいが、それは普通サイズの話、問題はこの大鍋の量だ。万全を期すなら全部ぶち込めばいいのだが、なんか勿体ない。野良のピ◯チュウにマスターボールを投げる感覚に似てる。と言うことで、三分の一入れた。失敗しても、ハイパーボールならまだあるし。ピ◯チュウ如き、いつでも捕まえられるし。
俺は速やかにその場を後にし、ぐるぐると屋敷内を歩き回り、ようやく我が部屋へと戻った。
あ〜、疲れた。後は勝手に盛り上がってくれ。
「アニキ、親父が帰って来ましたけど、どうします?」
「どうしますって、何が?」
「その、挨拶とかしますか?」
何言ってんだ、このバカは? 俺がそんなサイコパスに見えるの?
「いや、会わない。俺の事は話題にしなくていいから」
「分かりました、アニキの事は伏せておきます」
「そうしてくれ。あ、残り物でいいから、食べ物だけ貰える?」
「はい、後で持ってきます」
「ケン、酒は飲むなよ?」
ケンは静かに頷き、部屋から去った。
領主様、楽しんでください。最後の晩餐です。




