お気に召すままに
「アニキ! どこ行ってたんですか!?」
ダルンさんと別れ、領主邸に戻ると、門の入り口にケンが仁王立ちで立ち塞がっていた。
邪魔だよバカ、健気に俺の帰りを待ってたの? いつから? 暇なの? 言いたい事は山ほどあるが、これだけは言わせて欲しい。今度は美人のお出迎えでお願いします。
「領主はまだ帰ってきてないよな?」
「はい、予定では日が暮れる前に到着するはずです」
太陽の位置的に、後二、三時間って所か?
「帰ってきたら、晩餐会みたいなのするの?」
「もちろんですよ、昨日から料理の仕込みを始めてますから」
「分かった、とりあえず部屋で休むわ」
ああ、戻ってきたぞ、我が桃源郷。
俺はベッドにダイブし、思うがままにゴロゴロする。
「それでアニキ、どうする予定ですか?」
普通に部屋まで入ってくるのな。まあ、コイツの実家だから、居候の身としては強く言えないが、敢えて言おう。鬱陶しい。
「大丈夫。策はある」
「どんな!?」
「それより、まず訊きたいんだが、この屋敷にお前の親父を支持している人間は何人いる?」
「分からない。表面的であれば、皆は支持しているよ。けど、爺ちゃんの代から仕えてくれてる人達は恨みがあると思う」
あやふやだな。全員死んでもいいなら、こっちも楽なんだけどなぁ。流石に隠蔽出来ないか? 食中毒で済まないかな?
「派閥があるんなら教えてって、お前の兄さんに訊いてみてよ」
「分かった! 行ってくる!」
バカが元気よく部屋から飛び出した。
別に、オールバック兄貴が領主だけで良いと言えば、俺だって自重する。けれど、後々ソラリオース家と対峙する羽目になる俺からすれば、スパイ容疑が掛かった人間をそのまま雇う度胸はない。
正直に言えば、俺の目的はソラリオース家の壊滅であって、領主殺害に価値はない。そもそもが大義名分を拵える為の準備段階なのだ。
でもさ、俺はダルンさんからいただいちゃったんだよね、必殺の毒をさ。
それで俺は気付いちゃったんだ。これって、俺が単身でソラリオース家に潜入した方が早いんじゃないかって。
ソラリオース家に見習い料理人として潜入すれば、もう勝ち確定よ。後は毒を入れ続け、アルコール摂取するのを待てばいい。
あれ? これ、本当に出来そうじゃないか? だったら、別にこの街にいる必要が……。ああ、ダメだ。ダルンさんに軽蔑される。散々、ケン達をダシにして同情を誘ったからね。軽蔑で済めば良い方だけど、最悪殺される。ステータス1000以上の殺し屋に狙われるなんて、冗談じゃない。
俺が殺し屋ダルンに戦々恐々としていると、部屋がノックされる。
「どうぞ」
「お邪魔するね。弟から派閥関連の話を訊かれたよ。その上で質問するけど、タロウ君はそれをどうにか出来ると?」
「貴方が望むのなら」
「……そうか。なら、近い内に我が家に仕える人間が三分の一程いなくなるかもしれないな」
「そうですね、もしかしたら今晩にでも何かあるかもしれません」
「私に出来ることは?」
「まず、確認を。領主はお酒を嗜みますか?」
「ああ、浴びる程」
あっぶねえぇぇ! 貴方が望むのなら(キリッ とか格好つけて言ったけど、領主が下戸だったら詰んでたわ。
「結構な事です。では、俺を調理場へ案内してくれる人間を貸して下さい。それと、晩餐会ではくれぐれも酒を口にしてはならないと、お仲間にお達し下さい」
「分かった。酒だけで良いのかい?」
「はい。今日明日はお酒を口に入れないで下さい。死にますから」
オールバック兄貴はごくり、と喉を鳴らし、静かに頷いた。




