恐ろしい子
「それで、タロウさんの相談事とは?」
カフィを一口飲み、ダルンさんが口を開いた。
さて、どう説明しようか。この聖人君子が納得できる術を、俺は持っているのか? 大体、俺自身が納得してないからね。バカがバカを祀り上げて、バカやってるだけだから。
でもこの場合、もしかしたら、領主のバカ息子がした説明で十分かもしれない。だって、相手がダルンさんだから。
問題があるとすれば、ダルンさんの柔和な表情からは想像がつかないが、歴戦の猛者だという点だろうか。恐らく、旅先で野盗に襲われた事だってあるはずだ。そこで穏便に話し合うような腑抜けでは、生き残ってはいられまい。けれど、ダルンさんが積極的に相手を害するようにも思えない。火の粉は払うが、火の中には入らない、そんな危機管理能力がダルンさんには備わっているはずだ。俺はそれを掻い潜って説明しなければならない。
……いや、無理だから。ケンにすら騙される俺が、ダルンさんを出し抜けるとでも? そんな中途半端な事をするより、真摯に向き合った方がダルンさんには効果的だろう。
「実はここ数日、領主邸でお世話になってまして」
カフィに手を伸ばしていたダルンさんが、ピタリと止まった。
いやいや危機管理さん、仕事早すぎだよ! まだ何にも話してないよ? ええい、押し切れ!
「そこで領主のご子息から依頼を請けたのです」
「あの、すみませんタロウさん、残念ながら――」
「それは領主の暗殺、更にはソラリオース家の壊滅を望んでいるようです」
「タロウさん、私にはとても――」
「ハッキリ言って、俺の力では無理です! ですが、俺はこの依頼をやり遂げなければなりません。なぜならば、現領主の非道な行いを耳にしてしまったから!」
「……非道な行い、ですか?」
おっ? さっきまで帰りたいアピールしていたダルンさんが、こちらの話しに聞く耳を持ち始めたぞ。良い傾向だ。
「はい。俺がこの街で捕まった理由を、ダルンさんはご存知ですか?」
「ええ、確か指名手配犯のジークが関係してますよね?」
ありがとう、ダルンさん。クソジジイの名前を忘れていた俺にとって、その合いの手は素晴らしい。
「そうです。ジークはなぜ指名手配犯になってるか分かりますか?」
「噂程度でしたら。確か、前領主であるザリゲニウム様を殺した罪だとか」
ザリゲニウム? 誰それ? そう思っても口には出さず、俺は神妙な顔をして静かに頷く。
「それが仕組まれた殺人だったら、どうします?」
「まさか! でも、確かに言われてみれば、ジークはどうやってザリゲニウム様を殺したのでしょうね? 身内からの密告? いや、それだけでは足りない。あっ! さっき、ソラリオース家と言いましたよね? だとしたら、マフィアが後ろにいることになる。そうか、領主様はイメガの出身だった。つまり、仕組まれたとは、そういう事か」
えっと、ダルンさんは何者なの? 恐ろしいまでに呑み込みが早いのだが。もう俺が言う前に、マフィアが絡んでるって気付いてるし。そして、もう答えに辿り着いてるっぽい。ダルンさん、恐ろしい子。
「なるほど、タロウさんの苦悩がやっと分かりましたよ。確かに相手がソラリオース家となれば、いくら領主の権限を使っても軍は動かせないですからね。そしてそれを許す領主でもない。だから、暗殺ですか」
「難しいですよね? でも俺は、あの子達に笑っていて欲しいんですよ」
嘘である。ケンもオールバック眼鏡兄貴も死んでしまえって思ってます。
「あの子達、というのはご子息達ですか。なるほど、タロウさんは人が良いですね」
ありがとうダルンさん。あなたの目が節穴で、俺は幸せです。
「そこでご相談なのですが、彼等の前であまり手荒な真似をしたくはなくてですね、賢者であるダルンさんの助言を戴きたいのです」
「タロウさんは煽てるのがお上手だ。正直、話を聞く前でしたら断っていましたが、事情を知ったからには仕方ありませんね。さて、助言ですが、タロウさんは宜しいのですか? こんな若輩者に教えを請う事は恥だと感じませんか?」
何を言ってるんだ? 教えてもらうのが恥だって? バカバカしい。俺はこの世界から抜け出せるのなら、誰にだって全裸土下座する所存である。無用な心配だ。
「無知は罪。俺の故郷の格言です」
「承知しました。私が知ってるあらゆる暗殺方法を教えましょう」
やったぜ! ……あらゆる暗殺方法? 知ってるんだ、あらゆる方法を。ふーん……怖っ!
俺は密かに、ダルンさんを恐れ慄いた。




