表裏一体
「お久しぶりです、タロウさん。街に居るという事は、無事に問題が解決したようですね」
そうだった、ダルンさんと街の中で会うのは初めてだった。俺がクソジジイの孫とかいう意味不明な嘘をついたばかりに……。
「あの、ダルンさんにご迷惑は掛けなかったでしょうか?」
「ハハハ、旅人にとって、あの程度なら些事ですよ。お気になさらないで下さい」
という事は、やはり何かしらの面倒があったのか。それをネチネチと責める訳でもなく、むしろこちらに配慮する精神性。この人、聖人か? 良い人だとは思っていたが、ここまでくると何かしらの欠落を疑ってしまうのは俺が汚れているからか?
「あの、本当にごめんなさい。何か奢らせて下さい」
「いえいえ、それはお気持ちだけ戴きます」
何なの? この人、貸しを作ると死んじゃうの? 頼むから奢らせてよ。俺の罪悪感を晴らしてよ。でもさ、現実にもこういう人はいるんだろうね。俺は会ったことのない人種だけど、何故か対処方が分かる。それはきっと、性根が表裏一体だからだろう。俺が裏側で、ダルンさんは表側。つまり、俺は悪。はぁ、自分で言うと気が滅入るな。
「でしたら、俺の相談に付き合ってくれませんか?」
「相談ですか? ええ、まあ、私で宜しければ」
「では、どこかお店に入りましょう。静かな所が良いんですが、ダルンさんはご存知ありませんか?」
「そうですね、近くに小さなカフェがあります。そこでしたら、静かだと思いますよ」
「案内をお願いします」
そしてダルンさんに先を歩かせ、俺はそれにボケっとしながら付いていく。
どうよ? 恩人なのに堂々と案内させる鬼畜の所業。それに何の疑問も持たないダルンさんの品格。まさに、表裏一体。
ここです、と案内された店は、確かに小ぢんまりとした、けれどどこか暖かみがある店だった。森の喫茶店という名前を付けたい。そんな趣がある。
店の中に入り、窓際のテーブル席に座った。切り株で作られた椅子に木目がはっきりしたテーブル、この空間だけ空気が澄んでいる気がした。
「ここはカフィが人気ですよ」
「カフィですか? もしかして黒い液体ですか?」
「そうです、カフィ豆を焙煎した飲み物です。どうやらタロウさんは既に知っておられるようだ、これではジュゲムにポッポーですね」
え? なんて? カフィはコーヒーで間違いないとして、ジュゲム? ポッポー? 話の文脈から察するに、釈迦に説法的な言い回しだろうか? 思い出した。前回も、ダルンさんは度々こういう俺の知らない単語を口に出し、俺はそれに愛想笑いで返していたっけ。
「私はカフィにしますが、タロウさんはどうしますか?」
「では、俺も同じものを」
ダルンさんが注文をし、カフィを待つまでに少しの間が空いた。
この、親しいけれど決して友人ではない、微妙な距離感での少しの間。これが俺は本当に苦手だ。友達三人で遊んでたら、急に一人帰って残される俺ともう一人の感覚に似ている。決して嫌いじゃない、けれど中継役がいなければ成立しない関係性。あれ? それって友達じゃなくない?
「そ、そう言えば、あの人混みの中で、よく俺だと分かりましたね。自分で言うのもなんですが、以前の酷い服装と違いますから、ダルンさんでも気付かないと思ってました」
「ああ、そうですね、確かに今のタロウさんは、失礼な言い方ですけど、ちゃんとした旅人、もしくは冒険者の格好ですね。ですが、私がタロウさんに気付けたのは、格好ではなくて、前にもお話した威圧感のお陰です」
あー、はいはい、威圧感ね。羽虫から漏れ出してる電波みたいなやつ……ん?
「もしかして、今も感じてますか?」
「ええ、その帽子の上から感じますね。でも、タロウさんの人隣を知るにつれて、気にしてもしょうがないかなって考えてます」
ダルンさんマジ聖人! というか、この街に入って誰一人として威圧感について教えてくれなかったな。羽虫曰く、強者しか気付かない、なんて言ってたけど本当かよ? それだったら、ダルンさんが強者になっちゃうよ?
「あの、不躾な質問で申し訳ないのですが、ダルンさんはお強いのですか?」
「いえいえ、私なんて木っ端ですよ」
ああ、そうだよな。そう答えるよな、この人の場合。
「聞き方を間違えました。ダルンさんのステータスを教えて下さい」
「良いですけど笑わないで下さいね、私なんて1000ちょっとですよ?」
笑わないで下さい? ごめんね、腹の中で笑っちゃったよ。引き笑いだけどね。
1000ちょっと? 鬼強じゃん! ワイバーンレベルが人の形してるんですけど? それは良くないよ、ダルンさん。冒険者全員を敵に回す発言だよ。
「ダルンさん、ハッキリ言いますけど、あなたは強い。それを謙遜しちゃダメだ」
「いえ、あの、謙遜しているつもりはなくてですね、色々な場所を旅してきて私以上の人とかザラに居たので、強さとか本当に分からないんですよ」
マジか。こんなレベルがゴロゴロいるの? そりゃ感覚も麻痺するか。
しかし、色々な場所を旅してきた、ねぇ。もしかして、暗殺するのに必要な物も知っていたりする? いや、本当はダルンさんに相談するつもりなんてなかったんだよ? 迷惑掛けて、どの面下げてって俺なら思うからね。更に問題は領主の諍いに留まらず、マフィアにまで及ぶときたら、流石のダルンさんもブチ切れるかもしれない。
でも、ごめんなさい。本当に困っているんです。
俺は心の中で謝罪をし、運ばれてくるコーヒーの匂いに集中を割いた。




