魔法ってキレイ
さて、邪魔なモヒカンはいなくなったものの、如何せん目立ち過ぎた。ざっと数えると、十数名ほどの目撃者がいる。
多くない? ケンが言うには、この街の冒険者は二十人程度じゃなかった? 何で昼間なのに出掛けないの? さっさと冒険しに行けよ。そして不慮の事故で記憶を失くしてこい。
待てよ、もしかして酒盛りしてるアホ共は、冒険者じゃないのか? ただのアル中か? だとしたら有り難いんだが、服装を見て落胆した。ガチガチの防具を着けてる奴しかいなかった。はぁ、コイツら冒険者だわ。
もういいや、今日はケンのマフィア仲間を確認して帰ろう。どっちにしろ、明日にはケンの親父が帰ってくるんだし、そうなれば俺がキルするんだから、冒険者には後日改めて依頼しよう。どうせコイツらは金で釣れるでしょ。じゃなければ、冒険者なんてバカな職業に就かないよ。ベーリング海で蟹漁してた方が安全な時点で、冒険者のイカれ具合がよく分かる。
さてと、ケンのバカは……いたいた。あんな端っこにいやがった。そして不自然なほどに、誰もそこに近付かない。エアポケットかな? どんだけ避けられてんだよ、笑える。
マフィアのお友達は三人いた。赤頭、青頭、黄頭……信号機かな? 坊主なのに目立つって、もはやデバフでしかないよね。でも、俺とっては覚えやすいので、そのままの姿でいてくれると有り難い。
確か、マフィアの冒険者は二パーティーの六人って言ってたっけ。あの信号機は同じパーティーだとして、もう一組が見当たらない。冒険中かな? マフィアのくせに真面目かよ。
兎にも角にも、ここでの俺の役目は終わった。もう一組のマフィア冒険者は、信号機の誰かと行動をしていれば、確実に分かる。だから、もう帰りたいのだが、ケンが一向に帰る素振りを見せない。むしろ、話に夢中だ。
あいつ、もうマフィアでいいだろ。打ち解けるにも程がある。何が、マフィアを潰したい、だ。本当にその覚悟がお前にあんの? むしろ、最終的に裏切られそうなんだけど。
でもなぁ、認めたくないけど、ケンは策士なんじゃないかと思ってる。バカだけど。だって、そうでも思い込まないと、俺の精神が耐えられないから。バカだと見下していた奴に、まんまと踊らされた俺はどうなる? 嫌だ! 考えたくない! きっとケンは今この状況でも、マフィアについて探りを入れているに違いない! よし! 帰る!
自分に暗示を掛け、俺はギルドを出た。
俺が出た途端、ギルド内から楽しそうな声が聞こえてきた。泣きません、勝つまでは。
つーか、帰り道が分からん。ま、大通りを歩いて、そこら辺の住民に領主邸の場所を訊けば分かるか。
そう思い、歩こうとしたら、ガキン、と鈍い音が聞こえた。そして、足元に小型のナイフが落ちる。
は? 何これ? 俺に投げられた?
「てめぇ! 防いでんじゃねーよ!」
目の前にはピンクのモヒカン。俺は盛大に溜め息をついた。
「何なのお前? これって、殺人未遂じゃないの? 捕まりたいの?」
「はっ! 殺人? これは正当防衛だ!」
モヒカンは包帯でぐるぐる巻きになった手を見せてくる。
ふーん、正当防衛って、この世界にもあるんだ。良いこと聞いたな。殺したら、問答無用で捕まるもんだと思ってた。
「じゃあ、俺がお前を殺しても、正当防衛だよな?」
「お、おい! やれ!」
モヒカンが後ろに声を掛ける。
ん? まだ他にいんのか? 鬱陶しいな。
そう考えていると、モヒカンの後ろから黒いローブを纏った人物が出てきた。頭からローブを被っているので、男か女か分からない。
なんか魔法使いみたいだな、と思っていると、知らない言語を唱え始め、手のひらから火を生み出した。
それはみるみる内に大きくなり、あっと言う間にスイカ程の大きさとなった。
本物の魔法じゃん! うひょー! 有るとは聞いていたけど、見るのは初めてだ。俺だって使いたいが、なんせ魔力が足りないからね。おっと、興奮してる場合じゃないか。
「モネ、あの魔法は防げる?」
「余裕」
頭上の羽虫は、本当に戦闘面では頼もしい。
そしていよいよ、ファイアボールっぽい名前の魔法が俺に向けて放たれた。
スピードは速くもなく、されどゆっくりでもない。その火の塊は、俺の目の前で消失する。キレイ、花火みたい。
俺が無傷なことに呆然とするモヒカンや黒ローブ。我に返ったモヒカンが、黒ローブに檄を飛ばす。
おお、今度は火の塊が二つになった。これもキレイ。
さて、と。先ほどから住民がキャーキャー騒いでいることだし、これで目撃者の心配はいらないな。どう考えても、正当防衛でしょ。
「問題は、俺の攻撃が効かないことだよな」
「そのまま突っ込めばいい」
なるほど、堅牢な盾は最強の矛にもなると。やってみよう!
俺は助走をつけ加速し、モヒカンにタックルした。俺のスピードは、ハッキリ言って遅い。けれど、ぶつかったモヒカンは、空中で独楽のように回転し、何とか人の形を保った塊となった。
それを見て、逃げようとする黒ローブ。逃がすと思うのか? 全力ダッシュで轢いてやった。
あ〜、良いことすると、気分がいいね!
俺は足取り軽く、帰路へと向かった。




