冒険者ギルド
麻の長袖にズボン、長袖の上から青のベストを身に纏う。テンガロンハットを被り、腰には短剣をぶら下げた。良いじゃないか。荒野のガンマンスタイルを一度はやってみたかったのだ。
初めは、高級そうな生地で作られた仕立ての良いフォーマルスタイルを用意されていたが、丁重にお断りした。レストランに行くのなら最高だが、これから行く場所は冒険者ギルドだ。絶対に目立つし、鴨ネギとして狙われるのがオチだろう。
「準備出来ましたか? それじゃ行きましょう!」
俺はまじまじとケンを見る。
こいつに至っては、フルプレートアーマーを装着している。それって、隊長格がやっと使える装備じゃないの? 何で自前で持ってんだよ、このボンボンが。
「先に屋敷から出てくれ。俺は見失わない程度に後を付いていくから」
「一緒に行かないんすか?」
「お前の知り合いだと思われる可能性を、極限まで減らしたい」
「ああ、マフィア対策ですか、了解です!」
そう言い、ケンはガチャガチャと音を鳴らしながら屋敷を出て行った。
はぁ~、外に出たくない。ずっとこの屋敷で暮らしたい。叶うのなら、ベッドで過ごしていたい。
―――
かれこれ三十分は過ぎているが、一向に着く気配がない。
それもそのはず、あのバカはフルアーマーのせいで歩くのが遅い上に、知り合いの住民と会えば一々立ち止まり、それから話し始めて笑い出す。クスリでもやってんのかコイツ。離れた距離を保ってる俺にまで届く笑い声は、どうしようもなく神経を逆撫でする。
だってさ、その間俺が何してたと思う? 空を見上げてみたり、意味もなく考え込む仕草をしたり、家屋を眺めて軽く頷いたりもした。それでもせいぜい五分が限界だよ。いっそ屋敷に帰ってしまおうかとも思った。けれど、それは叶わなかった。もう来た道を忘れていたんだから。
俺の記憶力が薄弱なのは認める。でも、あのバカも悪い。多少回り道になっても、大通りから逸れずに進むべきなんだよ。それを路地裏に入ったり、かと思えば、また大通りに出たりしてさ、俺を撒く為なんじゃないかって本気で疑ったね。
ようやくバカが一つの建物に入っていった。恐らくあそこが冒険者ギルドだろう。違ってたら、自分を抑える自信がない。
見た感じ、普通の木造建築だな。スキー場にある山小屋って感じ。大丈夫? 燃えない? さっき見た家の方が、よっぽど丈夫そうな造りをしていたけどな。多分あれは石を加工してたと思う。ま、いいか。ここが燃えようが知ったこっちゃないしな。
入り口の扉は、今の俺の姿に相応しく、アメリカンな両開きスタイルだった。
中は想像以上に広く、どうやら飲食も提供されているようだ。
物珍しさでキョロキョロしていると、ピンクのモヒカンと肩がぶつかった。
「痛っえなぁコラ! 折れちまったじゃねーか!」
マジか。お約束はここではいらないです。どうしよう? 周りを見渡すが、皆一様にニヤニヤしてやがる。助ける気は皆無らしい。あ、そう。しょうがない、俺もお約束に付き合ってやるよ。
「やれやれ、ここの冒険者も質が落ちたもんだ。俺が誰だか知らないのか? ワイバーン殺しのこの俺を!」
はぇ~気持ちええ! ドヤるのは堪らんね。ふふ、皆もざわついてやがるな。
「安心しろ、今日の俺は機嫌が良い。さっさと失せな」
「はぁ? てめぇ何言ってんの? ワイバーン殺しだぁ? 上等じゃねぇか、丁度ワイバーンを狩る予定だったんだわ」
えっ? 嘘だろ? お前、そんなレベルの冒険者なの? ただのヤラレ役じゃないの? そんなヒデブって言いそうな世紀末感出して?
「オラ、死ねや!」
その蹴りは避けること能わず、さりとて防御も不可避な一撃なり。まさに必殺。
「ヒデブっ!」
俺はド派手に吹き飛び、転がりながら、どす黒い血を吐いた。目がチカチカしたかと思えば、世界が暗転した。
【DEAD END】




