鎌痛しの夜
さて、ここがゲームの世界だと思い込んだ俺は、先程まで感じていた未知なる不安を、完全ではないものの晴らすことができた。やはり、人が介在する点は安心が段違いだ。
これが神とか呼ばれている不確かな存在だったのであれば、俺は未だに疑心暗鬼の塊と化していたことだろう。さすがメイド・イン・ジャパン! いつでも安心安全を与えてくれる。
……ジャパンだよね? なんかちょっと不安になってきた。だってさ、あのスライム見た? あんなに堂々とパクるなんて、某国がめっちゃしそう。
もしかして、日本語が通じないのかな? だからさっきの、決死の叫びが伝わらなかったのかな? けどなぁ、某国の言葉話せないしなぁ。しょうがない、世界共通語を使うか。俺のバイリンガルが火を吹くぜ!
「ヘルプミー! アイムTOTO! レッツゴー!
オーケィ?」
これほどトイレに行きたい感情を表現できる自分の才能が恐ろしい。きっとどこの国でもトイレまっしぐらだろう。
……あ~はいはい、無視ですか。クソがっ! ここから出たら、レビューサイトでボロクソ書いてやる!
しかしながら、ここまでの放置プレイはさすがに経験したことがない。実家の犬より待てが出来ない俺には、苦痛以外の何物でもないな。
だからと言って、積極的にゲームをするつもりなど微塵もない。痛いのは嫌なのだ。スライムにすら殺される俺は、下手に動かず粛々と時が経つのを待つしかない。
それに、あのスライムが特別仕様のクソ強モンスターだったとしても、自分の強さが分からないのであれば無駄な考察にしかならない。
無駄にはならない? 何回も戦えば、クセを見抜ける? バカおっしゃい! その何回かは確実に死ぬじゃないか。言っておくけど、ここでの死は半端じゃないからね。想像を絶するって、こう言う事かと納得したもの。あ、思い出したら、吐き気がしてきた。
つまり、だ。俺が取れる選択肢は、戦わずして勝つ! これしかない。その為には、運営とのチキンレースを始めなければならない。
まず大切なことは、死に戻った場所から動かないこと。ここは何の変哲もない場所に見えるが、セーブポイントであるはずだ。よって、モンスターから襲われる心配なし! ふふふ、勝ち確が見えてきた。
さらに追撃を行う。観測している中で、最も退屈なことの一つは、寝ている所だと俺は思う。変わり映えしない画を見続けるなんて、気が触れてもおかしくない所業だよ。だからさ、良いよね? 俺を苦しめるんなら、俺がお前らを苦しめてもさぁ?? 惰眠を貪り尽くす俺を、どうぞご堪能ください。
俺はニチャぁと笑いながら寝そべる。
お・や・す・み笑
――「ギャッ!」
ぐーすか寝ていた俺を、鋭い痛みが襲った。
慌てて目を覚まし、何事かと痛みの原因を探る。肩から血が噴き出ていた。
辺りは夜の帳が降りているらしく、目が慣れるまで警戒をしながら肩を抑えた。
すると、カオ◯シのような白いお面にボロを纏ったヤツが、宙に浮きながらこちらへ漂ってくる。大きな鎌を構えながら。
「そ、ソーリー、ごめんね、許して」
必死に懇願する姿勢を見せたが、相手の表情が読み取れず、只々困惑するしかない。
あ~、肩痛ぇ。絶対あの鎌のせいだろ。何でここに来たん? セーブポイントじゃないの? バカなの運営?
瞬間、鎌が視界から消えた。
俺は首を飛ばされた。
【DEAD END】