バカとハサミは使いよう
肩書きが人を作る、とはよく言ったもので、適当な役職を与えてやれば、人間は馬車馬のように働き出す。どうやらそれは、このゲームのNPCにも当てはまるらしい。
俺がチリンチリンして紅茶を飲み、ひとっ風呂浴び、美味しい料理に舌鼓を打ち、ぐっすり眠っている間にも、ケンは街を駆けずり回り、俺が必要とする情報を集めていた。因みに、俺は何が必要な情報なのか分からない。答えのない答えを探すという無理難題も、俺という上司にとっては娯楽、もとい、試験なのだ。
「アニキ! 肉肉亭の看板料理に野菜が追加されました!」
看板に偽りありだな。 ……で?
「アニキ! 魚屋の息子が結婚しました!」
おめでとう、祝福を祈らせてもらおう。会ったことないけど。
「アニキ! 何で空って青いんすかね?」
さあね。空に訊いてみれば?
……と、このようにケンが持ってくる情報は、どれもこれも井戸端会議の範疇に収まる程度の物だった。正直、まったく使えない男である。
いや、意地悪な問題を提示している俺が言うのも何だけど、もっと刺激的な出来事はなかったのかね? どれもこれも平和そのものじゃないか。アズーレの街は相当治安が良いのかな?
「治安ですか? まぁ、普通だと思いますよ。ウチもマフィアと折り合い付けてるんで、抗争までは行かないですね。あっ! そうだ、忘れてました! 路上に猫がいるんですけど、その猫が――」
「ちょ、ちょっと待った! 猫は一旦置いておこう。え? 何? マフィアが何だって? ウチって領主って事?」
「はぁ、そうっすね。俺の親父が現当主なんですけど、アズーレ仕切ってるマフィアの頭と仲良いんですよ……で! 猫なんですけど、その猫がなんと――」
「猫じゃない! 今は猫の時間じゃない! 何なのお前? 猫に取り憑かれてるの? どう考えても、今はマフィアの話をする所だろうが……ん? もしかして、お前、意図的に避けてる?」
ケンは不貞腐れたように顔を背けた。分かりやすいバカは嫌いじゃないよ。
「おいおいケン、らしくないじゃないか。いつもの猪突猛進は何処行ったんだ? それで? 気に食わないのは親父さん? それともマフィア?」
「……どっちもだよ。じいちゃんが殺された原因はジークだけど、ジークを匿ってたのはマフィアの頭なんだ。それを知ってるくせに、仲良くしてる親父にも腹が立つ!」
えっと、待って、情報を整理させて。ジークは散々名前が出てきたから嫌でも覚えた。クソジジイだ。ん? クソジジイをマフィアが匿っていた? つまり、マフィアの仲間、或いは取り引き相手? そいつを殺した俺はどうなる? 待て待て待て、落ち着け! ここは領主邸だ! マフィアだって迂闊に手を出せんはずだ……現当主はマフィアの頭と仲良し? はぁ? ゴッドファーザーかよ。
「なあ、そう言えば、ケンの兄さん以外、お前の家族と会ってないんだけど、何処かに行ってるのか?」
「ええ、両親は隣街まで出掛けてます。あと、三日程で帰ってきますよ」
三日! クソっ! もっとゆっくりしていたかった! 三日で対策を立てねば! 何に対しての対策かは分からんが、俺の勘が警鐘を鳴らしている。
「ねえ、俺って恩人なんだよね? おじいちゃんの仇を討ったんだから、ケンの親父さんも溜飲が下がるよね?」
「……親父はじいちゃんと仲悪かったんですよ。元々婿養子で肩身が狭い思いはしてたと思います。でも! 殺すことないじゃないか!」
ケンは、ハッとした顔になり、口を手で塞いだ。
遅えよバカ! ちゃんと聞いちゃったよ! どうすんのコレ? こんな秘密知って無事で済むか? 済むわけないよな。あ~あ、三日で出ていかなきゃだよ。なるべくコソコソと逃げよう。遠くへ行こう、何処までも遠くへ。
まぁ、三日はしっかりと休ませてもらうけどね。




