旅は道半ば、世は情け無用
「タロウは土下座がよく似合う。一種の才能」
そんな才能いらねぇんだよ。つうか、どこ行ってやがったポンコツ! ん? なんかソースの匂いがするような。
俺は頭を上げて、羽虫を探す。
「おいオッサン! 何勝手に頭上げてんの? まさか調子に乗ってる?」
「タロウ、この騒がしいアホ面は誰? とても不快」
どっちもうるせぇ! 同時に喋るなよ。俺の口は一つしかないんだから、急かすなバカ共。
……待てよ、羽虫がいるんなら、律儀に土下座しなくていいじゃん。
「てめぇ! 何土下座止めてんだよ! ゆったり寛いでんじゃねーよ!」
うるさい若造は無視して、羽虫に視線を向ける。
「モネ、どこに行ってた?」
「プライベート」
「聞き方を変えようか。何食べた?」
「驚愕。タロウ、エスパー?」
いや、お前の口周り、ベットベトだから。気付かない方が無理だから。
鉄格子の向こうで、カシャンという音が聴こえた。若造がボウガンを手にしている。
マジか。もう我慢の限界なの? 沸点低すぎるだろ。よくそれで看守できてるね。いや、出来てないかー。みまもる、ことが看守だもんな。手、出してどうすんのよ?
「モネ、あのバカは俺を殺すつもりだ」
「そう。もしかして死んだ?」
「うん、君が離れている間にね」
「突然の告白? 離れたくないという独占欲?」
ちげーよ! ただの嫌味だよ! お前がほっつき歩いてるせいで死んだの!
「とりあえず、結界を張ってくれない? ほら、あのバカが狙いをつけてるから」
あぁ、そういや死んだから髪が元に戻ってるんだっけ、と俺は頭の天辺を触る。ん? 髪がないんだが? そこへヒラリと羽虫が頭頂する。
カン、と乾いた音が鳴り、矢が俺の足元に転がる。どうやら、結界は作用しているようだ。だが、今はそんな事どうでもいい。
「モネ、俺の髪が生えてないんだけど」
「? 元から生えてない」
「元は生えてたわ! モネの都合で毟られただけで、ちゃんとフサフサですが!?」
「死ぬ度に毟るのは面倒。だから、仕様にした」
はぁ? 何いってんだこの羽虫。仕様にした? どういう意味? まさか、この河童ヘアが固定されたって事じゃないよね?
「つーか、さっきからカンカンカンうるせぇよ! 一発弾かれたら理解しろよバカ! てめぇの髪も毟られてぇか!?」
若造はビクっと後ずさるが、尚も睨みつけながらボウガンを構える。
ふふふ、はははは! クソったれが! いい度胸だ、マジで毟ってやる!
「貴様! 何をしておる! バカモンが!」
突然の怒鳴り声と共にバカが吹っ飛ぶ。現れたのは、完全防具の大男。どうやら、その大男がバカを殴ったらしい。
「止めないでくれよ先輩! あのクソッタレの孫がのうのうと生きていることに俺は我慢ができない!」
「落ち着け! まだ事情聴取すらできてないんだ。あの男がジークの孫だと決まったわけではない」
「けど! 先輩は俺が兵士になった理由を知ってるだろ? 俺にはあいつを裁く権利があるはずだ!」
「お前の爺さんがジークの被害者だということは理解している。だがな――」
なんか、作中劇が始まったんですけど。いつ終わるのこれ? 長々と話し込んでるけどさ、ゲームにしてもそうなんだけど、俺はこういう場面って大抵スキップして進めるプレイスタイルなんだよ。だから本筋と関係ない話をされても困るんだよね。そもそも人の話を真剣に聞くのは、五分が限界なんだよ。後は適当に愛想笑いしとけば、何とかなるもんだよ世の中。
まあ、でも大体は理解した。ジーク? ジーコ? のクソジジイのせいってことでオーケー? やっぱ碌でもないジジイだな。死んでヨシ!
「なあモネ、あの二人のステータス分かる?」
「大男は500ちょい。バカは10くらい」
差がありすぎー。マジかよバカ、お前そんなんでイキってたのかよ。俺じゃなかったら死んでるぞ? つうか、さっき殴られてよく死ななかったな。大男の手加減が絶妙なのかな? 少なくとも、バカよりは信用できるかもね。
「あのー、すみませーん。俺はジジイの孫じゃありませーん」
俺の声に、二人の話し合いがピタリと止んだ。
「オッサン! 死にたくないからって、今更命乞いしてんじゃねーぞ!」
「いやいや、本当だから。だってジジイ殺したの俺だし」
静まり返る中、大男が問いかける。
「君がジークを殺した? 証拠はあるかね?」
「証拠? うーん、鑑定とかってある? え? 何モネ? え、ないの? じゃあ、俺の持ち物探って下さい。あれ、全部ジジイの家から持ってきた物なんで」
「……分かった、すぐに確認しよう。すまないが確認が終えるまでこの場にいてほしい」
「分かりました。よろしくお願いします」
やっぱり常識的な人がいると、会話が楽だね。バカばかり相手をするのも疲れるよ。
「おい、本当にオッサンが殺したのか?」
だからさ、お前も大男についていけよ。なんで俺がお前の相手をしなきゃならんのだ。鬱陶しい。
バカは何度も同じ質問を繰り返し、挙句の果てには自分の過去なんかを涙ながらに話し始めた。止めてくれ。本当にどうでもいいから。
数刻待っていると、大男が戻ってきた。そして俺に頭を下げ、牢を開けた。
何が決め手になったのか聞いてみると、ジジイは被害者の爪を剥いでコレクションにする趣味を持っていたらしい。それが、俺の持っていた鉄貨の布袋から出てきた、とのことだ。悪趣味極まりない。
そして何と、ジジイの懸賞金が出るようだ。後日取りに来て欲しい、とお願いされ、俺は盛大に頷いた。
はぁ~、ようやくシャバの空気が吸える。
何しようかな? まずは街の見学かな。後は出来れば、ダルンさんに謝罪をしたい。迷惑掛けただろうし。
「アニキ! 待ってくれ! 俺も連れてってくれよ!」
……誰だよ、往来でアニキとか呼ぶバカは。
振り向けば、俺を殺そうとしたバカが駆け寄ってくる。
勘弁してくれ。俺は天を仰いだ。




