平身低頭
「おいオッサン! 呑気に寝てんじゃねーぞ! 早く起きやがれ!」
そんな怒声と共に、ガシャンと鉄格子が蹴られる。
モーニン、どうやら俺はぐっすり眠っていたみたいだ。それこそ、看守の兵士が怒鳴り散らす程には。
しかし、だ。俺はここまでの扱いをされるような事をしたのかね? まったく否である。
嘘を付いた事は認めよう。俺があのジジイの孫だって? 冗談は俺の頭だけにしてもらいたい。あの時の俺は情緒が不安定だったんだ。悪かったよ。逆に、よくそんな醜悪な嘘が付けたなと、自分でも驚いているくらいだ。
「それで? 起きてどうすればいいんだ?」
「てめぇ! なんだその反抗的な態度は!」
若い兵士は更に激昂し、鉄格子を蹴りまくる。
反抗的? まあ、囚人の身分でタメ口はあり得ないか。それに、まだ俺は罪について反論していないしな。
「申し訳ございません。どうか、お怒りを鎮めて下さい」
「フンッ、初めからそうしろよオッサン。あんまり俺を苛つかせんなよ」
俺は深々とお辞儀をし、若い兵士を盗み見る。
鎖帷子の上半身に、膝下しかない部分的な防具。完全防具でない理由は何だろう? 屋内だから? それともただ単に重いから? 兜すら被ってないし、得物も見当たらない。いや、これは俺が舐められているだけだな。当たりだよ青年。俺を舐めずに誰を舐めるというのか? 万が一に俺がこのまま強襲できたとしても、簡単に制圧される未来が容易に想像できる。
でもね、舐められるのが当然だと思っているこんな俺でも、自尊心だけは立派に育っているのが問題でして。
つまり、若造が偉そうにすんじゃねぇよという変なスイッチが入ってしまった。
「おやおや、こんな事で苛立つなんて、アズーレの兵士はよっぽどお忙しいようだ」
「あぁん? 何だって?」
若い兵士がギロリと睨みつけてくる。だが、構わず俺は続ける。
「だってそうでしょう? 苛立つということは、よっぽど心に余裕がないか、或いはただ単にその者の資質が短慮なだけなのか。まあ、アズーレの兵士ともなれば前者でしょうけど」
「おいオッサン! てめぇ俺に喧嘩売ってんのか!?」
「まさか! アズーレの兵士に喧嘩を売るなんて、畏れ多い事はしませんよ。逆に聞きますけど、俺なんかが喧嘩を売って、あなたは買ってくれるのですか?」
「上等だよ! 買ってやろうじゃねぇか!」
相当頭にきてるであろう若造は、鉄格子をガンガン蹴りつける。
俺はそれを眺めながら、ほくそ笑む。
あー、楽しい! バカを馬鹿にする事の何とも言えない愉悦。これだからバカって好きなんだよな。
アズーレの兵士は皆がこんな奴ばかりなのかな? それはそれで不安になる。
俺がこうして平然と馬鹿にしていられるのは、俺に尋問としての価値があるから殺されはしまい、という前提の上で成り立っているのだが、末端と言えどこの有り様な兵士を見ると、上官の素養にも疑問を覚える。
まさか、大事な情報源を直情的になって殺さないよね? そこまで馬鹿じゃないよね? 信じてるからね? 会ったことないけど!
刹那、眼前を何かが横切り、ガッと音を立てて石の壁に弾かれる。
は? 矢? なんか見覚えがある矢じり。。
鉄格子の向こうを見ると、若造が俺のボウガンに矢をセットしていた。
マジかこいつ! 俺を殺す気か!? クソっ、バカを馬鹿にし過ぎた! いくら馬鹿でもここまでするとは! あぁ、目がバッキバキにキマってやがる。今から奴が、人混みを車で突っ込んでも俺は驚かないね。あー、失敗した。まさかこんなにキレるなんてね。つーか、てめぇ武器使ってんじゃねーよ卑怯者! アメリカ出身の武道家ケン、みたいな顔しやがって。拳でこんかい!
ふぅ、とりあえず羽虫を呼ぶか。あいつの結界ならボウガンなんて無意味ですよ……で? どう呼ぶんだ? そういえば、なんで羽虫いないの? あいつ、おれから離れられないんじゃなかった? 全然いないけど。どうすんの、これ。ほら、もう矢じりがこっち向いてるんだけど。
俺は素早く土下座をした。
「調子に乗って、すみませんでした!」
直後、パシュっという音が聴こえ、痛みによる刺激、それに伴う熱さ、そして意識が混濁し、暗転した。
【DEAD END】
―――
「おいオッサン! 呑気に寝てんじゃねーぞ! 早く起きやがれ!」
俺はガバっと身を起こし、若造に向けて土下座した。
このバカ、本当に殺しやがった! しかもセーブポイントがここに更新されてやがる。クソッタレ!
「おうおう、ちゃんと弁えてんじゃねーか。ずっとその姿勢でいろよ?」
あぁ、神様、どうかこのバカに馬鹿な死に様をお願いします。
俺は虚しく祈りを捧げた。




