アズーレの街
さて、何から話そうか。
お人好しダルンさんとの会話は、俺にとても有意義な時間をもたらしてくれた。
本当に色んな事を質問したんだ。
でもさ、問題は何一つ俺が要領を得られない点なんだ。
アズーレは何とか覚えた。街の名前だからね。けれど、ダルンさんとの会話の最中にちょくちょくカタカナの知らない単語が出てくると、俺としては一旦その単語の意味を教えて欲しいのだけれど、笑顔を見せながら教えてくれるダルンさんに申し訳なさが勝って、俺はそれらの問題をスルーしてしまう。そうすると、更に分からない単語が出てきて、こちらとしてはお手上げ状態になってしまう。もちろん、ダルンさんは悪くない。悪いのは俺の脳みそなんだから。
思えば、そういう悪癖は昔からあった。ゲームでもスキップを多用して、何が物語の本筋かを理解出来ずに進め、最後にボスを倒してもお前結局なんだったん? という状況に陥る。シナリオライターからすれば、憤慨ものだろう。
本筋すら理解出来ずに進めてしまうのだから、それらに付随する、重要なキャラクターの名前や行動原理なんて知る由もない。いきなり父の仇! とか言われても、こちらはポカンとするしかないのだ。
でも、だからってダルンさんとの時間が無駄だったとは思わない。そりゃ、知らない単語が出てくると愛想笑いで誤魔化してたけど、それ以外の単純な言葉のやり取りは、俺にとって新鮮だった。
ダルンさんは三兄弟の末っ子で、自由に旅をするという夢を応援してくれた家族に感謝しているらしく、いずれは恩返しがしたいと考えているようだ。
俺はこの話を聞きながら、羽虫が使うNPCという言葉に疑問を抱いていた。
どこがNPC? 一辺倒の答えしか返さないそれらと、目の前にいる家族想いのダルンさんを同一視しても良いものだろうか?
恐らく、このゲームに於いてはこれがNPCという概念なのだろう。ただ、俺の予想より数段人間らしさが増しているだけで。そう考えずにはいられないほど、ダルンさんは人間味が溢れていた。
だからこそ、俺は困惑した。もしかして、俺が殺したジジイも、何かしらの理由があったのではないかと考えてしまう。
家族はいたのか? 仲の良い人は? 恨まれるんじゃないか? 俺は柄にもなく怯えたんだ。
そして審判の時が訪れた。
始めの躓きは、街の入り口で衛兵に止められた時だった。
俺の荷物を見て、ジークだかジーコだかの恐らくジジイの名前を口にし、俺との関係を聞いてきた。
さっきも言ったように怯えていた俺は、咄嗟に孫ですと嘘を付いた。
本当か! と迫力満点に問い詰められたら、嘘ですなんて言えないよ。だから、涙を流しながら、ジジイが熊に喰われた様子を震えながら話したんだ。きっと、傍目には憐れな孫として認識されていたはずだ。
しかし、それがいけなかった。
なんと、あのジジイ、指名手配犯であった。
そして、そのジジイの孫という迫真の演技をしたバカな俺は、地下牢に入れられ、ジジイ関連の尋問を待つ囚人となった。
あぁ、別れ際のダルンさんの苦しそうな表情を思い出す度に、申し訳なく感じる。恐らく、ダルンさんも尋問されるはずだ。俺とどういう関係なのか、と。
まったく、本当に嫌になる。死んだ後でも迷惑を掛けるジジイにも苛立つし、そんなジジイを少しでも憐れんだ自分自身にも腹が立つ。
唯一の幸いは、皮肉にもこの地下牢では安全に眠れるということだろうか。モンスターはやってこないだろうし、足も伸ばせて眠れる。床は固いが、安心安全だ。
とりあえず、冤罪なのだから眠らなきゃ損ですわ。オヤスミ。




