チュートリアルって、必要だよね?
戻ってきたぞ! 我が草原!
いやー、レベルアップって凄いね。1しか上がってないけど、前の俺からすれば2倍の身体能力だからね。
正直、簡易背負子にあれこれ積み込んだ時、これ担げるか? って疑問に思ったけれど、意外と余裕だったもんな。逆に、椅子の背もたれがぶっ壊れないかが心配だった。
後、控えめに言って、靴が最高!
移動する度に傷を負ってたのが嘘みたいだ。
裸足? バカじゃないの? 流行が数世紀遅れてるよ? このように、俺はこれから裸足民にマウントが取れるようになった。そもそもそんな奴がいるのか知らんけど。
さて、俺としては一刻も早く街へと向かいたいわけだが、如何せん日が暮れてきた。夜になればヤツが動き出す。そう、死神君だ。
「タロウ、腹ヘリ。肉を所望する」
……こいつ、いつも腹減ってんな。燃費悪すぎじゃない? アメ車かよ。でも、ここで機嫌を損なわれるわけにはいかない。こいつに結界を張ってもらわねば、俺が死ぬ。
「とりあえず、乾パン食べといて。後、料理するから火出して」
「火くらい自分で用意するべき。私に頼りすぎ」
「用意ったって、どうすんのよ? 俺は魔法使えないんだろ?」
「生活魔法なら使える」
「はぁ!? 生活魔法? 何それ詳しく!」
「あ、無理だった。NPC専用みたい。めんご」
クソっ! ちょっと期待しちゃったじゃねーか! 生活魔法? あれか? 火や水や風が出せるヤツか? くっそ便利じゃん! どうりで、ジジイの家に発火装置が無かったわけだ。何かを燃やした形跡があったから、すんげー調べたのに。あのジジイ、そんなズルしてやがったのか。
「……とりあえず、火をちょうだい。弱火でね」
俺は無心になって肉野菜炒めを作った。そうしないと、羽虫に怒りをぶちまけそうだったから。
―――夕飯を食べ終え、寝るにはまだ早い微妙な時間帯ってあるよね。今がそうなんだけど、そろそろ俺も本格的にこのクソゲーを攻略しようと思うわけでして。
「ゲームクリアの方法教えて」
なんて、口走ってしまった。
「バカなの? 教えるわけがない」
はい、その通りですね。端折り過ぎた。
「このゲームでの、プレイヤーの立ち位置って何? 勇者とか?」
「黙秘する。それを調べるのも醍醐味」
「そりゃそうだろうけどさ、俺だよ? 明らかに調整ミスのステータスで放り出された者の気持ちを考えた事ある?」
「不憫に思う」
「だったらさぁ、ちょっとくらい便宜を図ってくれてもいいんじゃない?」
「充分に図ってる。私という戦力がその証拠」
羽虫のドヤ顔、腹立つわぁ。言葉にはしないが、正直言うと、俺からすればお前はハズレだからね。
「単刀直入に言おう。俺は情報が欲しい。勿論、モネの戦力は大変ありがたい、しかし、さっきも言った通り、俺は突然草原に放り出されてからチュートリアルすら受けてないのが現状だ。その辺りは、モネの管轄だと思うんだが?」
「チュートリアル? タロウは履修済み」
「嘘だ! 俺は何の説明も受けてないぞ!」
「タロウ、勘違いしている。チュートリアルは初期行動の過程で修了する」
「ん? 行動で? と言うと?」
「ステータスで自身の能力確認、モンスターとの戦闘、それらを以ってチュートリアル」
えーっとぉ、つまりぃ、俺は知らない間にチュートリアルを済ませていた、と。マジで? 情報とかないん? 他のヤツらはそれで文句言わなかったの? いきなり外に放り出されて? 嘘だぁ。
「他のプレイヤーは余程お人好しなのか?」
「普通と認識している。中には慌てふためく者もいる」
「だよね、分かるわぁ。その人とは仲良くなれそう」
「もうクリアした」
「はい、絶交! ふざけんな! 怯えながら震えてろよ! 何もうクリアしちゃってんの?」
「ノーデスでクリアした」
「やめて! 俺の心をこれ以上傷つけないで! ノーデスって、逆にアホかな? RTAでもしてたんかってくらい、生き急いでるな」
「寝ずに頑張った結果」
「よっぽど帰りたかったのかな。悔しいけど、その気持ちならよく分かる」
「タロウも見習うべき」
「モネも寝ずに俺を守ってくれるんなら、俺は一向に構わないんだが?」
「人には向き不向きがある。タロウは寝ないとダメ」
俺を慮る発言と見せかけて、しれっと自分の要求をねじ込んだな羽虫。まあ、そもそも寝ないで行動するつもりは微塵もないが。
「しっかし、他のプレイヤーもいきなり外で寝てるなんて思ってもみなかっただろうな」
「? 意味不明」
「いや、だから……あれ? このくだり以前もしたような。怖い怖い! えっ? 違うよね? あの時は他よりもステータスが低いって話だったよね? 拉致られてからの状況は一緒だよね?」
「拉致は違う。歓待」
「いいんだよ、今はどっちでも! 拉致でも歓待でも! え? 歓待? 何だよ歓待って? まるで誰かが喜んでいるような言い方してる?」
「他の九人は別々の場所で、それなりの待遇を受けながら目覚めた」
「認めない! 俺は断じて認めないからな! ふざけんなよ! 何がムカつくって、そんな待遇を受けながら慌てふためくヤツがいたって事だよ! てっきり、俺と同じように無人の場所で目覚めたかと思ったわ!」
「タロウだけが異質」
「やめて、俺はステレオタイプな人間だから。異質とは無縁な生活してきたから」
「タロウ」
「まだ何かあんの? やめてよ、怖いんだよ。小出しにされるのが一番堪えるんだからね」
「もう寝る」
あ、うん。
俺は頭に羽虫を載せ、こんな悶々とした気分じゃ眠れないと憤る最中、眠りに落ちた。




