古墳奮闘
はぁ、クソ痛かった。やっぱりこの痛みは、何度死んでも慣れない。
というより、現世で死んだことがないから分からんが、1.00倍の痛覚は伊達ではないと思わせる。
俺はこの世界に来て、33年生きてきたあらゆる痛みの総称が、軽症で済ませられる程の理不尽に染まってしまった。
辺りを見渡すと、ポツンと正方形が浮かんでいる。
まだ寝てんのかよ、この羽虫。と言うか、どういう理屈? 時間は戻ってるはずなのに、こいつはまったく変わらない。
これは考察する余地が…… はい、まったくありませんでした。正直、どうでもいいです。そんなことよりも、俺はこの羽虫に腹が立って仕方ないのだ。
お前、俺をサポートする役目があるよね? 何で自分だけ安全を確保してからスヤスヤしてるの? 俺の絶叫と壁ドンは聴こえなかった? この正方形って音まで遮断するの? つーか、いつまで寝てんだよ!
俺は正方形に向けて、思いっ切り蹴った。
……慣れない事はするもんじゃないね。俺の脛、折れちゃった。足の小指を角にぶつける数倍の痛みに、悶え苦しむ。
「タロウ、何してる?」
いや、ホント何してるんだろうね、俺。現状、片足を抱えて草原をゴロゴロしてるんだもの。
「それより疑問。まだ時間は夜のはず。タロウ、死んだ?」
こっちはそれどころじゃないから。痛みを少しでも分散させる為に、ゴロゴロするので忙しいから。
「早く答えて、愚図」
羽虫は暴言を吐きつつ、俺の足に乗っかった。痛えなバカ! と言いそうになったが、痛みが消えている事実に困惑する。
「モネさん、治してくれたの?」
「余計な力使った。讃えよ」
俺はありがたやありがたやと、羽虫を必要以上に拝んだ。決して知られてはいけない。この怪我が、羽虫を蹴り飛ばそうとした起因である事を。
「タロウ、なぜ死んだ? 情けない」
「あのね、俺の弱さはあなたがよくご存知でしょ。モネさん、あなたがグースカ寝てるから死んだ訳で」
「驚愕。まさかの責任転嫁。私が悪者のよう」
ぷりぷりと怒っている羽虫に、俺は何も言わず笑顔で佇む。
もちろん、心の中は荒れ狂っている。だが、それを言った所で何を得る? 俺の心はスッキリするだろうが、羽虫は不快感からサポートを無視するかもしれない。リスクとリターンが余りにも見合ってない。
「タロウ、笑顔止めて。気持ち悪い」
「仰せのままに。モネ、少し真剣な話をしようじゃないか」
「愚問。私はいつでも真剣」
「そうだろうね、でも考えてみて? モネはダラダラと過ごす事を目的としているよね? 本当なら、今頃もダラダラ出来ているのかもしれない。でも、現実は違う。俺が死ぬ度に、もっと言えば、俺がこのゲームをクリアしない限り、モネの自由なダラダラは手に入らないよ?」
「目から鱗。焦燥。主にサポートを変更要請?」
おっ? マジで? この羽虫から解放なんて、ご褒美でしかないんですけど! 戦闘特化の怠け者より、バランス重視でお願いします!
「却下された。無念」
クソがっ! 期待させやがって! 言っとくけど、お前の無念より遥かにこちらの方が上回っているからな!
「しょ、しょうがないよ。か、代わりなんて難しいって事だよ。モネほどの実力者になると、より一層ね」
大丈夫? 上手く笑えてる? 顔引きつってない?
「成程。タロウ、良いこと言う」
おい、自信は大事だが、お前には謙虚さの方がもっと大事だからな。
「それでモネ、どうする? 君がダラダラしたいのは、俺が一番理解しているつもりだよ? だからさ、パパっとクリアする為に、敵が来たらモネが瞬殺するって案はどうだろうか?」
「却下。タロウが自力をつけるべき」
「……本音は?」
「面倒。ダラダラはここでも出来る」
だぁかぁらぁ! ここでダラダラすんなっつってんの! 話聞いてた? あたま羽虫なの?
「自由は? モネの自由が失くなるよ?」
「自由は与えられるものじゃない。創るべき」
革命家かよ。何だよ自由を創るって。どう考えても俺の時間から割かれるものだよね、それ。
「……分からんけど分かった。とりあえず俺の理想が破綻したのは理解した。でも、最低限、モネが寝ている間に俺が死ぬのを防いでくれないか?」
「どうやって?」
「モネが寝る時間に合わせて俺も寝る。だからあの正方形を、俺にも張ってください」
「あれは高等技術。張れる範囲に限界がある」
「どれ程の範囲ですか?」
「タロウ、正座して。うん、頭の上に私が乗ればギリギリ」
「えっと、寝そべっちゃダメ?」
「足が出る。切られてもいいなら構わない」
本当に? ねぇ、本当に出来ないの? 俺は疑ってるよ? なんで正座? 足崩しても範囲変わらないよね?
「頭の上じゃないとダメなの?」
「駄目ではない。けれどそれ以外は、タロウにくっつく事になる。生理的に無理」
「そんなにかぁ」
「あと、髪が邪魔。ちょっと毟る」
イギャー! 何してんだこの羽虫!
ブチブチと悍ましい音と共に激痛が走る。
「血が汚いから、水で濯ぐ」
突如頭上から、水溜りが降り注ぐ。激痛した頭皮が少し和らいだ。
「私は固いベッド派。満足」
俺は恐る恐る頭に手を当てる。サイドはある。が、中央に手を伸ばす内に、境目がはっきりと分かった。
……前方後円墳かな? あははは。。羽虫、許さんぞ! 末代まで呪ってやるかならな!
俺は安全な夜の代償として、髪の毛を捧げた。




