始まりは、突然に。
目を覚ましたら、雲一つない水色の空が俺の眼前に広がっていた。呑気に、綺麗だなぁ、なんて思い耽る程度には、まだ頭が働いていないみたいだ。
それにしも、俺はいつの間に外で寝たのだろうか? まったく記憶にない。これが夢遊病というやつだろうか? 怖いなぁ、嫌だなぁ。けれどもっと怖いことがある。それは、俺の現在地が不明であることだ。
上半身を起こして辺りを見渡すと、草、草、草、そして、草がある。見事なまでに草原だ。あれかな? テレビでやってた寝ている間に移動させられるドッキリ的なやつかな? そうであってほしい。というか、それでお願いしますマジで。
どれほどの間、途方に暮れていただろうか。一向に姿を見せない仕掛け人(仮)にヤキモキしたり、どうやって驚いた感じを出せば良いのか思案したり、はっきり言って、恋い焦がれる乙女のような時間だった。決して無駄な時間だったとは思わない。恐怖の時間に呑み込まれるよりはマシなはずだから。
俺は渋々ながら頭を切り替えることにした。これは、ドッキリではない、ガチのナニカだと。だとすれば、自分の装備がものすごーく心許なかった。よれよれのTシャツに、卒業からいくつ年を跨いだのか定かではない中学校指定のハーフパンツ、そしてHA・DA・SHI。以上。手持ち無し。
ここが何処かはわからないが、せめてスマホがあれば幾分かは気が楽になったことだろう。位置情報を確かめられるというのは、安心を実感させてくれる。そう、安心だ。頼むから、俺を安心させてくれ!
今が何時か分からないが、腹の減り具合いと太陽の位置から、何となく昼前辺りだと判断した。もう適当である。なんせ、腹が減るという危機的状況を自覚してしまったからだ。つまり、水も必要になるわけで、それはもうガチサバイバルじゃん。歴戦のサバイバーでも、もうちょっとマシな装備してるぞアホ。
とりあえずサバイバルなんかできる気がしないので、人を探すことにした。いくら見渡す限りの草原と言えど、果てまで続く訳が無い、はず! そして太陽を目指しながら歩けば、天文学的及び統計学的に何かしら変化がある、はず! ごめん、適当言った! どうやら俺は、パニクってるらしい。
くるぶし程しか伸びていない草なれど、裸足の俺にとっては歩く度にチクチクと神経を逆撫でしてくる憎悪の対象だ。いざとなったら、噛みちぎる所存である。慈悲はない。
しばらく歩いただろうか。草に気を取られて足元しか見ていなかった俺は、ふと顔を上げると思わず声を張った。
「ファッ!?」
特急電車通過待ちのような音を出してしまったが、それも致し方ない。なぜなら、数メートル先に動く青い物体が目に入ってしまったのだから。
俺は一旦歩みを止めて、進むか退くかを考えるつもりだったが、本能が叫んでいた。赤はダメだが、青ならヨシ! ゴーゴーゴー!
どうやら俺の心は、草ばかりのせいで荒んでいたらしい。それもそのはず、青い謎の物体は、著しく生命を感じさせる動きだったのだ。そりゃテンション上がるでしょ。
鼻息荒く進むに連れ、俺は興奮と動揺、そして恐れを抱いた。まさしく、絶句だ。
俺のすぐ目の前には、青いスライムがいた。
あの鳥◯先生が命を吹き込んだ、あのスライムが俺の目の前にいる? なぜ? ここはどこなんだ?
随時混乱中の俺を差し置いて、スライムはぴょんぴょん跳ね回り、やがて俺の視界から消えた。いや、違った。消えたんじゃない。俺の動体視力では測れなかったのだ。
少し遅れて激痛と言うには生ぬるい程の刺激が、俺を襲った。
おぼろげな視界に映り込んだのは、俺の胴体に穴が開いたものだった。
そして、暗転する視界。
【DEAD END】
血塗られた文字が終わりを告げた。