婚約破棄をして生まれた真実の愛の息子の人生
度々、俺を訪ねて人がやってくるが依頼の断りを入れると同じ事を尋ねる。
「ギルバート殿、そんなに、王太祖と王太后を恨んでいるのか?」
「と言われても、別に~、何故なら、幸せだった。今も幸せだ」
と言うと、使者は口をポカンと開ける。
護衛騎士団に守られながら奴はこの冒険者ギルドにやってきた。
トライツァア王国の高級官吏か、大貴族らしい。
俺の父上は国王陛下だった。今は崩御されている。そして、母親はメイドのソフィーだ。
父は両親の決めた婚約者、公爵令嬢と婚約破棄をして母と結婚をした。
父上は真実の愛に目覚めたと言っていたな。
つまり、父と母は貴賤結婚をしたのさ。
男爵令嬢ですらない平民の娘だ。
公式の場には一切出られない。
父上は一人でパーティーに出席し失笑を買った。
父上は王都郊外の寂れた離宮に母上と俺を住ませ。時折顔を見せた。数週間に一度だったが、それでも国王の忙しさを考えたら、多い方だ。
父上から学問や武芸の上達を見てもらい。母からは贅沢を戒められ慎ましく暮らしたさ。
しかし、それも、父上が崩御したら離宮を出ろと言われたのさ。葬式に出席させてもらえなかった。それだけは・・・恨んでいるかもな。
お金は父が食うに困らないぐらい残してくれた。母に手を引かれて、山奥に引っ込んだ。
そして、去年亡くなったよ。享年50歳、まあ、平均の年齢だ。
このロクでもない国では良く生きた方だ。
「なら、今上の陛下はどう思うか?」
「どうも思わない。親父の元婚約者の公爵令嬢とその夫だっけ?女王国?」
「・・・実は王宮で役職を用意している爵位もある。王都に参られい」
「断る」
「何故!」
「瘴気に覆われた王都なんぞに住みたくはないよ」
今、王都は瘴気で覆われているそうだ。
魔物がわき。王都民は明日の食べ物ですら事欠くという。
公爵令嬢とその夫、何だっけ。歳の離れた大公から生まれた男子には勇者のジョブはなく、女子には聖女の芽すらない。
いや、如何に恨みに思ってなくても、王都でいろいろ噂を流されていた。
離宮の外から聞こえるように、母の事、陛下を色香で惑わした希代の悪女とか言うのだもの。最も、王宮が流さなければ分からないような内容が多々あった。
父上を婚約破棄しやがって、って言うのならまだ良い。事実だ。しかし、色香で惑わして、って母の事を言うのは反則だろう。
「それに、さすがに悪口を言われると分かっている所に帰る訳ないだろう。俺、と~ても気が小さいのね」
「王女殿下と婚姻出来るのだぞ」
「やなこった。俺は冒険者、気ままに生きるのさ」
「なら、無理にでも押し通る!捕まえろ!」
ダン!俺は飛び上がった。
格好は悪いが、奴らの頭を飛び越え。ドアに向かう。
待ち伏せをしているか?
でも、向こうは俺を殺せない。いや、そもそも殺せない。
「タイフーン!」
「「ウワワワワーーー!」」
武装した騎士を風魔法で数十メートル吹き飛ばした。
俺のジョブは勇者と聖者だ。トライツゥア王国の王統の勇者。
と母の聖女の血が混じっている。
魔物を狩り。地を浄化出来る特質系のジョブだ。
トライツゥア王国は勇者の国だ。しかし、徐々に血統が薄れてきた。父上が最後の勇者王か。
それは長い近親婚の結果だ。
ジョブは血統か?いや、父上は分かっていた。近親結婚ではない。
惹かれ会う者同士で結ばれた子に目覚めて受け継がれていくのだ。
母上の遠い祖先は市井の聖女だった。勇者と聖女の血が混じり俺が生まれた。
俺は勇者と聖女の良いとこ取りで生まれたらしい。
俺は国を出る。トライツァア王国の案件は決して受けない。
あの陰湿なジメジメした王国は嫌だな。
あれから、あの国は婚約破棄だのして、報復で潰し合っている。
小さな王国に到着した。魔物討伐の案件で呼ばれてきたのだ。
川辺を歩いていたら、洗濯物が流れていた。小川だ。入って取ったら・・
「キャア、その有難うございます・・・」
??と思ったら、女性の下履きだった。
「すまない!これ、この岩に置くから・・その何か申し訳ありません」
「いえ、不幸な事故です。どちらが悪いかなんて話ではないですわ」
明るい娘さんだな。アタフタしている。
「姫様!一人で走ってはいけませんわ」
メイドが走って来た。姫様?何で姫様が洗濯をしているの?
「あのS級冒険者のギルバートです」
「まあ、でしたら、王宮にご案内しますわ」
藁葺きの家屋と土塁の王城だ。
この国では王女でも洗濯は自分でするそうだ。
洗濯場が社交場か。虚飾にまみれた社交界よりは何か良いな。まだ、生まれたばかりの国か。
陛下にご挨拶をした後、魔物討伐を行う。
しかし、討伐してもチョロチョロ出てくる。
陛下から呼び出しを受けた。
「最近、トライツァア王国が魔族に占拠されて、魔物がこの国まであふれている。近々、連合軍が組織される。ギルバート殿、我国の将として行ってくれないか?」
「はい、喜んで」
「報酬は娘をやろう」
「報酬でもらうのはお断りをします・・・プロポーズの機会を下さい」
「何と・・」
「あ、婚約者とかいましたか?」
「おらんぞ」
俺は元母国を討伐し、その後結婚をした。
各国の王から王女と結婚して母国の王にならないかと打診を受けたが断った。
トライツァア王国の王位継承権を主張しない代わり莫大な報奨金をもらい。
技術者を雇いこの国の産業を興す資金にした。
息子が勇者の修行をする年齢に達した。もう、小国ではない。中ぐらいの国力だ。近隣の小国群の中では盟主的な存在だ。
「父上、母上、ミリー、行って参ります」
「行ってこい!」
「グスン、ヘンドリック、生水には気をつけてね」
「お兄様、お手紙を書きますわ!」
妻は息子が旅立った日も聖女の娘と洗濯をしている。
誇らしく思う。
最後までお読み頂き有難うございました。