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Link's  作者: 黒砂糖デニーロ
第一章
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第五話 勇者たち

 セヴレズの頭上から差し込まれた刃は胴体までを縦に切り裂き、その巨体が左右真っ二つに別れた。

 血が出ないのは断面が炭化するほどの高温で焼き切られていたためだと、肉の焼き焦げる臭いでわかった。

 横倒しに倒れるセヴレズの向こうに姿を見せたのは、すらりと背が高い美しい女性だった。モデルのような、という形容すらチープに思えるほど、その顔立ちから立ち姿から均整が取れた、完璧な美貌であった。

 纏ったオリエンタル調の丈長な黒いワンピースには金の刺繍が施され、肩口は大胆に露出したデザイン。ドレスのような華やかさの出で立ちではあったけど、肘から指先までを覆うマシンアームのような大型ガントレットと、底の厚い編み上げ靴がその華やかな衣装とは対照的な無骨さで存在感があった。

 正直、こんな血なまぐさい場所にはそぐわないきらびやかな印象ではあるが、彼女からは雄々しいまでの覇気が感じられた。

 突然の乱入者に一瞬の狼狽を見せたセヴレズの片割れだが、どうやら彼女を新たな脅威と認識したようだ。後退しつつ下級種に指令を送る。それに呼応しクリンガとボルクリンガはクロウとギンから離れ、その女性に殺到していく。

 それを横目に見た彼女は小さく笑うと、その群れに飛び込んでいく。

 彼女を一言で形容するなら、まさに台風だった。

 取り回しの難しそうな長剣を彼女は細腕一本で軽々と振り回し、近付く魔属に叩きつける。一振りで数体のクリンガはまとめて体を両断され、迫るボルクリンガは甲殻ごと叩き割られた。力強い一撃を放つ度に彼女の周囲には圧潰した肉片と焼け焦げた躯が舞い飛ぶ。腰まで伸びたブルネットの髪が激しく乱れるが、どれだけ激しい斬撃を繰り出そうと外観を損ねる程崩れることはなかった。

 彼女の戦い方は力強く、それでいて精密で、立ち回りには余裕が見えるほどに隙がない。苛烈さと優雅さを兼ね備えているように見受けられた。

「肩慣らしにもなりませんわね」

 下級種をあらかた蹴散らすと、ため息混じりにそう言って躊躇うこと無くセヴレズの間合いへと踏み込んでいく。

 セヴレズは武器である触角を真上から鞭のようにしならせ、彼女目掛けて叩きつける。

 が、あろうことか彼女はその触角を掴み取っていた。

 触角を掴んだまま、引き戻される勢いを利用してセヴレズに肉薄。真一文字の斬撃を繰り出して、頭部を胴部から切断した。軽々と飛んで行く頭部は、そのまま谷底へと消える。

 司令塔を失い、後退の兆しを見せる残りの下級種魔属だったが、どうやらそれを見逃すほど彼女は優しくはないらしい。目につく個体を片っ端から容赦なく潰していった。

 そうして気付けば、あれだけいた魔属群は彼女たった一人に殲滅されていた。

 最後の一匹を斬り伏せると彼女は剣を鞘に収め、艶やかに髪をかき上げながら優雅な足取りでこちらに歩み寄ってくる。

 後に残ったのは、魔属の死骸と僅かな熱気だけだった。

「そ、そんな馬鹿な……ありえない」

 と、トラックを降りる僕の横でそんな声を上げたのはアーヴィングさん。

 魔属は殲滅されたというのに彼はひどく驚愕していた。

 驚愕、というよりは畏怖に近いか?

「本社からの援軍というのはもしかして……」

「はい。そのとおりでございます、アーヴィング殿」

 代わり答えた声は背後から。驚きに勢いよく振り返ると、そこにいたのは燕尾服に身を包んだ気品あふれる老紳士がいた。さらにその横には黒スーツでサングラスをかけた黒人の大男が後ろ手を組んで直立不動で佇んでいた。

「あなた方が救援の連絡を発したメブレン支社に、偶然我々も居合わせておりまして。報せを受け、飛んで参った次第です」

 老紳士は霜の降りた白髪を撫で付け、穏やかな形で刻まれた顔の皺にふさわしい穏やかな口調で説明する。

 しかし、こんな山奥の血生臭い戦場にはいささか場違いな出で立ちだ。

「申し遅れました。私はお嬢様の執事を仰せつかっております、トキワと申します。彼はボブ。以後、お見知り置きを」

 僕の訝しげな僕の雰囲気を察した老紳士――トキワさんは名乗りながら恭しく頭を下げる。紹介されたボブさんは、口を引き結んだ無表情のまま微動だにしない。

「んなことよりじいさん。誰なんだよ、この女。オレ様にも紹介し――フゴッ!」

 気安く話しかけるクロウの口を、アーヴィングさんがフライングクロスチョップ気味に飛び出して両手で塞いだ。そのまま窒息させかねない程の必死の形相だった。

「あら。この私を知らない?トキワ。この田舎者たちに説明して差し上げなさい」

 彼女がそう告げるとトキワさんがすっと彼女の横に立つ。彼女を挟んで黒スーツも同様に並び立つと、トキワさんはよく聞き取れ、かつ声を荒げない絶妙な声量で僕らに告げる。

「こちらにあられますは、ヴァーミリオン・エンタープライズの現社長、ブライト・ヴァーミリオン様のご息女にして、創始者のカーマイン・ヴァーミリオン様の勇者の素質を引き継いだ、クラス:ネクストの勇者候補。ガーネット・ヴァーミリオン様にございます」

「ヴァーミリオン?!」

 その名を聞き及び、僕はようやくアーヴィングさんの狼狽を理解すると同時に、素っ頓狂な声をあげていた。

「お。なんだレン。知り合いか」

 腕を組み、感心したような声で言うアオイに僕はがくっとうなだれる。

「いやいやいや。何聞いてたのさ!?昨日も似たようなやり取りしたでしょ」

 するとクロウが掌を打つ。どうやらさすがのクロウでもピンときたらしい。親友の記憶力が致命傷ではないことにホッとする。

「ん?なんだ。クロウも知ってるのか?」

「当たり前だろ。ほら、思い出せよアオイ。三丁目のクレア婆さんいたろ?たぶんその孫娘が確かそんな名前だった」

 致命傷だった!

「あなたがたは私をからかっているのかしら……?」

 その女性――ガーネットさんはこめかみに青筋を立てながら低い声で唸る。

「クレアおばさんの孫じゃないのか?」

「アオイ。俺達が今護衛しているのはどこの輸送団だったか思い出してみろ」

 見かねたギンが助け舟を出してくれる。そこでやっと思い出したのか、アオイはぽんと掌を打つ。クロウの方はまだ腕を組んで首をひねっているので、もう放っておく。

 創業者のカーマイン・ヴァーミリオンは一代で社を世界的企業にまで成長させたその経営手腕もさる事ながら、勇者としても有名であり、先の大戦でも活躍し名を馳せた歴戦の勇士なのだ。戦う社長、社長勇者などの異名でも有名である。

 元々起業以前から由緒ある勇者の系譜であるヴァーミリオンの一族は、今尚勇者の血を色濃く受け継いでいるのはもはや有名な話である。そのカーマイン・ヴァーミリオンの孫娘が勇者として活動していることは噂話程度には聞いたことがあったけど、まさかこうして本人にお目にかかるとは思いもしなかった。

「それよりも、あなたも勇者ですわね?」

 気を取り直したガーネットさんはアオイに視線を向ける。

「あ、はい。彼女はアオイ・イリ――」

「情けない、勇者の面汚しね」

 出し抜けに彼女は、冷たい言葉をアオイに突きつけた。

「その体たらくで、よく堂々と勇者だと名乗れますわね。無様すぎて、とても見ていられませんでしたわ」

 名前など興味ないとばかりに、ばっさりとそう言い切る。唐突な厳しい言葉に、アオイも僕も顔をしかめた。

「人が弱いことは仕方ない。でも、勇者が弱いことはそれ自体が罪ですわ」

「ま、待ってください!アオイは昨日から……」

「黙りなさい。勇者に言い訳が許されると思って?」

 ぴしゃりと僕の言葉も途中で断ち切るガーネットさん。彼女の持つ雰囲気に圧され、反論の言葉を失ってしまう。

「ノブレス・オブリージュ――高貴な者、持って生まれた者の責務を意味するのこの言葉を、私は常に心がけています。そして、本来なら全ての勇者が持つべきものよ」

 再びアオイに向き直り、まるで演じるかのように声高に語る。

 一方のアオイはというと、ここまで言われれば相手が誰であろうと噛み付きそうなものだけど、今は無言で顔をわずかに伏せている。髪に隠れ、その表情は窺い知れない。

「あの程度の魔属に遅れを取るようでは、勇者失格も甚だしい。今からでも遅くありません。さっさと田舎にお帰りなさい」

「オイテメェ、偉そうに言ってくれるじゃねぇか?お?」

 言いながら僕らを押しのけ、ガーネットさんの前に出たのはクロウだった。クロウはどすの利いた低い声で彼女に凄む。

 すかさず黒スーツがクロウを押しとどめようと動くが「いいわ、ボブ」とガーネットさんがそれを制す。

「高貴だかネクストだか知らねぇがな、オレ様はテメェみたいに生まれの良さを笠に着て偉そうに語る奴が大ッ嫌いなんだよ」

 その大きすぎる図体で頭の上から恫喝されれば、大の大人でも震え上がってしまいそうなものだが、ガーネットさんは僅かも尻込みする様子はなく、それどころか「聞き飽きた言葉ね」と、呆れたように鼻で笑い飛ばす。

「それはただの醜い嫉妬ですわね……あぁ、なるほど。そのなりから想像するにあなた、どこぞの亜人族ですわね?ならその品のない口ぶりも納得ですわ」

 あくまで態度を崩さないばかりか嘲笑うかのようなガーネットさんの言葉に、クロウは怒りの形相を一層強くする。

 タグル族を含む亜人は、長年に渡り差別を受けてきたという暗い歴史を持っている。今でこそ亜人差別はなくなりつつあるものの、それは長い人類史上ではごく最近のこと。クロウ自身も、僕達と出会う前はその差別や偏見の被害に遭ってきたそうだ。

 故に、出自や生まれの違いなどにはクロウは一際敏感に反応する。だからガーネットさんの物言いは聞き流せなかったのだろう。

「ああそうだ。オレ様はタグル族だ。お前からすれば薄汚い、平民以下だろうさ。でもな、だからこそわかる。そうやって目に見えない肩書きや身分で見下してくる奴ってのは、大概中身が伴わないスッカスカな連中ばっかりだ。どうせネクストの資格だって、親の七光りで取ったんだろ?そんなテメェにアオイをどうこう言う資格は無ぇってことは断言できるぜ」

「口を慎みなさい、下郎が。それ以上つまらない言いがかりで私を侮辱するならその舌、引き千切りますわよ」

 さすがにガーネットさんも多少語調を強くするが、それは火に油を注ぐ行為に等しい。いよいよクロウは声を大にして言い放つ。

「わかんねぇみてぇだからハッキリ言ってやる。今のお前があるのはお前の力じゃねぇ。全部お前の外の力がそう見せているだけだ。見た目だけやたらと派手に飾られたハリボテなんだよ」

 その言葉に、泰然自若としていた態度のガーネットさんの表情が冷たく険しいものになった。目をすっと細め、静かにクロウを睨みつける。

 殺気とも呼べる静かな攻撃的雰囲気を発するガーネットさんに対し、彼女の変化を読み取ったクロウはここぞとばかりに声を大にして言い放つ。

「なんだ?自分が言われるのは気に食わねぇってか?なら何度だって言ってやる。お前みたいなのは勇者の面汚し――」

「それは違うよクロウ」

 そのクロウを強い口調で遮ったのは、他ならぬ僕の発した言葉だった。思いがけないところからの反論にクロウは驚いた表情を作る。

「おいレン!お前はこいつの言い分が正しいって言うのか?」

 いつものような冗談ではなく、真剣な表情で僕に詰め寄るクロウ。その表情からは、返答次第では親友でも容赦しないという意思が読み取れる。

 クロウは仲間への情に特に厚い。だからこそ、例え僕でも、いやむしろ親友である僕だからこそ、アオイを愚弄するガーネットさんを庇うような発言は見過ごせないのだろう。

 そういうクロウの気質は信頼に値するし、僕がクロウを親友だと誇れる所以だ。

 「大切な仲間が貶められて黙っていられないのは同感だ。でも、だからといって間違った憶測やレッテルで相手を貶めるのもフェアじゃない。それをやってしまえば、結局相手と同じになってしまう。親友として、それを見過ごすことはできない」

「そりゃまぁ……それもそうだが、でもよ、こいつは!」

「確かにガーネットさんは由緒ある勇者の血筋で、大企業の社長令嬢だ。あらゆる面で恵まれているとは思う。でも、ネクストのクラスはコネや後ろめたい方法で得られるほど軽いものじゃない。もし仮に肩書きを買うことはできても、実力までは偽れない。クロウもさっきの戦いは見てたでしょ?あれは明らかに実戦経験者の戦い方だ」

 指摘され、クロウは不満そうに顔を歪めるも、反論の声はない。同じ戦いに身を置くクロウだからこそ、目の当たりにした彼女の実力は認めざるを得ない。

 確かに血筋に約束された才能を有してはいるだろうが、才能だけでやっていけるほど魔属との戦いは易しいものではない。

 今の一戦だけを見ても、僕にはわかる。

 あれほどの魔属群を、それも一人で殲滅するのは並大抵の実力ではない。あの洗練された戦い方は、才能や親の七光りにあぐらをかいている人間にできる芸当じゃない。

 なにより、単身で魔属の群れに突っ込んでいき、セヴレズに真っ向から挑むような胆力や勇気は一朝一夕で備わるものではない。

 同時に、彼女は勇者の責務を重く考えていることがうかがい知れる。

 現代の勇者の中に、彼女のような信念を持った者は果たしてどれほどいるだろうか。残念ながら、近年増えつつある勇者にはモラルも無く我欲に走る勇者もいれば、最低限の責務しか果たさず与えられた特権にしか興味のない勇者も少なくない。

 少なくとも彼女はそうではい。彼女は心技体の全てにおいて資質を満たす勇者だ。断じて勇者の面汚しではない。

「彼女の実力を構成するのは血筋や才能だけじゃない。努力と幾多の実戦経験、そして強い信念によって裏打ちされたものだと僕は思うよ」

 クロウは口を尖らせて鼻を鳴らす。僕の言いたいことを察してくれたようだ。クロウは粗野で感情的だけど、正悪がわからない人間じゃない。

「でも、だからといってアオイを勇者の面汚しというあなたの言い分まで擁護する気はありません。アオイはここまで休むこと無く、身を挺してこの輸送団の人々を命がけで守ったのは事実です」

 僕はクロウからガーネットさんに向き直ると、断固たる口調でそう言い切る。彼女が実力者であることは認めるけど、それがアオイを侮辱していい理由にはならない。

「アオイとて、勇者としての信念は人一倍あることは、僕が保証します。あなたのように気高いものではないかもしれませんが、そのアオイを侮辱するなら、僕が許しません」

 とはいえクロウほどの胆力は無い僕は、内心では戦々恐々としながらも、鋭い視線を向けてくるガーネットさんの反応を待つ。

 と、意外にもガーネットさんは険悪な雰囲気を収め、ふっと一笑する。

「どうやら見所のある殿方もいるようですわね。あなた、お名前は?」

 一転して笑みを浮かべて値踏みをするように僕を見つめると、彼女はそう問いかけてくる。その変わり様に面食らい、「れ、レン・シュミットです」と気後れしながら答える。

「見たところ、あなたは戦うタイプではないですわね……分析官アナリストの類かしら?」

「それも担っていますが、一応聖剣鍛冶師(スミス・デザイナー)です」

 まるで値踏みするかのようにマジマジと僕を見つめ、指先を妖しく細い顎先に這わせる。

 そして何か納得言ったのかのように頷くと、

「レンさん。特別に、私の従属になることを許可しますわ」

「……は?」

「私自ら声をかけるなんて、滅多になくってよ。光栄に思いなさい」

「それでは、こちらが勇者機関への手続き書類になります。その他の一切の事務手続きは私が責任を持って行いますので、レン様はこちらにサインだけお願いいたします」

 僕が呆然としている横で、トキワさんはテキパキと書類を準備。どこから出てきたのか、ご丁寧にテーブルと椅子まで用意されていた。

「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?」

「とても簡単な話ですわ。私、あなたが気に入りました。だから今、この瞬間からあなたは私の物になった。それだけよ」

「やめろ!」

 ここまで無言を貫いてきたアオイは一変。叫びながら僕に抱きつくように後ろから両手を回し、ものすごい力でガーネットさんの前から引き離す。

「あら?何か問題でも?」

「当たり前だバカ!勝手にレンを連れて行くなバカ!なんだ、私の物になったって。バカかお前!何様だバカ!」

「バカの数が多いよ。もう少し語彙を増やそうね、アオイ」

 吠えるアオイの言葉を受け、ふむ、とガーネットさんは思案するように顎に手を這わせる。そして「いいでしょう」と指を鳴らす。

「私とて侮辱にされたまま引き下がるほどお人好しでもありませんし、先ほどの言葉を撤回する気もありません。それはあなたたちも同じでしょう?ですので、アオイさん。あなたに決闘を申し込みますわ!」

「はぁ?けっとう?」

 アオイは露骨に「何言ってんだこいつ」といった表情をする。

 ガーネットさんの言っている決闘とは、大昔の貴族や騎士が行ったような私闘を指しているわけではない。意外にも、決闘とは勇者法にて定められた制度の一つである。

 一応は勇者同士の技術向上と、衆人に勇者の存在を宣伝する目的で制定された。が、時に勇者同士が問題や諍いを実力行使で解決するために、この決闘制度はしばしば利用されたりしている。

 無論、機関はこの実情を理解しているのだが、黙認しているのが現状である。衆目の前で血の気の多い勇者同士が喧嘩なんかしても「あれは決闘なんで」と言い訳できるから、と昔ラーキンさんから聞いたことがある。

「あなたの実力、この場で私に証明なさい。あなたが勝てば先程の言葉の取り消しと謝罪を約束します。でも、私が勝った場合は……」

 と、そこでガーネットさんは視線をこちらに向け、ビッと僕を指さす。

「レンさん。あなたをいただきますわ!」

「いただく……食うってことか?」

「この流れでよくそんなすっとぼけたことが言えるな、お前は」

 辟易としたギンだが、クロウはまだわかっていない様子だ。

「もちろん、レンさんを私の所有物にするということですわ」

「いやだ!ふざけるな!」

「でしたら私と戦いなさい。大切なものを守るために戦うのは、人の生そのものでしてよ?」

「望むところだ!受けて立ってやる!」

 完全に意固地になり、冷静さを失ってたアオイは、ろくに考えもせずに反射的に応じてしまう。

「え、いや、あの、っていうか本人の意思は無視ですか?」

 問いかけても、二人は火花が散らんばかりに視線をぶつけ合うだけで僕なんて眼中にない。

「そ、そうだ!確か決闘には審判の資格を持った人が、」

「ご安心を。私が第一級審判資格を有しております」

「あ、そうですか……」

「もう諦めろレン。少なくとも今回ばかりはアオイも引かないぞ。っていうか、もはやあいつは冷静に誰かの言葉を聞けるような状態じゃない」

 ギンが後ろから僕の肩を叩き、首を横に振る。

 かくして、勝手に僕を賞品に据えた決闘の火蓋が、僕の意思を置いてきぼりにして切って落とされることとなった。

「っつか、冷静に考えたらよ。負けたらレンを取られんのに、勝ったら謝罪だけって割に合わなくね?」

 クロウにしては的確な指摘も、当然ながら二人の耳には届かない。

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