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Link's  作者: 黒砂糖デニーロ
第一章
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第二話 ミッション

 その後、まもなく到着した国連軍により生存者たちは保護された。

 中級種魔属が少なかったのが幸いし、都市内の魔属たちはアオイたちと国連軍によってなんとか駆逐され、日が傾いた頃には警戒態勢も解かれた。

 できればすぐにでも休息を取りたかったが、打ち合わせのため、僕らは国連事務局ツィルセン支部に赴いていた。

「さっきの戦闘は本当に大丈夫だった、アオイ?どこか怪我はない?」

「何度も聞くな。レンは心配しすぎだ。ハゲるぞ」

 待合室のテーブル対面に座ったアオイは呆れたように言う。

「オレ様は怪我したぞ。ほらココとかココとか」

「お前はボンドでも塗っとけ」

「ちったぁ仲間の心配しろや!」

 にべもないぞんざいな扱いに抗議の声を上げるクロウだが、アオイはうざったそうに顔をしかめる。とても十年来の友人同士には見えないが、これもいつも通りのやりとりだ。

「ところでアオイ。[ヴォルグ]は?見たところ持ってないみたいだけど」

 ギクッと一瞬顔を強ばらせると、「あぁ。あれな。うん。大丈夫大丈夫」と露骨に言葉を濁らせた。

「ん?急に慌ててどうしたの?もしかして何か[ヴォルグ]に不具合でも――」

「そんなことより、レン。私は常々考えているんだ。どうしたら戦争と不幸な子供をこの世界から無くすことができるかを。ぜひレンの意見を聞かせてくれ」

「びっくりするぐらい話題逸らすのが下手くそだね。いいから、僕が作った聖剣[ヴォルグ]はどこ?」

 僕が問い詰めると、そっぽを向いたまま渋々呟く。

「アイス屋のテーブルに立てかけたままです……」

そのアイス屋は地下街の一角にある。そしてその地下街は魔属の襲撃で崩落し、瓦礫と土砂で完全に埋まってしまっている。

そうなるともはや回収できるかどうかも怪しい。

「はいぃぃぃぃ?持ってすら来なかったの?あれ作るのに、僕がどんだけ苦労したと思ってるのさ!」

 思わず立ち上がり、アオイに詰め寄る。 

「じゃまた作ってくれ」

「美味しかったお弁当みたいな気軽さで言わないでくれるかな!?聖剣作るのは簡単じゃないんだよ?毎日少しずつ設計を進めて、何度何度もシュミレーションして、修正してを繰り返して……それだけじゃないよ?そうやって設計案が完成しても、企画を機関に上げて認可がもらえなきゃ作れないんだ。そうやってボツになった設計案はもう一〇〇を軽く超えてるんだよ?」

「レンの涙ぐましい努力、プライスレス」

「クロウ。思いついた名言をすぐ言いたかったのだろうが、今レンはブチ切れてる真っ最中だ。黙っていろ」

「[ヴォルグ]はね、今回ようやく製作までこぎつけることができた貴重な一振りなんだよ!?戦闘で壊れたとかならまだしも、せめて実戦データくらい――」

「うっさい!そんなん知るか!」

 アオイはテーブルを叩いて立ち上がる。

 ひ、開き直った!

「私はこの[ベルカ]以外使う気はないって、いつも言ってるだろ!」

「ぐっ……」

 鞘に収められた剣を眼前に突きつけられ、今度は僕が言葉に詰まってしまう。それを言われると返す言葉がないことをアオイも知っている。

 人外の魔属相手に、異能力と高い身体能力を用い白兵戦主体に戦う勇者にとって既存の兵器は役不足だ。『聖剣』とはそんな彼らのポテンシャルを十二分に発揮するための勇者専用兵器の総称である。

「そんな何本も剣があったって、私の腕は二本しかないだろ。使うのは結局一本なんだから、[ベルカ]だけで十分だ」

「あと一本なら空いた手に持てるな」

 しょうもないことを言うクロウのスネにアオイの蹴りが炸裂し、彼はその場で悶絶する。

「いやいや。今は状況やミッションに合わせて使い分けることも珍しくない。そもそも[ベルカ]は元々古い聖剣なんだ。今まで何度も改修を重ねてきたからなんとか持ってるけど、いつガタがくるか……聖剣鍛冶師スミス・デザイナーとしては、見過ごせないよ」

「[ベルカ]は母様が遺してくれた聖剣なんだぞ!そんなことあるわけないだろ!」

 アオイは声を荒げて否定する。

[ベルカ]は、同じく勇者であった彼女の母が生前に、いずれ勇者として旅立つアオイのために遺した聖剣なのだ。つまり、アオイにとっては母の形見でもある。

 だからアオイは、意地でもこの[ベルカ]以外を使う気はない。

 そして僕は聖剣鍛冶師スミス・デザイナーとして、アオイのために聖剣を作ることを目標としている。

――たとえアオイが[ベルカ]以外を持つ気がなくても、それは自分に課した至上命題であり、立脚点なのだから。

「世は全て諸行無常にして万物流転。今回は巡り合わせがなかったんだ」

 ギンが小難しい言葉を言いながら軽く肩を叩く。意味はよくわからないけど、彼なりに慰めてくれているのだろう。

 寡黙だが、いつもどこか達観したように泰然自若とし、多くを語ろうとしないのがギンという男だ。

 彼もまた、アオイやクロウ同様に僕らの幼馴染だ。年上ということもあり、昔から僕達にとって頼り甲斐のある兄のような存在だ。

「形あるもの、いつか必ず失われる。めげずにまた作ればいい」

「お。携帯十台も壊して十一台目のやつは言うことが違うな?」

 そんなクロウの軽口で、クールな表情が僅かに固くなる。

 それというのも、彼は機械にめっぽう弱い。完全無欠に見える彼の意外な弱点である。

 彼には申し訳ないが、内心で微笑ましく思っているのは内緒だ。

「お前でも扱えるようにシルバー携帯にしたんだよな?次壊したら糸電話くらいしか無いな!ぎゃはははは!」

「くしゃみの拍子に握りつぶしてしまうような貴様と一緒にするな、この筋肉バカ」 

「ハンっ!筋肉バカは少なくとも筋肉が使えるが、機械オンチはなんの役にも立たねぇだろ」

「その発言でわかった。お前は筋肉バカではなく、ただのバカだ。謹んで訂正しよう」

「あぁ?喧嘩売ってんのか?買い占めんぞ」

「わぁー!もうストップストップ!こんなところで喧嘩しないでよ!しかもそんな子供みたいな言い合いで」

 ギンも大抵の事は冷静に聞き流すけど、どういうわけかクロウの軽口を受けた時だけは冷静さに綻びが生じてしまう。最終的に大喧嘩なることもしばしば。

 そして、その二人の間に入って止めに入るのが僕のいつもの役目だ。

「レン。もうそこのバカ二人は放っておけ。一回本気で喧嘩させてやればいい」

「二人が本気で喧嘩したらこの建物が倒壊しちゃうよ!」

 無責任なことを言い出すアオイに僕は悲鳴を上げる。そんな僕の表情が面白かったのか、アオイは笑い出す。

 幼い頃からずっと繰り返してきた、僕たちの日常の光景。

 勇者は一人で戦うわけではない。原初の勇者がそうであったように、勇者を中心とした仲間たちでユニットを組む。アオイを中心とした僕達四人は、いずれも同じ街で育った昔からの幼馴染同士なのだ。

「相変わらず賑やかですね、君たちは」

 言いながら僕らの対面に座ったのは、スーツ姿の中年男性。

「あ。こんにちは、ラーキンさん。ご苦労さまです」

「どうも」と事務的に短く返す彼、ヴィン・ラーキンさんは勇者機関所属のエージェントだ。

 勇者機関とは、世界中に数多いる勇者を管理し、勇者の活動全般をサポートしたりする国連直属の組織だ。

「まったく。どうして君たちはいつも勝手に動いてしまうのですか。他の勇者はもう少し慎重に行動してくれますよ?」

 ラーキンさんの悲痛な訴えも、「他の勇者なんて知らん」とアオイはぶっきらぼうに言って聞き流す。

 そう。勇者とは世界でアオイただ一人というわけではない。

 たった一人の原初勇者の出現から千年あまり。勇者の数は増え続けている。また、勇者を取り巻く社会の状況は千年前とは比較にならないほど変化した。活動における法的な諸問題もあれば、勇者が相手にするのも魔属だけに留まらなくなった。平時には凶悪な犯罪者やテロリストなどを相手にすることもしばしばである。

 そういった勇者にまつわる様々な問題を解決し、勇者の活動を円滑に行うための、勇者機関である。

 ラーキンさんのようなエージェントは現場の勇者とコンタクトを取り、活動全般のサポートを行う。もっとも、エージェントなどと肩書きだけは立派なマネージャーみたいなもの、とは本人の言である。

「いつも言っているように、動く前にまず報告をお願いします。まったく、お偉方のお小言が今から聞こえてきますよ」

「魔属は倒したし、死人も出なかった。完璧だ。なんの問題がある」

「今の時代、勇者が国連の承認なしに勝手に動くことが気に食わない人が多いんです。勇者の特権を支える“勇者法”に異を唱える市民団体や政治家はどの国にも少なからず存在しています。現代は力を持つ者の手綱を誰かが握っておかないといけないのです」

 ドヤ顔のアオイの表情に、抑揚無く淡々と説教をするラーキンさん。事務的、とまでは言わないけどビジネスライクな物言いだ。

 勇者法とは、勇者のまつわる細かな規程や制約、特権や保護を定めた国際法だ。これにより超法規的な活動が認められる勇者ではあるけど、力ある勇者たちにそういった特権を与えることに異議を唱える風潮があるのは事実だ。

「とりあえず今回は街の魔属を速やかに殲滅してくれました。都市の被害も想定より低く抑えられましたし、今のところ機関に寄せられた苦情は許容範囲内です。今回は不問としましょう」

「どうもすみません」

 おそらくこの後、ラーキンさんは関係各所への折衝に奔走するのだろうと察した僕は、まったく反省した様子のないアオイに代わり頭を下げる。まぁ、本来であれば尊重すべき市民や国家からの抗議を「苦情」と言ってのけるあたり、ラーキンさんの本音が垣間見えたりもする。

「それよりも、実は緊急のミッションが機関より発せられました」

 ミッション――すなわち機関から勇者への正式な出動命令だ。任務の話に僕らは半ば談笑に緩んでいた気を引き締め、ラーキンさんの声に耳を傾ける。

「昨今、グリューの第二衛星都市「ガルス」周辺にて、勇者の失踪が相次いでいます。すでに確認できているだけで三人。さらに疑いのある勇者が一〇名」

「じゅ、十三人も!?」

「もっとも、実のところ勇者の失踪自体はそんなに珍しいことではありません。まして、半人前の勇者候補なんかは特に……ですが今回、失踪したのはあのアーネスト・アーチャーです」

「アーネストって、あの有名なクラス:ネクストの?」

 アーネストといえば、氷のようなクールな美貌を持つ勇者界のアイドル的人物だ。見た目だけでなくその実力も確かで数々の功績を残している。正に名実ともに新進気鋭の若き勇者候補だ。

「おいギン。なんだクラス:ネクストって」

「機関が定めた勇者の等級みたいなものだ。“ネクスト”は“アーリー”“ハーフ”に次ぐ上位格。勇者候補では最上位のクラスで……って、お前は今までそんなことも知らなかったのか」

 クロウの質問に呆れ顔で答えるギン。

 さらに補足すると、アーリー、ハーフ、ネクストのクラスは一般的に“勇者候補”と呼ばれる。勇者候補は機関からのミッションに従事しながら実績を積み、定められた基準をクリアしていくことで昇格。そうして最高位である“マスター”と認められることで、晴れて正式な勇者となるのだ。

「実際彼は近々クラス:マスターの選考が予定されているほどの実力者です。その彼が魔属にやられたとは考えにくい。それに、少し気になる情報もこちらで掴んでいます」

「情報、ですか?」

「彼が消息を絶つ直前、彼の従属であるキャサリン・マイヤーが何かの調査を外部に依頼をしようとしていたそうです。彼女は元々アルメリアの連邦捜査官でして、その頃の同僚に何かの調査依頼をしようとしていたそうです。もっとも、具体的な話を聞く前に彼女もアーネストと共に消息不明になってしまったので、内容については闇の中ですが」

 その調査の依頼先が捜査官時代の元同僚で、連絡が取れなくなった彼女の身を案じたその同僚が機関に問い合わせたことで、キャサリンだけでなくアーネストが行方不明になったことが発覚したことを付け加えた。

「その依頼が今回の件に直接関係しているのかはわかりません。そもそも事件なのか、魔属による仕業なのかすら不明です。ただ彼ほどの勇者が何の前触れもなく唐突に消息を絶つなどありえない。もし何かの事件に巻き込まれたのであればもちろん見過ごせませんが、この地に彼程の勇者を倒す魔属がいるのなら、それは何よりも脅威です。早急に対処せねばなりません」

「そこでアオイにお鉢が回ってきた、と?」

「事に当たる条件を兼ね備えた勇者は、この近辺では君たちしかいなかったというだけです」

 適任とは言わず、あくまで事実だけを述べる。ラーキンさんらしい。

「あなた方は出来る限りアーネストの消息を追ってください。消息の途絶える直前までの動向、足取り、生死の確認。事件性の有無の明確化。とりあえずあなた方でできる限りまで調べてください。報告次第で次の方針を決めたいというのが機関の考えです」

「そうは言うが、俺たちは専門家でも調査員でもない。調べると言っても限界があると思うが?」

「安心しろ。オレ様のこの上腕二頭筋の膨らみには夢と希望と可能性が詰まってる。限界なんて、無いんだぜ?」

「と、見ての通り、このレベルのバカがうちにはいるんだ。もっと他に向いている人間を向けるべきだと思うが」

「ンだとコラァ!」と、クロウが声を上げるが、ギンは涼しい顔で徹底して無視を決め込む。

「ギンの指摘はもっともです。僕達なんかよりも、専門の捜査官なんかを送るべきじゃないんですか?」

「無論、本来であれば然るべき調査員を派遣するのが当然の筋です。しかし昨今のガルスをとりまく状況は穏やかとは言い難い。何せガルスは“魔属領”に接しています。勇者アーネストがかの地に派遣されたのは、そういう事情もあるのです」

 ラーキンさんの言葉を理解し、僕は「あぁ」と納得の声を上げる。

 魔属領とは、その名の通り魔属の支配領域だ。魔属の巣窟であり、本拠地。今なお世界には大小の魔属領が点在し、そこには魔属が蠢いている。地上で最も危険な場所と言えるだろう。

 グリューは北の領海を挟んで魔属領と接している。ガルスはその魔属領に最も近い都市だということを今になって思い出した。

「魔属領に接している地域では、高位の魔属が多数確認されています。とりわけ最近は魔属が活発化しており、中規模魔属群体との戦闘も頻発しているという情報もあります。せめて魔属との関連性だけでも確かにしないことには調査員を送り込むことも危険です」

「つまり、魔属が関係しているかどうかを明らかにできる判断材料をできるだけ見つけるのが今回の目的、と考えればいいですか?」

「その認識で概ね正解です」

 ラーキンさんの説明をひと通り聞き終え、僕は少し考えこんでしまう。

 一応、勇者にはミッションを拒否する権利は与えられている。当然、拒否をした記録は残り、実績や査定に大きく影響してしまう。

 しかし今回ばかりは簡単に即決できない。

 アオイはクラス:ハーフ。つまり勇者としてはまだ半人前だ。無論、アオイの実力は客観的に見ても劣っているとは思わないし、そこには信頼を置いている。

 ただ、クラス:ネクストでも指折りの実力者である勇者アーチャーほどの人物が太刀打ちできない事態に、アオイが対応できるかは疑問だ。

 そもそも魔属領近くでの活動は、僕らにもまだ経験がない。

 魔属領に近い危険な場所での謎の勇者失踪事件の調査。考えれば考えるほど、不確定要素が多すぎる。

 何が起こるかわからない以上、アオイに万が一のことがあったらと考えれば、決断は慎重にならざるを得ない。

「わかった。引き受ける」

「ちょっとアオイ!?」

 だと言うのに、あっさりと了承しちゃう我らが勇者。

「わかって返事してる?こういう大事なことは決める前によく考えようよ」

「またレンお得意の心配性が出た。そんなに心配ばかりしてるとハゲるぞ」

「僕の頭髪を心配するより、もっと他に心配することがあるでしょ!」

「多少危険なのは別にいつものことだろ。何だ、今更」

「今回は多少じゃ済まなそうだから言ってるんだよ!」

 案の定、僕の危惧など歯牙にもかけないばかりか、そんな僕を呆れた表情でからかう始末だ。

「今回は魔属領と隣接してる場所なんだよ?もう少し慎重に考えようよ」

「そんなこと言ったって、ヤバい魔属がいるかもって話だろ?私以外に誰がやるんだ」

「いるよ!もっと強くて優秀な勇者ユニットは世界中にうなるほどいるさ!そうでしょう?」

 ラーキンさんに水を向けると、彼は眼鏡の指先で直しつつ「そうですね」と端的に肯定する。

「もっとも、その場合は適任な勇者を再度選別し、遠方より招集する事になりますが」と付け加える。

「ほら。別にアオイが無理をする必要はないんだ。ここは無理をせず――」

「その適任な勇者が来るまでの間、魔属が人や街を襲うのを待ってくれるのか?」

 差し込まれた言葉にハッとなり、思わず口を噤む。

「拒否したことで、後で取り返しのつかないことになったら私はきっと後悔してもしきれない……私は、あの時みたいな事は二度と御免だ」

 あの時――それは僕たちの幼い頃。僕たちの生まれ故郷が、魔属によって滅ぼされた日の事だ。

 家々が燃え落ち、昨日まで笑い合っていた親しい人たちが目の前で惨殺される。幼かった僕らの見た地獄の如き光景は、今もなお瞼の裏に焼き付いている。

 魔属群は駆けつけた勇者によって殲滅されたが、住民の殆どは死に、都市機能は崩壊。生き残った僕らも故郷を失い、移住を余儀なくされた。

 その原体験が、アオイと僕を突き動かしていると言ってもいい。

 それを思えば、僕には返す言葉がすぐには思いつかなかった。

 悲劇を防ぐためなら自分のことなどお構いなしで、躊躇いなく危険に身を投じる。それがアオイという人間なのだ。

 そして、そんなアオイだから、僕たちはこうして彼女と共にいるんだ。

「……まったくもう。子供の頃からいつもそうだ。一人で勝手に決めて、勝手に突っ込んでいっちゃうんだから。後で行き詰まって困っちゃうくせに」

「でも、そういう時もレンはかならず何とかしてくれたじゃないか。だろ?」

 短く、しかし信頼に満ちた言葉を向けられて僕は仕方ないと苦笑を浮かべる。

 アオイが無茶を言い、突っ走り、そして困る。そしてそれを僕が助けるのが僕の役目だった。

 僕達が出会って随分経つけど、幼い頃からその関係は今も変わらない。

「はぁ……わかったよ。アオイはこうと決めたら僕にはどうしようもできないからね」

「それも今更だな」

 ため息交じりにそう言って降参の意思を示すと、アオイは軽口で返す。そして、

「ありがとな」

 そう短く付け加える。そこに込められた思いが、僕の胸を満たし、決意を新たにさせる。

「二人もいいかい?」僕の意思確認に、クロウもギンも異論はないという表情で頷く。

「わかりました。そのミッション、引き受けます」

 皆の意思を確認し、代表して僕が了解を示す。

「結構。ミッション受理の手続きを進めます」と、淡々とタブレットで処理を進めるラーキンさん。

「あくまで君たちのミッションは調査です。その後の対策はこちらで判断しますので、くれぐれも深入りしないように。何度もいいますが、報告を忘れずに」

 視線をタブレットに向けたまま言う。僕らのやり取りを聞いてのフォローしているように聞こえるし、単に釘を差しているとも取れる。いかんせん、声に抑揚がないので考えが読めない。

 いや、悪い人ではないのはわかるんだけど。

「勇者アーネストを含む、失踪した勇者の情報や周辺地域なんかのもろもろの詳細はひと通りこの中にあります。調査に役立ててください」

 懐から取り出した一枚のメモリーカードを僕に渡すと、話はこれで終わりとばかりにラーキンさんは席を立つ。

「差し当たってガルスで彼らが利用していた拠点を探ってください。何かわかるかもしれません」

 僕らの次の目的地が決まり、翌日に発つことが決まった。


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