【目が、逸らせない…。】
私は今、なにを観ているのだろう?
目を、逸らしたいのに……。
【目が、逸らせない…。】
それは、30分ぐらい前に遡る。
ママが、人を殺した。
その内容だけでも、未だに理解が追い付いていない。
……なのに。
其処へ、現在ママは留置場に居る為、家に不在という情報の追い討ち。
「じょっ…冗談、でしょ? 」
私の質問に、男の子は鋭い目付きを此方に向けて、睨んでくるだけだった。
「っ…」
……もし。もし、彼の言う通りだとしたら、ニュース等で騒がれている筈。それなら、ワックでの店員さん達の態度も理屈が通る。
ママが、人を殺した情報は、嘘であってほしい。だって、“別の世界線だとしても、ママには変わりない”のだから。
スマホを取り出し、電波の受信が出来ている事を確認すると、ママ…【如月ノア】を検索した。
ママは、ネットで本名を出していない為、検索に引っ掛かる筈がない。
だからーー
[友人関係の間になにが!? 如月ノア容疑者と風間マリ被害者の知人が語る! 二人の仲とは…? ]
[事件前の如月ノア容疑者の私生活!? 近隣住民に聞いた! 彼女の素顔に迫る!! ]
[確実な証拠で減刑は難しい? 如月ノア容疑者が起こした事件に、現役弁護士が判決を予想!! ]
ママと、同姓同名の人物の事件を取り上げたニュースと思われるサイトが、幾つかヒットした。
「っ…」
………偶然だ。
ママと、同姓同名の人物が、事件を引き起こして、それで…。
“俺は、【風間マコト】。お前の母親によって、命を奪われた、風間マリの息子だ”
……………。
「……私、覚えるのが苦手で…そのっ……君の名前、もう一度、教えてもらえないかな? 」
「………か・ざ・ま・マ・コ・ト」
一字一句、明瞭に教えてくれた男の子…マコト君に、私は有難う、と返す。
ママと同姓同名の人物が起こした事件の被害者の名は、【風間マリ】さん。“二人は友達だった”と、検索で引っ掛かったリンク先のタイトルに書かれていた。
ママから聞いた、大切で大好きな友人は確か…【マリ】さん、という名前だった。
そして、被害者の【風間マリ】さんの息子だと名乗るマコト君。
彼は、私のママが、【風間マリ】さんの命を奪ったと言ってて…。
ーー友人を殺害した【如月ノア】容疑者は、同姓同名ではなく、ママであるのは間違い無さそうだ…。
……。
……………。
…………………。
ーーそういえば…!
ヒットしたサイトの一つに、“確実な証拠”というワードが入った、タイトルのものがある。
私は、その引っ掛かるワードが入った、タイトルのリンク先を開いた。
「……動画…? 」
サイトは、記者と現役弁護士の対談形式の記事内容。その中に、とある動画が、この事件の大きな証拠という点から、無罪は難しいだろうという事だ。
「マイチューブ」
「……えっ? 」
「お前の世界線にはねえの? 【マイチューブ】っつぅ、一部のコンテンツを除けば、無料で動画をアップロード出来たり、視聴が出来る、コミュニティサイト」
「! ……此処でも、同じ名前のコンテンツなんだあ♡」
凄いッ!! ……って、感心している場合じゃないッ!!!
「えーっ、とぉ…」
検索で、[すべて]から[動画]だけに絞り込むと、【殺人現場の瞬間】というタイトルが、一番上に表示された。
いつもの私なら、興味が湧いたとしても、そういったタイトルや、リンク先の内容の一部が表示されたモノは、開かない様に心掛けている。
釣りだったらイイが、リンク先に行ったら、端末がウイルスに感染して、入っている情報が流出してしまったら取り返しがつかないし、もしタイトルや内容の一部通りのモノだったら、自業自得とはいえ、心に傷を負ってしまう恐れが高いから、興味本位で無闇矢鱈にサイトを開くなと、ネットの恐怖をこれでもかと、耳に胼胝が出来るぐらいに、パパとママから口煩く言われて、育ってきたから…。
だけど、現在の私は、なにかに導かれる様に、その動画のリンク先を開いていた。
「ッッ…」
そして、冒頭での、“目を逸らしたい”筈の動画を視聴するという流れに至った。
投稿者不明でアップロードされた、ママが女性を、包丁で刺す瞬間が、バッチリ映り込んだ内容の動画が。
「この動画な。本来なら、マイチューブの利用規則で考えれば、削除されてもおかしくないんだが、何故か未だに消されてないんだ」
淡々と、何処かに感情を置き忘れたみたいな声音で、マコト君が言った。
「内容が内容だから、消されると思ってた奴が居たみたいでな。動画を保存して、他のサイトで転載してんのが、結構ある」
「っ……」
どれぐらいの時間が経ったのだろう? 空が、若干暗くなりつつあるのを感じる。
それなのに…。
ネット上にあがって以降、拡散され続けているという動画に、目を離す事が出来ずにいた…。
【〜投稿者不明の動画〜】