【買い食い禁止】
「風間マコト……誰だろ? 」
頭をフル回転させながら、知り合いの顔を思い浮かべるも、該当する名前の人物はいない。でも、この筆跡には見覚えがある。見覚えがあるというか、見慣れ過ぎてる。
「この字って……あっ!?! 」
サーっと血の気が引くのを覚えた。自分が此処を訪れた経緯を思い出したからだ。
「まっ…まだ売ってるかな? どっ…如何しよう…もう、売り切れていたら……」
買えないかもしれない…という最悪な方が脳裏を過ぎるも、もしかしたら…という希望を胸に、ワックへと急ぐ。ーー先程のノートは、スクールバッグの中へと突っ込んで。
【理不尽な対応】
なんとかワックへ辿り着くと、私は勢いよくドアを引いて中に入った。
「……あれ…? 」
久し振りにきたからだろうか? 店の雰囲気が、違う気がする。
「いらっしゃ…」
店に入ってきた人物が私と認めるなり、店員のお姉さんは怖い顔をして、かと思うとそっぽを向いた。
感じ悪いなぁ…と思いつつも、レジへと並んで、商品を注文しようと、メニューへ視線を落とした時、
「当店では、学生の買い食いは禁止にしています。またのおこしを」
冷たい口調で、そう言われた。
「ッ……でっ…でも…あの人も、その人も、買い食いの学生じゃないんですか? 」
制服を纏っているだけではなく、その近くにはスクールバッグが置かれている事から、買い食いをしている事が予想出来る。
それを指摘すると、店員のお姉さんはギョッとした様な顔をして、かと思えば先程よりも怖い形相になり、
「…彼等は、一度帰ってからお越しになっているので、買い食いではありません」
と言って、シッ、シッ、とあしらう様に手を振り払った。
「……」
今迄、店員さんから嫌な接客を受けた事は、何度か経験した事はあるが……此処まで、露骨に嫌悪感…というか敵意を向けられる様な対応は、初めてだった。
「人殺しって、遺伝するのかしら? 」
店の奥から姿を現した、別の店員のお姉さんが、先程の注文受付兼レジ係のお姉さんへと話し掛ける。
人殺し? 遺伝?
ってか、「お客様は神様」とか、図々しい事は思いたくないケド、そういった内容の会話って、客がいる前で、話してイイものなの??
「するんじゃない? アタシの言った事、疑ったわけだし…。ってか、まだ居るわよ。ヤダヤダ。“お客様”に迷惑だわ」
それって、もしかして私の事?
ってか、疑うもなにも、私と同じ様な条件の、制服に身を包んで、スクールバッグを所持している学生さん達は注文が出来ていて、更には店内で堂々と食事を取っている事を指摘しただけなのに……。
「あー、ホントだぁ…。こわぁい! 早く、他所に引っ越せばイイのにぃ…」
「っ…」
嗚呼…駄目だ。ラッキーセットを購入したい気持ちは強いケド、まず注文出来る権利を与えてもらえないし、それに……。こんなに、露骨な嫌悪感を…敵意全開の店員さん達がいる店にお金を払いたくないッ!!! という意地が湧き出した。
自分の器が小さい…または、それ以上にリラックモンスター愛が足りなさ過ぎるが故の、欲しい物を入手しようという気持ちよりも、嫌な思いをしたから其処に利益を与えたくないという意地悪な根性が働いてか、はたまた両方かは判らないが、購買欲が消え失せてしまったのだ。
此の儘じゃ、こんな嫌な思いを抱く場所を訪れるキッカケとなった、リラックモンスターまで嫌いになりそうで怖い…。
…………………。
……仕方ない、出直そう…。
そう思い、踵を返そうとーー
「店員のお姉さん、すみません。僕が、下校中の“ハナお姉ちゃん”を呼び止めて、此処まで連れてきちゃったんです」
「!?」
いつの間に居たのか、私の背後から、男の子がひょこっと姿を現した。
「えっ…でも……」
店員のお姉さん達が困惑した様子を見せ、男の子を見る。先程の、私への対応とはえらい違いだ。
「お願いします。彼女の注文、受け付けてはいただけませんか? 」
男の子の嘆願に、店員のお姉さん達は暫しの間を置いて、
「……ご注文を」
私を睨み付けながら、注文受付兼レジ係のお姉さんはそう言って、もう一人のお姉さんは再び店の奥へと消えていった。
まさかの展開に、私は困惑しつつも、本来の目的だけを意識して、メニューへと視線を向ける。
……………あれ…?
「あっ…あのお……。今回の、ラッキーセットの玩具に、リラックモンスターは……」
尋ねると、店員のお姉さんは更に目付きを鋭くさせて、ありません、と一言。私に商品を売りたくないから、嘘を吐いている…様な、感じはしない。
「ハナお姉ちゃん、僕が先に注文してもイイ? 」
「えっ…あっ…うん」
中々注文しない私に、男の子が恐る恐るといった感じで尋ねる。私の方が迷惑を掛けているのに、気を遣わせて申し訳ない…と思いつつ、レジの前から退いた。
そういや、店の出入り口付近に、ラッキーセットの今配布されている玩具のサンプルがあったよね? 見に行ってみよう、っと。
「お前。“この世界線の、如月ハナ”じゃないだろ? 」
男の子とすれ違い様、ボソリと、私にだけ聞こえる様な声で、そう言われた。
世界線…? ってか、さっきから気になっていたケド、何でこのコ、私の名前を知っているんだろう?
立ち止まって、男の子の方へ肩越しに振り返ると、彼は店員のお姉さんに、なにかを注文していた。
【買い食い禁止〜私の事を知っている、知らない男の子からの助け舟。〜】
コソッと、ずっと放置状態だったモノを更新(`・ω・´)❤️(←⁉️)