【ノート】
ゲームの中には、セーブデータを複数作成出来るものがある。例えば、恋愛シミュレーション等の、複数のエンディングが存在するマルチエンド作品が主流だろうか?
セーブデータを複数所持出来る事で、エンディングを段取り良く回収し易いシステムなのだが、もし全ての分岐点と結末を知っていて、何処の世界線だったとしても、その記憶を保有している者が存在するとしたら、その人物の心境はどんな感じなのだろうか?
「どんな感じって……“自分は誰よりも色んな世界を知れてて凄い!!!! ”…とか? 」
そう答えるとミチコちゃんは、「成る程、そーゆう考え方もあるのか」と頷く。
「ミチコちゃん? 」
「あたしね…“なんでも知っている”というのは、苦しい事だと思ったんだぁ。だから、ハナの考えを聞いて、そーゆうのもあるんだぁ、って思ったの」
やっぱり色んな考え方ってあるなぁ、と呟くミチコちゃんに、私はこの子の友人で良かったと改めて思った。
他人の考えを聞く事は出来ても、それをちゃんと理解し、受け入れる事は難しいと思う。その上で、自分の意見を持っていて、それを相手に押し付けるわけでもなく。
そんなミチコちゃんが、私は大好きだ。アニメやゲームにも詳しくて、私の知らないコトを教えてくれるのも好き♡
「私は知らない事を知っていくのが好きだからアレなんだけど……“なんでも知っている”って、苦しいコトなの? 」
「あー…えーっとぉ……昔読んだ漫画で、情報を知り過ぎた人が出てきてね…。その上で、あたしが想像出来る範囲でなんだけど……情報を知り過ぎる事は、自分一人だけじゃ抱え切れなくなって、何処かでぶっ壊れてしまったの」
「壊れる!? 」
「…うん。身体と心が合わなくなって、それに耐え切れなくて…それで……」
遠い目でそう話すミチコちゃんは、今にも何処かへと消えてしまいそうで、私は思わず彼女の腕を掴む。
「ハナ…? 」
「っ……ミチコちゃんは、知り過ぎた人じゃないよね…? 」
「………ぷっ! アハハハハっっ!!!! 」
突然笑い出すミチコちゃんに、私は驚いて、反射的に先程掴んだ彼女の腕を離す。
「知り過ぎてたら、学校なんか行かずに、人類の歴史に残る様な発明の数々を生み出して、名を馳せる様な功績を残す事に力を注いでるわよ」
ミチコちゃんは笑い声を含ませながら、言った。
「そ…そっか……」
ホッと胸を撫で下ろす私に、ミチコちゃんは笑うのを止めると、ハナちゃんはあたしの事が大好きなんだねぇ? と揶揄い口調で尋ねてきた。素直に答えるのは癪だが、私はニッと笑みを浮かべて頷く。それに、ミチコちゃんは驚いた様に目を見開いて、パッと顔を逸らすと、ハナには敵わないなぁ…と呟いてるのが聞こえてきた。
「でも、もし…もしね? あたしが、“なんでも知っている者”だったらーー」
【ノート】
本日の、ミチコちゃんとのやり取りを思い出しながら、ワックのラッキーセットを入手する為、いつもの帰り道とは反対の方向を歩いていると、「ハナちゃん」と声を掛けられた為、足を止めて振り返る。
黒ずくめのコート。フードを深く被った人物が、路地裏からひょっこりと姿を出して、私を見ている…感じがした。
「…えーっ、とぉ……」
「貴女なら、良い選択を選ぶと思うわ」
声からして女性と思しき人物は、言い様、私に何かを放り投げてきた。思わずそれをキャッチし、掴んでいる物を確認すると、コミックスよりも少し小さめなノートが視界に映る。
「ねえ、コレ……」
パッと顔を上げると、其処には誰もいなかった。
「……見て、イイのかな…? 」
いや、でも他人のノートを勝手に見るのは…と思いつつも、好奇心が抑え切れず、開いてみる。
最初のページには、見覚えのある筆跡で、“風間マコト”と書いてあった。頭をフル回転させながら、知り合いの顔を思い浮かべるも、該当する名前の人物はいない。
【〜知らない名前と、見覚えのある筆跡〜】