【信じられる人間】
「もう、こんな時間か…」
午前10時10分ーーパパと、二時間ぐらい話し込んでいた様だ。
「そろそろ、仕事かぁ…」
言って席を立つパパに、えーっ、と思わず不満の声を漏らす。
それに、パパは苦笑して、
「…午前だけしか、休みを取ってないからなぁ」
戯けた口調で言った。
「丸一日に変更してもらえないの? 」
「俺もそうしたいのは、山々なんだけどなぁ……そーゆうワケにも、いかないんだ。俺が抜けたその時間に、優秀な人材を見つけられて、休み明けに…『如月さんの席は、もうありませんよ』って言われるの、怖いし……」
「………でも…会社に行く度、怖くないの? 」
「…ママの事でか? 」
如何してパパは、“こーゆう時”だけ、さっきみたいに戯けてくれないのだろう?
先程までの、綻んだ表情は何処へやら。一切の感情が読み取れない無表情で、淡々とした口調で、核心を突いて尋ねるパパに、「会社に行くのが怖い」か如何かを、訊くんじゃなかった…と、後悔する。
だってパパはーー私とママを、一番に考えてくれてるんじゃないか? と思ってしまう程に、大切にしてくれる人だ。“この世界線”でもそうなら…だからこそ、家族が大事なパパが、辛い立場に立たされていたとしても、それでも会社に行くのなら、その理由なんて解り切っているクセに、私は……。
「ッッ……ごっ…ごめん、なさい…」
「…なんで、謝るんだい? 」
「だっ…、だって……」
なにに対する謝罪なのか、それをどうやって言葉にすればイイのか悩んでいると、「正直、耐えられない事の方が、多いさ」という声が耳に入り、俯いていた顔を上げ、パパを見る。
パパはーー真剣な顔で…でも、今にも泣きそうなのを堪える感じで。此方に顔を向けているのに、何処か、遠くを見ている感じで。思い出す様に、続きを話した。
「会社っつうのは、チームプレイが出来るかどうかで、左右される事が多いし」
「………」
「俺のせいで、会社の足を引っ張ってる事ぐらい、わかってんだ」
「っ……」
「でもな……俺が会社にしがみ付き続ける事で、ノア…ママが、【帰ってこれる場所】を、守る事が出来るんだ。それに……風間さんには、償っても、償い切れない事を、俺達はしてしまった。だから、お金なんかじゃ到底及ばないケド…でも……」
あぁ…違うなぁ…と、片手で目元を覆い、パパは溜め息を吐いた。
「ッッ…駄目だな……如何しても、自分の都合で考えちまう…」
「……」
「…悪ぃ。ハナには、話す話じゃ、なかったな」
「っっ…うっ…うんん。聞けて、よかったよ! 」
「“そっちの世界”の俺は、こんなにカッコ悪くねえだろ? だから…こんな、カッコ悪い姿、ハナに見せるべきじゃなかったな、って」
「………」
「カッコいい」とか、「カッコ悪い」とか、ヒトによると思うケド……。パパは、“この世界線”でも、「カッコいい人間」だと思った。
だって、こんなに他人の事を思いやれて、だけど、自分や私達家族に危害を加える様な輩に対しては、極力関わらない様に、でも露骨にやらず。少しでも、争いが起こらない様に配慮して。
頭を下げる事が多かったとしても、誰かを守る為に、敢えて自分から折れるというやり方は、簡単そうに見えて、難しい。更に、自分が大人の対応を取ってます感の嫌味を感じさせず、自然に熟るのなら、尚更に。
「! …じゃあ、もう行くな」
私の後方の壁に掛けられた時計をふと見たパパは、やや急ぎ足で玄関の方へと向かう。その背中を追い駆けて、私も向かった。
「忘れ物はない? 」
「…多分、ない」
「ちょっとお! そーゆうのが、一番危ないんだってえ! 」
「おっ! それ、ママの言い方に似てんな」
「っ!? もっ…もう、誤魔化さないでっ! 忘れ物したら、困るのはパパなんだよ!? 」
「だな。………ハナ」
「うん? 」
「マコト君は、君にとって、“この世界で信じられる人間”だよ」
「…えっ? 」
「じゃあ、もう時間だから行ってくるな。行ってきます」
「あっ、行ってらっしゃい♡…じゃ、なくてえっ! ちょっ、パパあ!? 」
私の呼び止める声に聞こえないフリをして、パパはドアを開けて出勤していった。
ガチャン、とドアの閉まる音が室内に響き渡ったところで、逃げられた…と理解し、悔しくなる。
「……“信じられる、人間”かあ…」
マコト君とワックで会ってから、公園に行って、そっから彼の家に移動して……。色んな事があった、昨夜の出来事を思い返す。
敵意剥き出しで、少しでも隙を見せたら、その瞬間に私を殺しそうな雰囲気があるマコト君。
「仲良く、出来るのかなぁ…」
うーん…。……………現段階では、難しそう。
“この世界の私”とマコト君は凄く仲良しで、将来は結婚しそうな感じがする、と茶化していたパパだったが、目は普段の優しいモノではなく、怒っていた…気がする。
それから、あの日ーーママがおばさんを殺害した時、どーゆう状況だったのか、とか。
「………1時か…」
下校するマコト君は、一度帰宅してから公園に来るだろうか? それとも、ランドセルを背負った侭?
それ次第で、公園に向かう時間は……いやいや。マコト君と会ったとしても、なにを話せばイイの?
それに、“元の世界”に帰る方法を、早く見つけたいし…。
………。
……………。
…………………………。
【〜最高の理解者の一言〜】
昨日も訪れた公園に向かうと、ベンチに黒いランドセルと、その隣にマコト君と思しき少年が座っているのが視界に入り、駆け寄る。
「……来たんだ」
意外そうなマコト君に、
「土地の人と協力して、問題を解決すると、“元の世界”に帰れるみたいな展開が、漫画やアニメのお約束だからね」
だから来たの、と答えた。
【信じられる人間】
後書き
少し…ほんの少しでも、胸熱♡と思ってもらえる様な展開を目指しましたが……はい(o_o)(←⁉️)
この回の執筆は、時間を置いては書き、また休憩しては…の繰り返しで、実はハナの一人称は?や、マコト達それぞれの関係性の距離感などを忘れてしまい、何回も読み直しながら書いていたというのは内緒(←内緒とは??)
正直、前の話の続きになってるよな?という不安は、未だにあり……いや、なんでもないです、うん(`・ω・´)(←えっ…)




