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第8羽 方向音痴、シブヤダンジョン中層を攻略!! クロネ流のダンジョン内ご奉仕♪

 〜シブヤダンジョン中層〜


 上層ボスのゴブリンロードを倒した俺達は、シブヤダンジョンの中層へと歩を進めた。中層といっても、上層とそんなに雰囲気変わらないな。出てくるモンスターが強かったりするのだろうか?


「ふんふんふ〜ん♪ みゃんみゃみゃみゃ〜ん♪」


 クロネは少し後ろをついて来ている。ごきげんな鼻唄を刻みながら、軽やかにスキップしているのがわかる。たまにキメ顔でドローンにリボンを見せつけているようま。

 うん。気に入ってくれたんだな、よかった。


「にゃふにゃふにゃふ──あっ、ご主人! そっちはダメにゃ!」

「ぐえ!?」


 横道に入ろうとしていた俺は、クロネに後ろから服を引っ張られる。襟で首が圧迫されて変な声が出てしまった。アーカイブに残ってなきゃいいけど。


「ごめんにゃご主人! 苦しかったにゃ?」

「いや、大したことないけど……そんなに慌てて止めるなんて、どうしたんだよ?」

「その道、トラップがありますにゃ」


 ダンジョン内にはモンスターの他に、探索者の踏破を阻む危険なトラップが仕掛けられている事がある。俺は道の先に目を凝らす。


「どのへん?」

「あの岩のあたりにゃ」

「薄暗くてよく見えないな……みんなわかる?」


▽『いや……』

▽『NO』

▽『俺は行ったことあるからわかる。けど言われるまで忘れてたな』

▽『ダンジョンって基本は薄暗いからね。広いエリアとかはなぜか明るかったりするけど』

▽『ドローンの明かりだけじゃ厳しいよな』

▽『足元とか見辛い所多いもんね』


「にゃるふふふっ♪ うちは暗闇でも眼が効くんですにゃ♪」


▽『なるほど猫だから!』

▽『どういうこと?』

▽『猫は夜行性の動物、人間より暗いところがよく見える』

▽『暗視スコープ持ってるようなもんか』


 そういやあ初めて家に来たときも、薄暗い中で料理してたな。……あれ、わりと本気で怖かったから、次からはちゃんと電気を付けてもらおう。


▽『【朗報】クロネちゃん超有能だった』

▽『クロネちゃんナイス』

▽『中層から厄介なトラップ増えるし大事なのだ』


「ま、ご主人ならこの程度のトラップで怪我はしないかもですけどにゃ」

「いや助かったよ、ありがとうクロネ」

「にゃるふふっ、お役に立てて光栄ですにゃ♪」


 俺達はトラップを避けつつ、中層を先へ進む。

 リスナーの言う通り、この中層からトラップが増えているようだ。他のダンジョンでもそうなのか、シブヤダンジョンの特徴なのかはわからないが。


 しばらく行くと、道が複雑に分岐しているポイントに辿り着いた。分岐の先の暗がりにまた分岐が見える、そんな場所だ。


「うわ、まるで迷路だな……」


 これは方向音痴の俺でなくても迷ってしまいそうだ。

 ここは一度、リスナーに相談してみるか。


「あのさ、みんな、ここの道は──」

「ちょっと待つにゃっ、ご主人♪」

「もがっ」


 むにゅんと背後からクロネに抱きつかれ、口元を押さえられる。手のひらから肉球の匂いがする。


「ここは少し面白そうですにゃ、ご主人の好きな方に進んでみるといいにゃ♪」

「いやいやいや何をおっしゃるクロネさん!? こんなの絶対に迷子になるって!!」

「もしかしたらこういう迷路でこそ、ご主人の"真価"が発揮されるかもしれませんにゃ!」

「"真価"って──?」

「普通の道では迷うけど、迷路なら逆に迷わない、とか!」

「──いやいやいや、そんなご都合展開があるわけ──」


 同意を求めるようにリスナーの方を見る。


▽『その発想は無かった……』

▽『マイナスかけるマイナスはプラスになるもんな』

▽『やはり天才か』

▽『方向音痴VS迷路か──これは期待』



  ? ? ?



 ええ……? 

 なんでみんなノリ気なの???

 俺がおかしいの……?


「そんなに身構えなくても、もし危険なトラップがあったり沼にハマりそうになったりしたら、すぐに教えますにゃ♪」

「…………どうなっても知らねえぞ?」

「にゃらはははっ♪ むしろ楽しみですにゃ!」


 ええい、ままよ!

 皆に背中を押された俺は、岩の迷路へと踏み込む。

 右へ、左へと足を進める。



         右へ、左へ。

      右へ、左へ。右へ、左へ。

    右へ、左へ。     右へ、左へ。

     右へ、左へ。     右へ、左へ。

              右へ、左へ。

            右へ、左へ。

         右へ、左へ。

      右へ、左へ。

    右へ、左へ。     

   右へ、左へ。    右へ、左へ。

    右へ、左へ。     右へ、左へ。

      右へ、左へ。右へ、左へ。

         右へ、左へ。



 いつものように、思いのままに進んでみる。

 トラップはクロネが教えてくれる。

 罠に警戒する必要がないと言うだけで、信じられないほど足取りは軽かった。


「──光だ」


 この迷路に踏み込んでから、約10分後。

 俺は狭く複雑な迷路を抜け、明るく開けた場所に出た。

 



    ──ザアアァッ──……




 洞窟内に、眩く輝く巨大な地底湖があった。

 湖の中央には滝のように水が注がれている。しかし不思議なことに湖が溢れることはない。上下に水脈でもあるのだろうか?


 あたりの岩壁からは、紫色や白色に発光する巨大な岩がいくつも生えている。それが湖の光で乱反射し、なんとも幻想的だ。


「綺麗だにゃ……」

「……ああ」


 俺達は語彙力を失う。


▽『すげー……』

▽『滝?』

▽『なにここめっちゃキラキラしてる』

▽『神秘的だな』

▽『精霊とか居そう』

▽『ここ行ったことある!』

▽『配信界隈内では有名なフォトスポットなのだ。ただ迷路の先にあるから行けた人少ないと思うのだ』

▽『ラッキーじゃん!』


 確かにラッキーだ。

 ダンジョン内に、こんな場所があったなんて。

 俺達は、しばらくその美しい光景に目を奪われていた。


 ──が、やがてある事に気づく。

 

「もしかしてここって」

「行き止まりですにゃ」

「やっぱりな!!!」


 ゲームなら伝説のアイテムでも置いてあったり、イベント戦でもありそうな場所だが、そういった類のものはない。ここは本当に"ただ美しい場所"なのだ。


 まあつまるところ。そんな都合よく"真価"を発揮なんて展開はなかったわけだな。


「結局、俺は迷路でも方向音痴ってことかあ」

「にゃるふふふっ♪ それもご主人の持ち味ですにゃ」

「持ち味ったってなあ、方向音痴は短所でしかないだろ」


 クロネはしゃがむように膝を折る。

 目線の高さを俺に合わせてくれてるのだろうか?

 

「ご主人が方向音痴じゃなかったら、うちはご主人と出会うより前に蹴られて死んでましたにゃ。ご主人が迷子になったから、うちは救われたんですにゃ」

「クロネ……」

「たまには迷子になるのも悪くないにゃ♪ ここ、行き止まりだけどステキなところだにゃ」


 そう言うとクロネは平たい岩の上に腰掛ける。

 俺もクロネの隣に座り、滝を眺める。

 

 迷子も悪くない、か──。

 そうかもな。


 確かに散々迷ったけど、なんていうか、俺もいつもとは違っていた。迷路を歩いているとき少しワクワクしたし、先の見えない不安に心が挫けそうになる事も無かった。


 それはきっと、孤独じゃあなかったからだ。

 皆に見守られているという事実が、心強かったからだ。



「景色もいいし、すこし休憩していきましょうにゃ。ご主人、リュック出して欲しいにゃ♪」

「ああ、リュックな」


 アイテムボックス(鴉の巣)から小さなリュックサックを取り出す。朝クロネに渡されて持ってきたものだ。クロネはリュックの口を開くと、中から小さな包みを取り出した。


「お弁当作ってきたにゃ、一緒に食べるにゃ♥」


 包みから曲げわっぱのお弁当箱が現れた。

 ぱかっと蓋を開けると、素朴だが食欲をそそる彩りのおかずが顔を出す。


 黄金色でふわふわの卵焼き。

 香ばしい焦げ目のついたウインナー。

 分厚い焼き鮭の切り身。

 鮮やかな緑色の塩茹でブロッコリー。

 ポテトサラダ。しば漬け。

 ウサギではなくネコ耳のように切られたりんご。


 ご飯には桜でんぶで大きなハートマークが書かれている。

 それと、デフォルメされたからすの形に切られた海苔が飾られていた。


 目にも楽しいお弁当だ。

 

「力作だな」

「愛妻弁当ですにゃ♪」

「うん、すごく美味しそうだ」


 本当に凄い。幼い頃、母親が運動会の日に作ってくれたお弁当を思い出す。

 ……は、ハートマークはなかったけどな!


「だけどいつの間にこんなもの準備してたんだ?」

「早起きして作ってたんだにゃ♪ おつかれのご主人を起こさないか心配でしたにゃ」


 早起き──俺も7時前には起きていたけど、そのときにはもう朝食の準備まで済ませてくれていた。

 ひょっとして、まだ日が昇らないうちから作っていたのか? 眩しさで俺の眠りを妨げないよう、明かりもつけずに。


 だとしたら卵雑炊のときも、風邪で寝込んでいた俺を気遣って薄暗闇の中で料理してくれていたのか?


 きっとそうだ。

 それなのに俺は"怖い"だなんて──。


「ううっ……クロネえぇ……ありがとなぁ……」

「泣くほどお腹が空いてたのにゃ!? じゃあ早く食べましょうにゃ!」

「うん、いただきます」

「いただきますにゃっ」


 ひとくちひとくち、噛み締めるように味わう。

 シンプルな作りのお弁当だからこそ、丁寧に作られているのがわかる。作り手の真心が伝わってくるようだ。


▽『飯テロ』

▽『見てたら俺も腹減ってきた』

▽『作るか。お弁当』

▽『ダンジョンに手作り弁当持ってくる子なかなか居ないよね』

▽『これもうただのデートじゃん!』

▼『卵焼きになってカラスきゅんに咀嚼されたい』3000円

▽『異常者がいるのだ』


 味わって食べていたつもりだったのに、あっという間に平らげてしまった。


「ご馳走さま」

「お粗末サマでしたにゃ♪ ──あ」


 クロネは俺の顔をじっと見つめている。


「どうした?」

「ご主人、動かないでほしいにゃ」


 クロネの細く滑らかな指が、俺の唇を拭う。

 離れた指先に白い米粒がついていた。

 彼女はそれを一瞬も躊躇うことなく、自分の口に入れた。


「ご飯粒ついていましたにゃ♪」

「お、おう」

「ご馳走サマですにゃ、ご主人♥」


 悪戯っぽく笑うクロネ。


▽『きゅん……♥』

▽『てぇてぇ』

▽『俺達はいったいなにを見せつけられてるんだ……?』


 …………ヤバい。心臓ドキドキする。

 って、いかんいかん!

 今は人の姿とはいえ、こいつは猫なんだぞ!

 あまり童貞高校生を揶揄わないでほしい、すぐ好きになっちゃうから!


「そろそろ行こうか」

「みゃっ」


 俺達は後片付けをして、再び迷路へと戻る。


 ──迷子も悪くない。

 が、今度は配信がグダらない程度にリスナーに助けてもらおうかな。

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