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第77羽 方向音痴、真・学園ダンジョンに挑む!

 〜学園地下ダンジョン〜



「おーい、先生、おーい! もしもーし!」


 ドローンに向かって、無駄と知りつつ声を掛ける。反応はない。あるはずがない。通信機能がオフになっているのだから。こちらから繋いでみようとしてみたが、操作方法がわからないため断念した。

 幸いライトは生きているので、あたりが暗闇に包まれることはないが。


「な……なにか機材がトラブルってるんじゃないですか、ね……?」

「じゃあ直るまでここで待つしかないか」


 ダンジョンマスターである先生の案内がなければ道もわからない。丁度クロネもスヤスヤと寝てるし、ちょっと長めの休憩と思えばいいさ。


「すぅ──みゃあ──」


 かわいい。


「……そう悠長に構えてもいられないかもしれませんわよ」

「え」

「匂いますわ。あちらから」


 そういえばニニは鼻が鋭いんだったな。

 ニニの指差した方向を見ると、小さな子どもがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。──いや、子どもじゃないな。グレーゴブリン、棍棒で攻撃してくるモンスターだ。




 おかしい。明らかにおかしい。

 モンスターは勝手に出現しないようになっていると、最初に先生は言っていた。


 ドローンからはやはり、なんの解説も聞こえない。


「倒すぞ、いいな」

「ええ」

「カラスキック!」


 接近してきたグレーゴブリンを、蹴りで吹き飛ばす。

 いつも通りワンターンキル。だが、不安は晴れない。むしろ胸の中で暗雲が膨らんでいく。


「くっさいですわ。くっさいですわ。奥の方にまだ何匹か居るようですわ」


 このゴブリンの他にも居るのか。こちらに気づいていないのか、接近はしてこないようだが。

 まさか──この訓練用ダンジョンが、通常のダンジョンと同じように戻っているのか──!?


「どう思います、バカラス?」

「先生側でも何か、トラブルが起きているのかもしれない」

「もしかして、バカラス達を狙う"敵"がきてるんですの? この学園ダンジョンに」

「わからない。だけどもしそうだとすれば──最悪、ダンジョンマスターの権限そのものが奪われているかもしれない」


 ハッと息を呑むニニ。

 警戒のし過ぎ──だろうか?

 だが、最悪のケースも想定して動くべきだ。


「え? え?? て、敵ってなんですか、先輩方──?」


 状況が飲み込めず、ビクビクと身体を震わせて涙目になっているナギサ。

 無理もない。ただでさえナギサはハラジュクダンジョンで深層ボスに殺されかけているのだ。よく知らない歳上の人達とダンジョンを進むだけでもしんどいだろう。

 先生への信頼あってこそ頑張ってこれただろうが、その頼みの綱も今は絶たれてしまっている。


「ご、ごめんなさい、あの、ボク……」

「安心して。ナギサの事は俺が絶対に守るから」

「ふ──ふえぇっ!? せ、先輩っ──!?」

 

 ナギサが恐怖で押し潰されないよう、両手を力強く握ってやる。先生からも託されたしな。先輩として、この子に危険が及ばないようにしないと。


「だからナギサ。──あれ? ナギサ? おーい?」

「ふ、ふえぇ……ぷっしゅうぅ……」


 ナギサは真っ赤になってフリーズしてしまった。

 うう〜ん、いまのはちょっとキザ過ぎたかな?


「良い心がけですわ、流石はわたくしの下僕」

「そいつはどうも」

「騎士として見事、わたくし達の事を護ってみせなさい♪」

「わかってるよ。お前にもこれ以上、なにかを失わせたりしないから」

「…………………………それならバカラス。お前も、勝手に居なくなる事は許しませんわよ」

「────ああ。わかってるって」

「それならいいですわっ♪」


 コツンと、俺の額に、ニニが額をぶつけてくる。

 ニニの手は触覚がない。

 だからこれは、ハイタッチの代わりだ。


 ──さて。

 気合いも入ったところで


「クロネ。そろそろ起きれそうか?」


 テーブルの上で丸まっている黒猫の背を軽くゆすると、くすぐったそうに身を捩る。


「すぅ──みゃむみゃあぁ──」

「かわいい」「……かわいいですわ」「かわいいねぇ……」


 癒し。人間の姿のクロネもいいが、猫の姿も最高に癒される。こんな状況にも関わらず、心は平穏を保っていられた。クロネセラピーだ。


 もう本当にかわいい。流石は俺の彼女。世界一かわいい。

 ──それはそれとして、しばらく目を覚ましそうにはない。


「もし敵の狙いがわたくし達ならば、このままこの場所にとどまっているのはマズいですわ。一刻も早くこのダンジョンから脱出するべきかと」

「だな。板についてきてるじゃん、チームリーダー」

「当然ですわ!」


 ニニのいう通りだ。

 俺はクロネをそっと両腕に抱き抱える。


「だっ、だけど、どうやって帰り道を探すの……? 外部に助けは呼べないし、さっき踏んだ転移魔法陣も一方通行だったし……」


 ナギサの懸念も理解できる。

 このダンジョンは学園の資産のため、配信などで情報漏洩しないように外部と通信できなくなっている。現にスマホの電波も届いていない。

 さらにここに来るために一方通行の転移魔法陣を踏んだから元来た道を戻っていくということもできない。──うんまあ、元来た道なんて最初から覚えてるわけないんだけどな。


 だが、悲観する必要はない。


「なにも心配いらないよ、ナギサ。俺にはこのスキルがある──"鴉帰り"」



     ぎゃあっ



      ギャアッ



       ぎゃあっ



 "鴉帰り"は出口への最短経路を鴉の鳴き声が教えてくれるスキルだ。方向音痴の俺がダンジョンから帰還するための命綱でもある。

 今回はダンジョンクリアではなく脱出が目的なのだから、このスキルに従って進んでいけば、少なくとも迷子になる心配はないはずだ。


「ふわぁ……カラス先輩のスキル、すごいですっ」

「そ、そうかな、へへ」


 こうまっすぐ褒められると照れてしまうというか悪い気しないな。これが後輩、か。


「モンスターが接近してきたら知らせますわ。隊列はナギサはクロネを抱えて、バカラスが前衛、わたくしが後衛でどうでしょうか?」

「ああ。二人が良ければ俺はそれで構わないよ」

「あ……そ、そのことでご相談が……」


 おずおずと手を挙げるナギサ。


「や、やっぱりクロネ先輩は、カラス先輩の腕の中が一番安心できると思うんです……ほら、こんなに幸せそうな顔してます」

「確かにそうだけど、でも、俺は前衛だからクロネを危険に晒すことになるだろうし」

「そ、そこでなんですが……」


 その直後に彼女が口にした言葉は、俺もニニも予想外のものだった。


「ぼ、ボクが前衛じゃ……その、駄目……でしょうかっ!」


 ええっと──なんだって??

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