第7羽 方向音痴、シブヤダンジョン上層を攻略!! そしてボス戦デビュー!?
〜シブヤダンジョン上層〜
シブヤダンジョンは判明しているだけで上層・中層・下層・深層の四つの層がある。他の配信者は深層の入り口までしか到達できていないため、そこでクリアなのか、さらに深い層があるのかはわらかない。
▽『え〜コホン、迷子の連絡です』
▽『そっちの道さっきも通ったよ〜!』
▽『このままだと南口から出ちゃうな』
▽『少し戻って右の道行こう』
「右だな、案内助かる!」
俺達はリスナーにサポートされながら、再びシブヤダンジョンを進んでいた。当て所なく彷徨っていたこれまでの探索とはまるで違う。
迷うこともあるが、致命的な迷子になる前にリスナーが教えてくれるため、配信もそこまでグダらない。
もしかしてこれが──"姫プレイ"ってやつか!?
「俺はお姫様だった……?」
「急にどうしましたにゃご主人」
▽『スレから来たけどなんか面白いことやってんなw』
▽『俺達が道案内係でカラスくんが敵倒す係だ』
▽『マジか、こういうのも新鮮だな』
▽『がんばえ〜』
「おう! 頼むぞみんな!」
しばらく進むと、青色の肌をした子どもに遭遇した。
耳は尖り、口は大きく裂け、目は濁っている。
手にはささくれだった木の棒を握っている。
グェエエエエ
「ご主人、ブルーゴブリンですにゃ!」
「よしきた!」
ブルーゴブリンは上層に出る人型モンスター。
通常のゴブリンよりも弱い個体だ。
背丈は子どもほど……いや、俺も背はあんまり変わらないけど……。
グェッグェグェグェグェ!!
ゴブリンはこちららに気づいたようだ。
凶暴な笑い声をあげながら、木の棒を滅茶苦茶に振り回して走ってくる。
「カラスキック!!」
グゲェェエエエッ!?
カウンター気味に前蹴りで応戦すると、青色の霧を出して消滅した。
倒したモンスターの死体は残らず、霧のようになって消滅する。モンスターの生命力はダンジョンに吸収され、再び新しいモンスターが生み出されるという説が有力だ。このとき稀にアイテムをドロップする。
今回はスカ(ドロップなし)のようだ。
▽『はっや』
▽『なるほどこれははやい』
▽『あれ? なにした?』
▽『いま戦闘あったか?』
▽『たぶん蹴ったんだよな、見えなかったけど』
▽『カラスキックって言ったら敵が吹っ飛んで消滅した』
▽『これフレームレートあげたほうがいい?』
上層の雑魚モンスターを倒しただけなのにそんな褒められても……な、なんか照れるな。こういうときどういうリアクションするのが正解なんだ?
ちらりとクロネの方を見ると、彼女もなにやら考え込んでいるようだった。
「どうしたクロネ?」
「ご主人の技名、結構シンプルなんにゃね。そういえば配信者名も」
「え? ああ、うん。あんまり考えずに適当に決めちゃったからなあ……凝ったほうが良かったかな?」
「いえっ! いまのままで最高ですにゃ!!」
「そ、そうか?」
「そうですにゃそうですにゃ! あっほら! 次が来てますにゃ!!」
「お、おう」
グェエエエエ
どうやらブルーゴブリンは群れだったらしい。
追加で現れた3体をサクッと片付ける。いつもより身体が軽い気がするのは、きっと気のせいではないだろう。
みんな期待してくれてるんだし、俺もいいところ見せなくっちゃあな。
こんなところで立ち止まってはいられない!
さあ、どんどん先へ進むぞ!!
▽『ちょ、ストップ!!!』
▽『逆! 逆だって!!』
▽『さっき来た方に戻ってるぞ!?』
▽『なんで戦闘終わったら道忘れるの……?』
………………あれ?
やがて俺達は、鉄でできた大きな扉の前に辿り着いた。
この扉──まさか──!!
▽『この扉の先に上層ボスが居るはず』
▽『くっくっく……上層とはいえボス、流石のカラスくんでもワンパンでは無理だろう』
▽『どの立場なんだよ』
▽『はいフラグ立ちましたのだ』
やっぱりボス部屋だったのか!!
う〜ん、ひとりで探索してたときは見つけられなかったなあ……。探索開始から1時間もたたずに来れる場所にあったのか。
▽『扉通らない迂回ルートもあるけどね』
▽『ああ闘う前提で話しちゃってた』
▽『どうするカラスくん?』
「勿論、闘うに決まってんだろ!!」
恐れる気持ちなんてない。
血と心が湧き立っている。
迷子になってたときは手応えがある敵に出会う事がなかったからな。
初めてのボス戦、自分の力がどこまで通じるか試したい──!
▽『おおっ!』
▽『カラスくんやる気だねえ!』
▽『何秒で倒せるか賭けません?』
▽『上層とはいえボスモンスターだぞ? Aランクでも倒すのに10分はかかる』
▽『オラわくわくしてきたぞ!』
「ああ! 見ててくれよ、お前らっ!」
期待と緊張に胸を膨らませながら鉄の扉を軽く押すと、ギギィ……と重苦しい音を立てて開く。
──いよいよボス戦デビューだ。
華々しいとはいかないまでも、見所のある戦いにできればいいんだが──
グォオオオオオオ!!
「うわ! あぶなっ!」
グォ!?
扉を開けるといきなり大きめのゴブリンが襲いかかってきたので、投げ飛ばして岩壁にぶつける。大きめのゴブリンは霧になって消滅した。
びっくりした。
なんだこいつ、こんなとこで待ち伏せしやがって。
「よし、邪魔はモンスターはいなくなったな。さあて、上層ボスはどこだ!? かかってこい!」
俺は洞窟の奥に向かって吠える。
しかし返事はない。
というか、ボスモンスターらしき気配もない。
「あれ、どこいったの? ボスモンスター??」
▽『いや、いまのだけど』
え?
え???
▽『気づいてなくて草』
▽『頭の上にハテナマークが見える見える』
▽『ボス一撃かあ』
▽『いまお前がぶっ飛ばしたのがゴブリンロード、上層ボスなのだ』
「ん? え? もしかしてボス戦終わった?」
▽『うん』
▽『やっぱり気づいてなかったのか』
▽『一瞬で片付いたな』
嘘だろ……? ボス戦といえばもっとこういろいろ……手に汗握る闘いとか、必殺技とか、逆転劇とか、協力技とか、あとクライマックスでオープニングが流れるとか、そういうのがいろいろ……。
配信の、配信の盛り上がりポイントが……っ!
「にゃらはははっ♪ うっかり脊髄反射でボスを倒しちゃうにゃんて流石ご主人ですにゃ!」
「ねえそれ褒めてる???」
「うちも鼻が高いにゃ♥」
愛猫にまで弄られる始末。
かわいいから許すが。
「下に行けばボスはまだ居ますにゃ、気を取りなおすにゃ」
「けどなあ、初めてのボス戦が……」
▽『いやいや。そもそもカラスくんボス戦初めてじゃないし』
あれ? そうなの?
▽『アーカイブ見たけどあのボス倒してたよね』
▽『そうなん?』
▽『うんうん、一瞬で倒してたから印象薄かったのかも』
「けど俺、あの扉は初めて通ったぞ」
▽『迂回ルートとかショートカットとかいろいろあるからな』
▽『迷っててたまたまボス部屋入っちゃったとか?』
▽『ありうる』
マジかよ。
じゃあ記念すべきボス戦でもなんでもなかったのか。
すっかり肩の力が抜けてしまった。
「そんじゃ、気を取り直して先に進むか!」
上層ボス倒したってことは、次は中層だよな。
▽『ちょっと待って』
▽『アイテムドロップ確認した?』
▽『ボスだしなにかしら落ちてるでしょ』
ドロップか。素で忘れてたわ。
ゴブリンロードが爆散したあたりの壁のところに行くと、細い布が落ちていた。なんだろうこれ、青くて綺麗だけど。"鑑定"スキル持ってればわかったんだろうけど──
≪ゴブリンロードから
プロテクトリボンを獲得したにゃ♪
とってもキレイだにゃ!≫
天から高音ボイスが降ってきた。
「これってもしかして──」
「にゃるふふっ♪ うちの"猫鑑定"スキルだにゃ!」
「猫鑑定?」
「アイテムを獲得すると猫の霊が教えてくれるにゃ♪」
▽『かわいい』
▽『かわいい』
▽『かわいい』
▽『かわいい』
▽『猫の霊さんありがとう』
▽『アンコール頼む』
▽『【朗報】クロネちゃん有能だった』
リスナーのいう通り、マスコットキャラのような可愛らしい声だ。またアイテム獲得したら聞けるんだろうか。ひとつ楽しみが増えたな。
さて。このプロテクトリボンは、防御力上昇系の装備アイテムか。
「クロネ、ちょっとしゃがんで」
「にゃん?」
クロネの髪にリボンを巻いてやる。
うん。思った通り、青と黒のコントラストは気品があって綺麗だ。
「俺は頑丈だからさ、クロネが使いなよ」
「にゃ──あ、ありがとうにゃ」
「綺麗だよクロネ、よく似合ってる」
「──────みゃっ、みゃう」
クロネは口元を押さえている。
頬が柿みたいに真っ赤だ。
ここまでリードされっぱなしだったからな。
たまには照れさせてやるのも悪く無いだろう。
なんていうか、こういう反応も新鮮だ。
▽『末永く爆発しろ』
▽『なんで急にいちゃつきはじめたの? ねえなんで?』
▽『イチャイチャを見せつけてきた』
▽『リスナーいること忘れてない?』
▽『お前らさっさと結婚しろ』
▽『人間と猫だぞ』
▽『なにか問題でも?』
▼『祝ってやる』50000円
▽『同接1万おめでとう!』
…………同接1万!? 思ったより行ってたな!?
じゃあこのやりとり、一万人に観られてるってコト!?
な、なんか俺まで顔が熱くなってきた。