第6羽 方向音痴、リスナーからインタビュー責めに!? 黒猫の名前も発表、そしていよいよダンジョン攻略開始ッ!?
〜シブヤダンジョン南口〜
これは、とあるインタビュー記録である。
▽『猫ちゃんの年齢は?』
「産まれてから1年だにゃ♪」
▽『じゃあ人間に換算すると18歳くらいか』
…………えっ!?
えっそうなの!? 18歳!?
確かに大人びてる気はしてたけど、人間換算だと俺より歳上になるのかよ。
思いっきり保護者面してしまった気がする……。
▽『カラスくんのことどう思ってるの?』
!?
お前ら急にぶっ込んできたなあ!?
「ご主人は"セカイで一番素大切なヒト"だにゃん♥」
────!?
やめて、嬉しいけど顔が熱いよ!?
▽『カラスくんとどこまで行ったの?』
いやいやいやいや!
どこにも行ってねえよ!?
「にゃるふふふっ♪ ヒ・ミ・ツ、だにゃん♥」
いやいやいやいや!
その言い方だとなにか進展あったみたいだよ!?
▽『好きなものは?』
「ご・主・人・だにゃ♥」
はぁ……はぁ……っ!
すごく嬉しい……けど……っ!
いやそうじゃなくて、な、なんだっ、この辱めは……!
なぜか動悸と汗が止まらない……!
あっもしかしてこれが有名になってしまった配信者への洗礼なのか──!?
▽『せんせーカラスくんが顔真っ赤です!』
▽『2828』
▽『にやにや』
▼『ご祝儀』50000円
▽『純朴でかわいい』
▽『もう勘弁してやろうぜw』
▽『だなw』
お、お前ら、間接的に俺をからかって楽しんでやがったな!?
くそっ………………許す!!
身体を張って視聴者を楽しませるのが配信者の仕事だからなァ!
▽『どこで寝てるの?』
「ご主人のお腹の上で丸まって寝てるにゃ♪」
▽『人間になって食べてみたいものとかある?』
「たいやきだにゃ! あま〜いお魚って聞いてるにゃ♥」
▽『やっぱりお風呂は嫌いなの?』
「猫の姿だと毛が濡れて重くなるのがイヤにゃ! この姿ならしつこい汚れもサッパリ落とせるから好きだにゃ♪ ……でもこの姿だとご主人が一緒に入ってくれないのにゃ……」
▽『それはそう』
▽『そういえばもう"名前"は決まったの?』
ついに来たか。
待ってたぜ、その質問をよぉ!!
「実を言うと、もう考えてあるんだ。彼女の名前」
▽『ほう』
▽『なんと!』
▽『サプライズか!』
▽『これは楽しみ』
「ひと目見たときにビビッと来たんだ。天啓っていうのかな」
「うちも初耳だにゃ!」
「ビックリ──させてやろうと思ってな!」
「にゃらはははっ、狙い通りビックリしたにゃ! さすがご主人だにゃ♪」
「ははっ、よせやい」
彼女は、感激に目をまん丸に開いて喜んでいる。
それにリスナー達のコメントも期待の言葉で溢れかえっている。
これ以上もったいつける事もないか。
俺はピンと背筋を正す。
「それじゃあ発表します、彼女の名は──」
▽『ドキドキ……』
▽『感動の予感……』
▽『一抹の不安……』
「────"クロニクル・オブ・ネイキッドビューティフル・クイーン"です」
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『すまんもう一回言ってくれ』
「えっにゃんて?」
「今日からお前は、クロニクル・オブ・ネイキッドビューティフル・クイーンだ」
「クロニクル……?????」
「よろしくな。クロニクル・オブ・ネイキッドビューティフル・クイーン」
「よ…………呼びにくくにゃいかにゃ…………?」
えっなにその顔どうしたの?
フレーメン反応??
「ははっ、ちょっとオシャレレベルが高かったかな? 他の案で"クロネ"ってのも考えたんだけど、シンプル過ぎるかなって思っ──」
「クロネがいいですにゃ」
「えっ?」
「クロネがいいですにゃ! ご主人!!!」
▽『クロネにしとけ』
▽『クロネで』
▽『クロネで行こう』
▽『頼むクロネにしてあげて』
▽『シンプルが一番だから! 安直でいいから!』
▽『名付けハイになるのはわかるのだ……』
ん? あれ?
もしかしてクロネの方が好評なのか??
彼女もすごい目で俺に訴えかけてくるし。
っていうか、この子のこんな必死な顔は初めて見た。
「お前が気に入ってくれたなら、俺もその方が嬉しいよ。じゃあそっちの案で行こう!」
「ありがとうにゃ! 素敵な名前をありがとうにゃ、ご主人!!」
「これからよろしくな、クロニ……クロネ!」
「みゃ、みゃんっ!!」
キラキラと目を潤ませるクロネ。
そんなに嬉しかったのか。
▽『良かった』
▽『良かった』
▽『良かった』
▽『いい名前』
▽『よろしくねクロネちゃん』
「あらためてよろしくお願いしますにゃ、皆さん!」
「さて、挨拶と自己紹介も済んだところで──いよいよ行きますか、カラスとクロネのシブヤダンジョン攻略配信ッ!!」
▽『うおおおおお!!』
▽『おおおおお!!』
▽『盛り上がってきたな!!』
▽『行くんだな……ついに』
▽『応援しとるで』
▽『あれ? 猫ちゃんもう出ないの……?』
▽『次の雑談配信を待て』
▽『あんまりハードル上げ過ぎない方がいいと思うのだ。気楽にやるのだ』
ここから始まるんだ。
俺の、俺達の、新しいダンジョン攻略の第一歩が!
だけどこのとき俺は、想像もしていなかった。
このダンジョン攻略配信で、まさかあんな、とんでもない事件が起きてしまうなんて──。
それはシブヤダンジョンに入ってから、およそ30分後の事だった。
〜シブヤダンジョン北口〜
「………………あれ? ここ入り口? …………もしかして戻ってきちゃった?」
▽『いや戻ってきてないぞw』
▽『北口なんだよなあ』
▽『南口から入って北口から出てくる探索者初めて見た』
▽『これただ地下道通っただけなんよ……』
▽『さっそく迷子になってて草』
▽『上層で迷うことあるんだ』
▽『なるほどこれが噂の方向音痴か』
▽『Aランク探索者数人を一方的に倒せる実力を持ちながらずっと零細配信者だった男のマッピング技術だぞ。格が違うわ』
きた……ぐち…………?
ダンジョンには複数の出入り口が発生する事がある。シブヤダンジョンには北と南に出入り口があり、たいていの探索者は家から近い方の入り口を使う。
弁明しておくが、ダンジョンは決して南から北に抜けるための便利な通路ではない。
「よく頑張ったにゃ、ご主人」
「クロネ……」
俺の肩に、クロネはそっと手を乗せる。
いきなり励まされてしまった。
「ご主人の方向音痴は……その……実際に目のあたりにすると凄まじいものがありますにゃ」
「うっ」
精一杯オブラートに包んでくれたのだろう。
それは理解る。理解るがそれでもグサッとくる。
「やっぱり無理だよな、こんな俺がダンジョン探索者なんて……登録者数も増えて浮かれてたけど、もともと才能ないんだもんな……」
「そんなことはありませんにゃっ!!」
今度は両肩を力強く抱かれる。
か、顔近いって!!
「ご主人は素晴らしいお方ですにゃ! 強くて優しくて人徳があって──ただ、天に二物を与えられなかっただけですにゃ!」
「いや、でもこれじゃまともに探索なんて」
「ご主人は、もうひとりじゃありませんにゃ」
▽『そうだぞ』
▽『いいこと言った』
▽『クロネちゃんもいるし』
▽『それに俺たちがついてるじゃないか』
▽『ずっと見てるよ!』
▽『力になれることあるなら言ってねカラスきゅん!』
俺はもう"1人じゃない"
まるで彼女のその言葉を証明するかのように、リスナー達のコメントが周囲に表示される。
「ご主人。ちょっとだけ、配信を見てるみんなに頼ってみたらどうにゃ?」
「頼るって?」
「同じ道に行きそうなら止めて貰ったり、道案内をしてもらうって事にゃ」
「い、いやでも、それって、ズルになっちゃわないか……?」
リスナーに案内を任せていては、探索者の純粋な力でダンジョンを踏破したことにはならない。配信中は指示を禁止していたり、ネタバレコメントを見ないようにしている探索者も多いくらいだ。
クロネを助けるために動物病院までナビして貰ったときとは事情が違うんだ。
攻略情報を聞きながらゲームを進めるような行為、本当にいいのか……? それは果たして攻略配信と呼べるのだろうか……?
「ご主人。いまのご主人はズルどころか縛りプレイしているようなものですにゃ」
「し、縛りプレイ!?」
「便利なナビを使うとか、そういうんじゃなくて、"リスナーのみんなと一緒にダンジョンを攻略する"って考え方じゃダメなんですかにゃ?」
──みんなと、一緒に──?
「でも、リスナーのみんなはそれでいいのかよ?」
「良いも悪いも、結構前からみんなそう言ってるにゃ」
「え? ええっ!?」
▽『全然気づかないんだもんな〜』
▽『カラスくんまだ緊張してるでしょ?』
▽『ヒントくらい出させてくれよ』
▽『俺たちも仲間と思ってくれていいんだぜ』
▽『けど指示厨になりすぎないように気をつけろよ』
▽『わかってるって』
▽『グダりそうならアドバイスするくらいが丁度いいかな』
▽『一度通った道はマップ描いてやるのだ』
「みんな──────」
ダメだな、俺。
またリスナーのコメントが見えなくなってたみたいだ。
いい配信にしなきゃと、気負いすぎていた。
頼ってもいいんだ。
俺達は、仲間なんだから。
「ありがとな、クロネ。またお前に気付かされたよ」
「にゃるふふっ♪ どういたしましてにゃ♥」
俺はドローンに向かって拳を突き出す。
「それじゃああらためて──シブヤダンジョン攻略するぞ! お前ら!!」
▽『おう!』
▽『おう!』
▽『おー!』
▽『おう!』
▽『やったるぜ!』