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第54羽 方向音痴、寂しさを背負い困難に立ち向かう!

 〜ハラジュクダンジョン下層〜



 ──────ゴゴゴゴゴ。不吉な音と振動。落下してくる埃に上を見ると、天井が音を立てて迫ってきていた。

 畜生、やっぱりトラップの作動スイッチだったか!!


「ぎゃああああですわ!」

「やばいやばい走るぞメイ!」


 あれ、メイどこ行った?


「もう走ってます」

「判断が早い!」

「ついでに土魔法で天井を支えて時間も稼いでます」

「この有能!」


 俺はメイを追って、落ちる天井から必死に逃げる。なんとかギリギリのところで、潰されずに済んだ。

 まさか、すぐ近くにあんな危険なトラップがあったなんて──。


▽『トラップ見えなかったか』

▽『薄暗いからね』

▽『いつもならクロネちゃんが見つけて回避してくれるけど』

▽『いなくなってわかるクロネちゃんのありがたみ』


「お嬢。カラス殿」

「ごめん」「ごめんですわ」

「乳繰り合うのはクロネ殿を見つけて脱出してからにしていただいてもいいですか?」


 返す言葉もない。

 よくわからないが、俺の態度がニニを刺激してしまったのだろう。

 メイには迷惑をかけた。


「乳繰り合ってなんかいませんわ! バカラスが変なコト言うからですわ!」

「だから暴れんなって! 重心安定しないんだから!」


 チビで非力な俺が、色々と豊満なニニを横抱きに抱えているので、あまり踏ん張れないのだ。


「やっぱりメイにおぶってもらった方が──」

「はあ〜…………仕方ないですねぇ…………」


 お前本当にニニの従者なんだよな??


「まあカラス殿もああ言ってますし。降りてください、お嬢」

「……………………イヤですわ」

「え」

「も、もう暴れませんわ! だから、このままで、いいですわ!」


 何故かメイの提案を拒否するニニ。


「なんでだ? お前、どっちかっていうと俺のこと嫌いだろ?」

「べ、別にそんなこと言ってませんわっ! 時間もないんですから、はやく進みますわよ!」


 う〜ん……?

 相変わらずこいつらわけわからん。

 まあ、ニニがいいならいいけどさ。

 これでメイの負担も増やさなくて済むし──


「はあ〜」


 なにが不満なんだ???





 〜ハラジュクダンジョン下層・ボスのフロア〜


 下層ボスのフロアか。クロネを追って、ついにここまで来てしまった。ニニが俺に強くしがみついてくる。……心臓の音が伝わってくる、かなり緊張している様子だ。

 

「大丈夫か?」

「はあ!? こっ、これくらいビビってませんわ! ビビってませんわ!?」

「無理させて悪いな」

「むむむ無理してませんわ! 無理してませんわ!!」


 少しだけ扉が開いている。どうやらクロネは、この隙間から入っていったようだ。俺の代わりに、メイが扉を開く。




       きゃああああああああ……



▽『女性の悲鳴!?』

▽『違う。鳴き声だ。モンスターの』


 一瞬誰が襲われているのかと、どきりとしてしまった。見ると3メートルくらいある細身の女が、フロア内を彷徨いていた。他の探索者ではない。頭部が普通の人間の10倍以上ある。


▽『巨頭オークだ』

▽『雌かな』

▽『ねえなんでそんな冷静でいられるの?』

▽『怖過ぎるんだけど』

▽『急にホラー始まったやん』


 普通に怖い。ニニの心拍数も上がっている。メイは平気みたいだけど。

 ……ここにユリが居たらきっと駄犬化してたな。


「く、クロネの残り香は、この先に続いていますわ」


▽『下層ボスひとりで倒したってこと!?』

▽『それならボスが復活するの早すぎるでしょ』

▽『どっか抜け道があるのか』


 ニニの指差した先をよく見ると、深層へ行くルートの隣に小さな亀裂があった。猫の姿のままならあそこを通って行けるだろう。


「クロネ……」


 わかってるのか?

 その先は、深層なんだぞ。

 たったひとりで深層に行ってしまうなんて、なにかあったっておかしくないじゃないか。いくらなんでも無謀すぎる。


 そんなこと、クロネならわかるはずだろ?


 ──そもそも、クロネはどこに向かってるんだ?


 ──ダンジョンの最奥?──どうして?──


 ──あいつ、もしかして精神的にかなりまいってるんじゃ? 冷静でいられないほど──俺に突き放されたと思って、自暴自棄になって、こんな馬鹿なことしてるんじゃ──




   「バカラス!!!!!」


 ゴッ。という鈍い衝撃で目の前に火花が散る。

 絶賛お姫様抱っこ中のお嬢様に頭突きを食らわされたのだ。


「痛たた…………なっ、なにすんだよ」

「今から下層ボス戦なんで気合いを入れてあげたんですわ」


 見ればニニもおでこを腫らして涙目になっている。

 …………なんだよ石頭でもないくせに…………。


「ありがとな、ニニ」

「はあ!? 別にバカラスの為じゃありませんわ! ちゃんと集中していただかないと、わたくしまで危ない目に会うんですわよ? わかってますの?」

「ああ、そうだな。あれこれ思い悩むのは後回しだ」


 ニニの言う通りだ。

 下層ボスを倒して、深層に行ったクロネを追う。

 今はその事だけを考えればいい。


▽『さて下層ボスだけど』

▽『いきなりカラスキックかますのはやめておいた方がいいかもな』

▽『遠距離攻撃で様子見したいところ』

▽『それがいいな』

▽『同意』


 リスナーの皆の言うとおりだ。シブヤダンジョンの下層ボスは物理無効だったし、ウエノダンジョンの下層ボスは即死させてくる厄介なやつだった。ニニを抱えているし、得体の知れないボスに無策で飛び込むのは危険すぎる。


「俺は遠距離攻撃無いな。二人は?」

「おーっほっほっほ! ようやくわたくしの出番のようですわねえ! 七色の電撃魔術師とは、このわたくしのことですわ!」

「お。電撃魔法使えるのか」


▼『出るぞニニちゃんの七色の電撃魔法! コボルトくらいなら一撃で消し飛ばせる威力! そこに痺れる憧れるゥ!』22円


 ……それなら俺達のことも魔導ビームじゃなくて自分で狙ってくれたら良かったのでは? と一瞬考えたが、そういやあの時は魔導ビームの方が威力低いと思ってたんだっけか。


▽『あれ? ニニちゃんのリスナーさん来てるじゃん』

▼『ってニニニニニニちゃんが男にお姫様抱っこされてるゥゥゥウウウ』22円

▼『許さん』22円

▽『ユニコーン来てるじゃん』

▼『呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪』22円

▼『バカラス! 顔が近いブヒ! ぶっひいいいいいいいい!!』22円

▼『ニニちゃん雌のツラになってるぶひいいいいい!!』22円


「なななななな、なってません! わ!!!!」

「ニニのリスナーさん、ごめん。かくかくしかじかで、ニニに協力をお願いしてるんだ」


▼『なるほどカラス氏には想い人ならぬ想い猫が』22円

▼『つまりニニちゃんは恋のキューピッグというわけブヒか』22円

▼『それを言うならキューピッドぶひ』22円


 ニニのリスナーさんもちゃんと話せばわかってくれた。なんだ、少し身構えてたけどいい人達じゃん。


「…………ふんっ」


 ニニは何故か少しむくれている。

 約束を守って暴れずにいてくれているのでよしとしよう。


「電撃魔法だけど、撃つ前に念のため岩陰にでも身を潜めて──」

「そんなこともあろうかと手頃な岩陰を作っておきました。カラス殿こちらへ」

「お、おう。流石だなメイは」


▽『う〜んこの有能』

▽『SSRサポーター』

▽『戦闘以外なんでもできるじゃんこのメイド』

▽『有能過ぎて追放されるタイプのやつ』


「えっへん」

「…………。」

「…………。」


 ──なんかちょっと悔しいが、ありがたく岩陰を使わせてもらう。いい感じに窓が空いていて、巨頭オークの様子を伺えるようになっていた。


「よし、ニニ! 頼む!」

「刮目なさい! 必殺! "ジャッジメントサンダー"!」

「はは、けっこう大仰な名前──」


 

  ────次の瞬間────


 龍の形をした雷が窓の周囲の岩を吹き飛ばし、巨頭オークを消し飛ばし、ダンジョンの壁を少し削った。地面が揺れ、瓦礫がガラガラと落ちてくる。


「ドーム!!」


 メイが作った土のドームで瓦礫を耐える。このまま崩落するかと思った。右手の魔導砲と大差無い。


▽『なにこの威力!?』

▽『下層ボス一撃どころかダンジョン破壊レベルじゃん』

▽『とんでもねえなニニちゃん』

▽『いつもこんななのか!?』

▼『なにこれ知らない』22円

▼『初めて見た』22円


 まじか。ニニのリスナーも知らないのか。


「どどどどどどど、どうなってますの……!?」


 撃った本人が一番驚いているのかよ。


「魔導砲の副作用なのか四肢を失った影響なのかわかりませんが、お嬢の魔法の威力が全体的に異常値までアップしているようです」


▽『異常値までアップて』

▽『チートやんけ!』


 うん。強い。確かに強いが、威力が高過ぎて地下じゃ気軽には撃てないな。ボスフロアが広くて丈夫だったから良かったものの、狭い場所で使ったらまた崩落を起こしかねない。


「わ、わ……わ──」

「大丈夫かニニ?」

「──わたくしなにかやっちゃいました?」


 言いたかったんだな。

 少しドヤってるし。

 全然キマってないけど。


「あ。ほらほら、アイテムがドロップしてますわよ!」

「ったく。ニニが倒したんだし、譲るよ。回収頼めるか、メイ?」

「ええ」


 霧の中から現れた琥珀色の首飾りを、メイはポーチに仕舞い込む。

 ……あれがなんなのか、どういう効果を持つものなのか。鑑定スキルを持たない俺達には調べようがない。一度、持ち帰らなければ。


▽『綺麗な首輪を拾ったにゃ!』

▽『キラキラしてておさかなの鱗みたいだにゃ!』


「ははっ」


 俺達は猫幽霊さんの鑑定が聞けないことに一抹の寂しさを感じながら、深層への道を下りていった。







 〜ハラジュクダンジョン深層〜




▽『おいおいまじかよ』

▽『うわ…』

▽『なんだ、これ』

▽『絶対やばい』

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