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第53羽 方向音痴、ハラジュクダンジョン下層を攻略! 鴉と乳豚とメイドのワルツ

 〜ハラジュクダンジョン中層・ボスの居たフロア〜



▽『配信再開きちゃ!』

▽『きちゃああああああああ』

▽『カラスくん復活! カラスくん復活!!』

▼『生存記念』5000円

▽『生きてたのか』

▽『生きてたたたたたたたたたたたた』

▽『おかえりカラスくん』

▽『おかえりいいいいい!!』

▽『マジ心配したんだから』

▽『なんかすごい光って配信切れてもうダメかと思った……』

▽『俺は無事だと思ってたけどね』

▽『怪我もなさそうで良かった』


 突然配信が切れて心配していたのだろう。リスナーの皆は、口々に配信再開への思いをコメントする。まるで文字の洪水だ。


「待たせてごめん、みんな。心配かけちまったな」


 そんなリスナーの皆に、俺はただ平謝りすることしかできなかった。


「それから──ただいま」


 そう口にする。安心したせいか涙がこぼれそうになるが、堪える。今は、やるべきことをやらなければ。


▽『めっちゃ待ってたんだから』

▽『首長くして待機してた』

▽『もうキリンになるわ』

▽『少し元気ないのだ?』

▽『たしかに』

▽『あれ? 他の探索者と合流してたの?』

▽『ほんとだ。巨乳とメイド』

▽『クロネちゃんは?』


 リスナーのひとりが、クロネが居ないことに気づいた。やがてクロネの姿が見えないことについて、心配の声があがりはじめる。俺は背筋を伸ばし、真剣な目で、まっすぐにリスナー達を見た。


「その事でみんなに、頼みがある」


▽『どうした』

▽『えっなに』

▽『クロネちゃんになにかあったのか?』

▽『まさかまた怪我したとか……』

▽『怪我なら姿見えるだろ』

▽『じゃあはぐれたのか?』

▽『今度はクロネちゃんが迷子なの!?』


「いや、危険な目に遭ってるわけじゃないんだ。──ただ──」


▽『ただ?』


 口を濁す。

 罪悪感で胸がチクリと痛む。

 皆を信じたい。だけど、本当のことを言うわけにはいかない。


 ……もしかしてクロネも、こんな気持ちだったのだろうか。


▽『ひょっとして喧嘩した、とか?』


「────喧嘩、か。そうかもな。ちょっとしたすれ違いがきっかけで、クロネを傷つけてしまった。それであいつは──ひとりでダンジョンの奥に行ってしまったんだ」


▽『おおう』

▽『マジで喧嘩イベントかよ』

▽『あんなにいちゃラブだったのに』

▽『喧嘩くらいするわよ男と女だもの』

▽『はやく追いかけな』

▽『あ。もしかしてそれが頼みごとか!』


 いつもの事ながら、察しがよくて助かる。

 俺は深々と頭を下げる。


「ああ。俺はクロネに追いつきたい。クロネに謝って──それで、また、クロネのそばにいたい。明日も、明後日も。ずっと」


▽『プロポーズやん』

▼『花束代』50000円

▼『指輪代』50000円

▼『ご祝儀』50000円


「いやっ、プロポーズではないけど。……俺は方向音痴で、迷ってばかりだから。どうか、皆の力を貸して欲しい」


▽『まかせろ!』

▽『つーか最初からそのつもりだし』

▽『カラスくん素直だしきっと大丈夫だよ』

▽『クロネちゃんもいい子だしね』


「──ありがとう。皆」


 そうだ。

 クロネは、本当にいい子だ。

 これまで出会った誰よりも、優しい子だ。


 なんの考えもなく、人を殺していたわけじゃない。

 たとえそれが、どんなに間違った事だとしても。




▽『それでそっちの巨乳とメイドのことはいつ紹介してくれるの?』

▽『見たことある』

▽『岩に腰掛けてる方の子、ニニちゃんじゃないの?』

▽『ホントだ』


 ああ。そういえばニニとメイのことも説明しておいた方がいいな。ニニは配信やってるらしいから知ってる人も居るっぽいし。

 経緯はいろいろ端折りつつ、無難な感じで紹介するか。


「この2人はダンジョンで会って、俺から協力を頼んだんだ。ニニは同級生で、クロネの残り香を追跡する事ができる。それからメイはドローンを貸してくれた」

「ニニですわ。あとでわたくしのチャンネルを登録しなさい愚民ども」

「メイです。カラス殿とは前世で深く結ばれた仲です。よろしくお願いします」


 人がなるべく穏便に進めようとしてるのに適当なことばっか言いやがってこいつら!


▽『ニニって前の配信でカラスくんのこと付け狙ってなかった?』

▽『ストーカーしてたよな』

▽『マジで? ヤバいじゃん』

▽『弱ったところを助けて下僕にするとか言ってた』


 えっそうなの!?

 ニニの方を見ると、ぷいっと目線を逸らされる。

 いや、けどありそうだな、この性格だと……そういえば初めて会ったときにも因縁つけられたし、さっきも下僕になれみたいな事言ってたし。


▽『信用していいのかな』

▽『なんか企んでるかもよ』

▽『ホントに臭いわかるのか?』

▽『嘘ついてるかもよ』


「うっ、嘘じゃありませんわ! 嘘じゃありませんわ!」


▽『必死になるのが怪しい』

▽『う〜ん……』


「……嘘じゃないですわ……!」


 ニニは俯いて、悔しそうに眼に涙を溜める。

 自業自得な所もあるけど、流石にちょっと可哀想だな……。

 リスナーの皆がこれ以上ヒートアップしないように、フォローしておいた方がいいか。


「落ち着いてくれ、みんな。確かにニニは少し馬鹿なところもあるし根性もひねくれてるけど」

「おい」

「けど、ニニは──」


 俺は冷たい岩場に腰かけて居心地が悪そうにしているニニを、ひょいっと抱きあげる。


「ちょちょちょっ!?」

「ニニは、前のダンジョンで怪我をして義足になってしまったんだ。その義足も壊れて歩けなくなってしまった。こうして持ち上げてやらないと、満足に動くこともできないんだ。それなのに、そんな大変な状態なのに、俺に協力してクロネを探す決断をしてくれた」


 それが俺を殺しかけた罪悪感によるものなのか、なんでも願いを聞くという俺の言葉に惹かれてかなのかはわからない。


 実際のところ、ニニには散々迷惑をかけられた。

 ────だけど。


「俺は、これからのニニを信じる。だから頼む。今だけでいい。皆も、ニニの事を信じてくれ」

「バカラス──ドキドキするので次からは持ち上げる前に言って欲しいですわ」

「あ、はい」


「カラス殿、カラス殿。私は?」

「………………ついでにメイも信じてくれ。なるべく。できれば」

「おやおや? おやおやおや? もしかして私お嬢より信頼されてない?」


▽『しゃあないな』

▽『カラスくんがそう言うなら』

▽『疑ってごめんねニニちゃん』

▽『俺もごめん、ついヒートアップしちゃって』


「ふ、フン! べっ、別に気にしてませんわ! 気にしてませんわ!」


 わかってくれたようで良かった。

 みんなも悪気があったわけじゃない。熱くなるのも、俺を心配してくれての事だろう。今回はニニとリスナーの皆の連携が必須だからな。


「ありがとな、皆」


▽『いいってことよ』

▽『それよりはやく行くのだ』

▽『クロネちゃん一人で心細いだろうしな』

▽『またカラクロ見たいんだよ』


「ああ、そうだな。頼むぞ、ニニ、メイ、皆」


 今度こそ。

 待ってろよ──クロネ。






 〜ハラジュクダンジョン下層〜



「──かくかくしかじか、というわけなんだ」


 俺はニニの案内で先程の崖の場所まで来ると、リスナーの皆に状況を伝えた。


▽『なるほどまるまるうまうまですな』

▽『この崖の向こう側に行きたいってことね』

▽『右手ついて回ったら?』

▽『それ入り口からやらないと意味ないやつ』

▽『このあたりなら他の配信で見たことある』

▽『俺ここ行ったことあるよ』

▽『親切な人が下層の途中までマップ作ってくれてるっぽいのだ。崖の向こうまでなら案内できそうなのだ』


「助かる!」


 俺はリスナーの皆にナビをして貰いつつ、下層を進んでいく。さっきと同じ、見慣れない、薄暗い道。だが今は不思議と不安はない。


「よしっ、崖の向こう側にたどり着いたぞ!」


▽『おめ!』

▽『クリアおめ!』

▽『クリアじゃねえわ』

▽『喜ぶのはまだ早いのだ』


 ようやく、少しだけ、いつもの攻略配信の調子が戻ってきた気がする。これならきっと、クロネの元まで辿り着ける!


「ニニ、残り香の方向はわかるか?」

「ふんふん。あっちの岩の奥ですわ!」


▽『すげ〜嗅覚』

▽『けどちょっと豚みたいだな』


「ぶひっ!? ──な、なんですって!?」

「やめろって。ニニは俺のために頑張ってくれてるんだから。怒るぞ」


▽『ごめん…』

▽『カラスくん優しいやん』


 ……まあ、俺も少し思ってしまった。

 贖罪も兼ねて謝っておこう。


「ごめんなニニ。あんまり気にすんなよ」

「気にしてませんわ!」

「お前、イメージガールに選ばれるだけあって顔立ちはわりと整ってる方だし」

「ハァァアアアアアアア!? うるさいですわ! うるさいですわ!!」

「あっちょっ、なんで暴れるんだよ!?」


 真っ赤になって暴れるニニ。フォローしてやったのになんで怒るんだよ。俺がチビなせいもあって、少しだけよろめいてしまう。



 


 ──────カチッ。


「あら? バカラス、なにか踏みました?」

「うん。……なんかスイッチみたいなの踏んだ」

「なんのスイッチですの?」


▽『あ』

▽『アカン』

▽『やってしまいましたなあ』

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