第47羽 方向音痴、ハラジュクダンジョンを攻略する!
〜ハラジュクダンジョン南口〜
「リスナーのみんなこんからす〜!」
「こんくろね〜」
この挨拶にも慣れたもんだ。配信用ドローンをセット。久々の仕事で心なしか喜んでいるようにも見える。
▽『こんからこんくろ!』
▽『こんからくろ〜』
▽『こんからくろ!』
▽『こんかろ〜』
▽『こんかろ』
▽『こんかろ』
「いや、こんかろってなんやねん」
「にゃらはははっ、こんかろ、こんかろにゃ♪」
リスナーに挨拶をまとめられてしまった。語呂が悪い気がするが……まあいいか、クロネはなんか気に入ってるみたいだし。
▽『クロネちゃん今日はゴスロリじゃん』
▽『フリフリで可愛い』
▽『フリルと一緒に尻尾が揺れてかわいい』
▽『ちょっと地雷系入ってる気がする』
▽『言われてみればメンヘラファッションっぽい』
▽『なんかゾクゾクする』
「にゅるふふふっ……♪ 浮気したら許さないにゃん……♥」
「誰に言ってるんだよ」
クロネの今日の衣装は黒とピンクを基調としたゴシックロリータだ。衣装担当の猫幽霊さんが張り切って作ってくれたらしい。怪しい雰囲気が増し増しで似合っている。かわいい。ドキドキする。
▽『今日はどこ攻略するの〜?』
▽『ハラジュクっぽいな』
「そう、今日はハラジュクダンジョンに来ています!」
「にゃにゃっ!」
ハラジュクというお洒落な街。毎回コスプレしてるお洒落なクロネと違って、俺にはアウェイな土地だ。まあダンジョン内までオシャレってことはないだろう。
……ないよな?
▽『ハラジュクはどんな感じだっけ』
▽『難易度はそこまででもないはず』
▽『状態変化系のトラップが多いから注意な』
▽『あとミミックか』
状態変化系……? ミミック……?
うっ、なんだろう、寒気が……異次元の記憶が……。
き、気のせい気のせい。
▽『またダンジョン潜ってくれるのは嬉しいけど平気なの?』
▽『うん……』
▽『前のは結構トラウマだった』
▽『ユリちゃんもまだ復帰してないしな』
▽『無理はしない方がいいのだ』
「……ありがとう、みんな」
俺はクロネに語った決意を、リスナー達にも同じように語った。
決して無理をしているわけではないこと。
ダンジョンを攻略して誰かの助けになることが、今は嬉しいと感じること。
そして探索をやめていたとき、寂しさを感じていたこと。ダンジョンの事を考えたとき、恐怖よりも、期待と高揚感が上回ること。
「こんな俺だけれど、これからもダンジョン攻略は続けていきたいと思っている。……知っての通り、俺は方向音痴で、ひとりじゃとても攻略なんてできやしない。よければこれからも、皆の力を貸してほしい」
「うちからもお願いするにゃっ!」
▽『あたりまえだよなあ』
▽『俺が俺達がカーナビだ』
▽『カラスくんのナビだからカラナビだな』
▽『どんなヤバい敵が来てもぶっ飛ばしゃいいんだ』
▼『シブヤにバイト先あって漠然と不安だった。カラスくんが攻略してくれたおかげで安心できてる』5000円
▼『うちも家族でウエノに住んでてすごく感謝してる』5000円
▽『微力ながらお手伝いさせてもらうのだ』
「ありがとう、皆」
ぺこり。
同じ気持ちでいてくれる"心強い仲間達"に頭を下げる。
なんの見返りも求めず力を貸してくれる彼等に、俺は少しでも報いなければと思う。
「──さて、挨拶はここまでだ! いよいよハラジュクダンジョンの攻略だ、みんなしっかり着いてこいよ!」
▽『ツッコミ待ちかな?』
▽『カラスくんもな!』
▽『迷子になるなよ?』
「いくぞ、鴉と黒猫のダンジョン攻略、開始ッ!」
「えいえいおーにゃ!」
▽『おー!』
▽『えいえいおー』
▽『おーっ!』
▽『おーっ!』
▽『おー』
▽『応ッ!』
▽『おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
少しだけ背後を振り返る。
誰もいない。
それから配信画面を開く。
俺とクロネの2人だけだ。
大丈夫。
………………大丈夫だ。
〜ハラジュクダンジョン中層・ボスのいるフロア〜
ボアアアアアアアア!!
巨大な"猪の骨"が咆哮をあげている。
猪はただでさえ強敵、空気がビリビリと震えているのを肌で感じる。
▽『中層ボスのキングスケルトンボアだ!』
▽『骨だけなのになんで声が出るの?』
▽『言われてみればそうだな』
▽『それ言い出したら骨だけなのに動いてるしな』
▽『まあどうせカラスキックで一撃でしょ』
▽『油断はよくないぞ』
▽『突進中は防御力256倍とかだっけ?』
▽『バケモンかよ』
▽『なら止まってるうちに仕留めた方がいいな』
取り敢えず、お洒落な敵ではなさそうで良かった。
「──来ますにゃご主人っ!」
「ああ! クロネは後ろに!」
地響きを鳴らしこちらに突進してくるボア。身体が光り輝いているのは、防御力256倍の加護か。サイズ感と化石のようなシルエットも相まってかなりの迫力を感じる。
これくらいの敵に怯んでいるようじゃ、ダンジョンクリアなんてできるはずない。一番自信のある突進を、正々堂々、真正面から打ち破る!
来い! 正面突破だ!
「カラスキック!!」
眉間に一撃、ズシンとした手応えを感じる。
ボアはそのまま仰向けにひっくりかえり、粉々に崩れた。
▽『マジかよ256倍だぞ!?』
▽『カラスくんにとっては誤差みたいなものか』
▽『これじゃどっちが猪突猛進かわからんな』
▽『まあ数日で二つのダンジョンを崩壊させた男ですしこれくらいはね?』
▽『バケモンかよ』
▽『バケモンだよ』
「いやバケモンじゃねえんだわ。人間なんだわ」
まったく好き勝手言ってくれる。
だが俺は無自覚系チート主人公とは違う。色々と調べて、自分が探索者の中ではかなり強い方だという事はわかっているからな。
だけどまだまだ人間の枠にはおさまっているはずだ。……はずだよな?
≪キングスケルトンボアから
キングボーンシールドを獲得したにゃ♪
これはいい出汁がとれそうにゃ!≫
巨大な盾か。
▽『まあまああたりだぞ』
▽『一回だけならどんな攻撃もガードできる』
▽『いや重いし常に構えてられないだろ』
これまた使い道に困るアイテムだな。
タンク役ならあってもいいけど、クロネに持たせるのも重そうだし微妙装備だなぁ……。
使い所はありそうなので、一応アイテムボックスには入れておく。
「よし、じゃあ下層に──」
「ご主人、ご主人」
クロネに袖を引っ張られる。
「どうしたクロネ?」
「ちょっとお掃除……じゃなかった、お花摘んでくるにゃん」
「花? なんで?」
お花を集めたいなんて相変わらずクロネは純真でかわいいな。けど、このダンジョンに花なんて生えてたっけ?
「俺も一緒に行くよ」
「い、いや、あの、ひとりで大丈夫にゃん……」
「???」
▽『カラスくんストップ』
▽『オイオイオイ』
▽『あっ……(察し)』
▽『ひょっとしてお花摘みの意味をご存知ない!?』
▽『ポンコツかわいい』
▽『いかせてやれ』
▼『こういうときはひとりで行かせてやるものなのだ。後でちゃんと説明するのだ』500円
「お、おう……?」
あれかな? お花とはいえ生きてるんだし引っこ抜いたりするシーンは可哀想だから見せたくない……って事なのかな?
少し腑に落ちない気もしたけど、リスナーも言ってるんだし行かせてあげた方がいいか。
「じゃあクロネ、くれぐれも気をつけてな」
「ご主人も、迷子になるから動いちゃダメにゃよ」
「わ、わかった」
クロネはとてとてと脇道に姿を消す。
うん。ちょっと心配だけど、クロネとリスナーを信じよう。
その数分後。
俺はリスナーの皆から"お花摘み"の意味を聞いて真っ赤になった。




