第34羽 神代ユリの指環物語 1
〜ウエノダンジョン深層・ボスのいるフロア〜
≪フェンリルから
白銀の毛皮を獲得したにゃ♪
おひるねするのにちょうどいいにゃ…zzz≫
▽『白銀の毛皮か』
▽『どういうアイテムなん?』
▽『記念品かな。あと滅茶苦茶高く売れる』
▽『あったかいし高級な服の素材にもなる』
「とっとけよ、ユリ」
「悪いよ。私は同行させて貰ってるだけでもありがたいのに」
「いやいや。今回トドメ刺したのお前だし、笹も接着ポーションも俺がもらっちゃったからさ。あんまりこっちが取りすぎると、俺もすっきりしないじゃん」
「う〜ん……まあ、そういうことなら預かっておくよ」
ユリは毛皮を自分のアイテムポーチに仕舞い込む。アイテムボックスほどではないが、物質を縮小して持ち歩ける便利なポーチだ。ハイテクだよな。
▼『いいコラボだった』50000円
▽『おつからす』
▽『おつくろね〜』
▽『おつユリ!』
▽『勝手に締めようとすんなw』
▽『まだ終わってないのだ』
そう。ラスボスを倒してエンディングというわけではない。この先のダンジョンコアを壊さなければ、ウエノダンジョンを完全クリアしたとは言えないのだ。
それに失くした指環を探すっていう、ユリとの約束もあるしな。
ボスフロアの奥にある扉を進んでいくと、シブヤと同じく巨大な円形ドームのフロアに出た。やはり某球場ほどの広さで、端の方にはパンダベアがくつろいでいる。
そして、純白の台座の上にダンジョンコアが浮いているのも同じだ。
「ユリは生で見るのは初めてにゃ?」
「ああ。とても綺麗だ」
「にゃるふふっ♪」
「だけどクロネの方がもっと綺麗だ」
「にゃ!?ふいうち!?」
「なに口説いてやがる」
ユリの脇腹に軽く肘を入れる。
それから3人でダンジョンコアを囲むと、その上に手を重ねる。クロネだけが触ればOKな気もするが、まあ気持ち的な問題だ。
≪ダンジョンコアを獲得したにゃ♪
玉乗りの練習をするにゃ!≫
猫幽霊さんの声が聞こえて、ダンジョンコアが台座から転がり落ち砕け散る。ユリのやつが少しビクッとしてた。わりと勢いよく割れるし、やっぱわかっててもビビるよな。
ぎゃっ
「……え? なんか聞こえた?」
「いや、なにも……」
……空耳かな?
コアが破壊されたことで、ドーム周辺のモンスターが霧となって消えていく。そして覚醒した猫幽霊さん達が、ダンジョン内からアイテムを収集し始めた。
▽『これがカラスくんの配信名物ダンジョンコア割りかあ』
▽『名物じゃないよ!?』
▽『またトレンド一位になってるわ』
▽『二つ目のダンジョンクリアだからな』
▽『国内史上初じゃね?』
▼『あらためておめでとう!』50000円
▼『クリアおめ』50000円
▼『おめ!』8888円
▼『おめでとう』8888円
「ありがとう。ここまで信じて応援してくれたみんなのおかげで、ついに二つ目のダンジョン、ウエノダンジョンをクリアする事ができました!」
「本当にありがとうございましたにゃ!」
「突発コラボだったが、皆と出会えて本当に良かった。私からもお礼を言わせてほしい。ありがとう。とても充実した時間だった」
▽『こちらこそ!』
▼『ユリ様、最高の時間をありがとうございます』50000円
▽『いいコラボだった!』
▽『またやってほしいな』
そうだな。俺もユリとパーティーを組むのははじめてだったが、これで終わりにするには勿体無いくらいだった。ユリさえ良ければ、またいつかパーティーを組ませてほしいとも思ってる。
まあ配信内で言っちゃうと断りづらくなるから、あとで言うけどな。
「それでは次回の配信で! おつからす!」
「おつくろね!」
「おつユリ!」
▽『おつ!』
▽『乙〜』
▽『おつくろね』
▽『乙ユリ!』
▽『おつからす!』
▽『おつからす!!』
配信を終了したくらいで、アイテム集めに行っていた猫幽霊さん達が順番に帰ってきたようだ。
≪コークスライムから
ブラックコーラを獲得したにゃ♪
シュワシュワするにゃ!≫
≪宝箱から
鉄の剣を獲得したにゃ♪
爪研ぎ楽しいにゃ!≫
≪フコウモリから
バッドナイフを獲得したにゃ♪
今日の猫占いは大凶だにゃ!≫
≪パンダベアから
白黒マスクを獲得したにゃ♪
…ヘンテコな模様だにゃ!≫
ユリの探し物のことはクロネからお願いをしてくれていたが、猫幽霊さんがどこまで理解しているかは怪しい。ユリは祈るように両手を握っていた。
にゃあっ。
その両手に、一匹の猫幽霊さんがそっと触れた。
≪スティールミミックから
お花の指環を獲得したにゃ♪
食べたかったけど我慢したにゃ!≫
ユリに小さな花のようなものが手渡される。
俺はそれを見て一瞬、猫幽霊さんが渡すものを間違えたのかと思った。なぜならユリに手渡されたそれは、指環と聞いてイメージするものとは異なっていたからだ。
宝石のついた金属製の小さな円形リングではなく、一輪の造花のシロツメクサだ。その緑の茎の部分がくるりと巻いて束ねてあり、確かに指環といえば指環の形になっている。こどもの頃に野原で花を摘んでアクセサリーを作ったような、そんな感じだ。
「本当にそれであってるのか?」
「ああ」
ユリは造花の指環を、大事そうにアイテムポーチに仕舞いこむ。
「ありがとう、キュートなお嬢さん」
にゃんっ♪
得意気に胸を張る猫幽霊さんの額にキスをして、お礼のちゅーるを差し出すユリ。猫幽霊さんはちゅーるを咥えて嬉しそうに去っていった。
「いつ買ったんだよ、ちゅーるなんて」
「さっきクロネとおやつの交換をしたのさ。それより──2人とも本当に助かった。礼を言うよ」
俺達に向かって頭を下げようとするユリを、手で押し止める。
「よせって。ユリが居なきゃ、きっとウエノダンジョンは攻略できなかった。こっちこそ助かったよ」
「そういうことにゃ。また一緒に冒険しようにゃ、ユリ♪」
「──ふふっ、そう言ってもらえると光栄だ。私なんかで良ければ、ぜひ頼むよ」
「……あ。けどクロネを口説くのはほどほどにな?」
「はははっ、それは無理な相談だ! こんな美少女が居たら口説かずにはいられないだろう?」
「お前なあ……」
まあいいか、クロネもそんなに迷惑そうにはしてなかったし、ユリのことは友人としても気に入ってくれてるみたいだ。
▽『確かにクロネちゃんは絶世の美少女だけど』
▽『ユリちゃん気の置けない友達って感じでいいね』
▽『次のコラボ楽しみにしてる』
▽『また生き甲斐が増えたな』
▽『ユリ様わたしのことも口説いてください』
リスナーもこんな調子だし。
俺達なら、なんだかんだうまくやれるさ。
え?
まて、おかしいぞ。
なんで"リスナーが見てる"んだ?
確かに"配信は止めていた"はずなのに。
「なあみんな。俺、配信再開してないよな?」
▽『配信始まってるよ』
▽『えっカラスくんが始めたんじゃないの?』
▽『おや』
▽『放送事故か?』
▽『これはPONかな』
▽『もしかして操作ミスったのだ?』
▽『配信ではよくあることだし気に病まなくてもいいぞ』
あれ、マジかよ!?
配信切り忘れや、意図せず配信開始なんていうのはこの界隈ではよくあることだけど、いざ自分の身に起こると動揺を隠せない。
俺、変なこと喋って無かったか──!?
「え〜〜っと、どっ、どの辺から見てた……?」
▽『カラスくんが"クロネを口説くのは〜"って言ったあたりから』
▽『よく考えたらなんで口説かれるとまずいんですかねえ』
▽『ヤキモチかな?』
▽『(俺の)クロネにあんまちょっかいかけるな──ってコト!?』
▽『2828』
くっ……よりによってそこかよ! てか俺、そんな独占欲強そうなコト言っちゃってたの!? 恥ずかしさに顔から火が吹き出そうになる。
けどユリの指環が返ってくるところは映ってなくて良かった。失くしたのをリスナーに知られたくなかったみたいだし。
「──ご主人」
「ちちち、違うぞクロネ!? べべべ、別に俺はっ、束縛系とかそういうわけじゃ」
「あ、そうじゃにゃくて……勝手に配信が再開するなんて、そんな事あるんですかにゃ?」
「………………え?」
「ご主人のスマホはアイテムボックスの中にゃ、誤操作なんてしないと思いますにゃ」
ああ……言われてみればなんでだろ?
まあでもスマホがバグってたか、一時停止するときに設定間違えたとかじゃないかな。
それを伝えようと口を開いたとき、ひとつのコメントが目に止まった。
▽『ピエロだ』




