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第33羽 方向音痴、ウエノダンジョン深層を攻略! 強敵フェンリルとの死闘、そして決着!

 〜ウエノダンジョン深層・ボスのいるフロア〜



 フェンリルは自分の周囲の空気を一瞬で凍りつかせ、自分を護る防御壁を形成したのだ。まさに鉄壁の氷の鎧。

 普通の氷ならいくら分厚くても叩き壊せる自信があるが、フェンリルが生み出した氷は硬度も冷たさも桁違いのようだ。


▽『硬すぎィ!』

▽『耐えた!?』

▽『カラスくんの蹴り防ぐ氷とか頭おかしい』

▽『いやこれが普通なんだぞ』


 ぐるりと此方を向いたフェンリル。

 縄張りを荒らしに来た人間への反撃とばかりに振り下ろされた、鋭い爪の一撃。それを難なくいなし、今度はユリが巨大狼へ飛び掛かる。

 下段に構えた剣を上へと振り抜く。それはジャイアントパンダベアを一撃で葬り去った技──


「秘剣・天地一閃ッ!!」



    ──しかし──


       ガッキィィィ……ン……



「なっ、なにいっ!?」


▽『カラスくんとまったく同じリアクションじゃん』

▽『仲良しだね』

▽『言ってる場合か!?』

▽『無傷とかマジで!?』


 鉄格子を斬ったユリの剣が、表面すら削れないなんて。いくらなんでも硬すぎるぞ……!?


▽『もしかしてこれ炎属性じゃないと壊せないタイプの氷?』

▽『あり得るわ』

▽『発勁は?』

▽『壁とフェンリルの間に隙間があるから衝撃伝えられないと思うぞ』

▽『マジかー…』


 攻撃を防がれ隙のできた俺達に向かって、フェンリルが勢いよく飛びかかってくる。俺とユリが前に出て防御したが、3人ともあえなく前脚の横薙ぎで吹き飛ばされてしまった。


 くそっ、床が滑るせいで踏ん張りが効かない!

 しかも氷の防御壁のせいでフェンリルまで攻撃が届かない!

 あの壁をなんとかしないとジリ貧だ……!




 //////////////////////////////////////////////////


   ウエノダンジョン深層ボス


   フェンリル


   能力:冷気・瞬間凍結防御


 //////////////////////////////////////////////////




 どうする?

 ここはいったん引き返して、炎属性の武器か何かを探すか──?



「──ネコノタタリッ!!」



    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!



 猫幽霊さん達がフェンリルに向かって飛んでいく。やはりこれまでと同じように氷の防御壁が出現した。猫幽霊さん達は勢いのまま壁に激突し、煙になって消えた。




       ……ジュウウッ……



▽『え?』

▽『あれ?』

▽『じゅっていったのだ』


 氷の壁に、小さな猫型の穴ができている、だと──!?

 そうか……! かわいくてすっかり忘れてたけど、ネコノタタリは青い炎を放つスキルだ!

 これなら、氷の壁をなんとかできるかもしれないぞ!


 ──そう思ったのも束の間。

 パキパキという音ともに、防御壁の穴はあっという間に塞がってしまった。


▽『ああ!』

▽『駄目か……』

▽『でも通用してるぞ』

▽『火力が足りない』

▽『一点集中で連発したらなんとかならないか?』


「一点集中ネコノタタリッ!!」


    にゃあー!

    にゃあー!

    にゃあー!

    にゃあー!


 フェンリルの攻撃を避けつつ、リスナーの提案に乗ったクロネがネコノタタリを放つ。先程よりは深い穴が開いたが、一瞬で塞がってしまった。


▽『惜しいっ!』

▽『もっと連発できないか?』

▽『連発しても凍る速度を超えられないのだ』

▽『先にクロネちゃんの体力が持たなくなりそう』


 あの壁が凍る速度を、壁を溶かす速度が上回らなきゃいけない。ネコノタタリだけじゃ火力不足。

 あとひとつ、なにかピースが必要だ。


 あとひとつ、なにか──


▼『ひとつ試して欲しい事がある』50円

▽『え?』

▽『なんだ?』

▼『クロネちゃんとユリちゃんなら、あの氷の防御壁を突破できるかもしれない』50円

▽『マジで?』

▽『なるほど……あのアイテムを使うんだな!』

▽『俺まだ思いついてない』

▽『ごめん適当なこと言った』

▽『おい』


「鴉羽根&鴉翼ッ!!」


 俺は鴉羽根で目眩しをしつつ、2人を抱えてフェンリルから大きく距離を取る。


「──頼む。聞かせてくれ、その考え」


▼『わかった』50円


 リスナーは俺達にアイデアを伝えた。クロネとユリの2人は、驚きと不安の入り混じった表情をしている。


▼『けどこれはとても作戦と呼べるような代物ではない、単なる思いつきに過ぎない』50円


 確かに荒削りかもしれない。だけど成功すれば、フェンリルの防御壁を突破するどころか、そのまま一気に倒すこともできる。今はこのぶっ飛んだアイデアに賭けるしかない!


「──やるなら時間が必要だな。準備が整うまでの間、俺がフェンリルを引きつける!」

「たったひとりでかい?」

「こんな足場の悪いところで……そんなの危険すぎますにゃっ!」

「危険じゃない戦いなんて無かったさ。クロネ、ユリ──お前達の事を信じてるからな!」


 俺はミサイルのように迫り来る氷柱をすべて蹴り飛ばすと、フェンリルに向かって駆ける。靴の裏に凍った鴉羽根を突き刺してブレードにする。即席のアイススケートだ。


「さあ来い、白銀の神話生物! 俺が遊んでやるぜ!!」



     アオオオオオオオオ



 遠吠えとともに飛びかかってくるフェンリルの爪と牙を、ギリギリのところで躱わす。この寒さと足場の悪さ、そしてフェンリルの攻撃にも、徐々に目が慣れてきた。スケート靴のスピードなら、余裕で回避できる。


▽『10点』

▽『10点』

▽『10点』

▼『靴代』50000円

▽『カラスくんスケートやってたの!?』


「小学生の時に少しだけレンタルでな!」


▽『マジで?オリンピック選手並じゃん』

▽『いやオリンピック選手並ではないだろ』

▽『ごめんまた適当言った』

▽『おい』

▽『けどスピードはかなり出てるし走るよりは良さそうだな』

▽『それな』


 スケート靴でフェンリルの周りをつかず離れず駆け回り、あるときはフェイントをかけ、あるときは鴉翼で頭上を飛び越える。久しぶりだが身体は滑り方をしっかり覚えているようだ。

 これが"氷上の貴公子"と両親から呼ばれていた男の実力だ!




「ご主人!!」

「準備できたぞ!!」

「おう!」


 俺は2人のところに戻る。

 ユリは、橙色に光り輝く剣を構えている。どうやらうまく行ったようだ。

 俺のアイデアはこうだ。ネコノタタリの火力は現時点でもかなり高いはずだ。それこそフェンリルの氷を溶かすくらいに。

 足りないのは、熱の持続力と一点突破の火力。それを補うために、ネコノタタリを直接フェンリルにぶつけるのではなく、ユリの剣を限界まで熱する事にしたのだ。


 ちなみに猫幽霊さん達は炎を剣に移すために刀身にギュッとしがみついていたようで、かなり可愛らしかったんだとか。見れなくて少し残念。後でアーカイブチェックしよう。


「勝負だ、フェンリルッ!」


 俺を追ってきたフェンリルがユリに標的を変えて飛びかかる。ユリは燃え盛る炎の剣を横に構える。


「秘剣・灼熱紅蓮剣!!!」

 

 氷の防御壁が出現した。炎剣と氷壁が空中で激突する。

 バシュウと勢いよく水蒸気が噴き出し、氷の塊が床に落ちる。


▽『きれたあああああああ』

▽『うおおおおおおおお!!』

▽『いったか!?』

▽『届けええええええええええ!!』




     ──アオオオオオオオオ……ン……




 フェンリルの身体が崩れ落ちた。喉元がバックリと大きく避けている。ユリの剣先は、見事に巨大狼を仕留めていたのだ。

 フェンリルは霧になって消滅する。と同時に周囲の氷が溶けて蒸発し、部屋の冷気も収まった。このフロアを凍り付かせていたのも、フェンリルの能力だったのだろう。そう考えると改めてとんでもない強敵だった。


 ユリは冷えた剣を鞘に戻す。


「──終わったぞ。カラス、クロネ」

「ああっ!」

「にゃっ!」


 俺達は高らかにハイタッチを交わした。


▽『よっしゃあああああああああ!!』

▼『おめ!!』50000円

▼『8888888888888』8888円

▼『おめでとおおおおおおおお』50000円

▼『かっけええええええええ』3000円

▽『強敵だったな』

▼『ユリ様ああああああああ』50000円

▼『888888888』8888円

▼『攻略許可されて初日にクリアとか』50000円

▼『ユリちゃんのチャンネルも登録したよ』3000円


「作戦立案してくれたリスナーも、ありがとうな」


▼『うまくいって良かった』50円

▽『よくやった50円』

▽『ナイス作戦だったな50円』


 リスナーに向かって手のひらを突き出す。

 エアハイタッチだ。


「よしみんな、勝利の舞だにゃ!」

「なにそれ」


 今回の陰の功労者、猫幽霊さん達が現れる。そして尻尾をぴこぴこ、猫の手をにゃんにゃんと、愛くるしいダンスを踊り始めた。



    にゃにゃにゃ〜ん♪


           にゃんにゃ〜ん♪


  にゃにゃにゃ〜ん♪


         にゃんにゃ〜ん♪




「にゃるふふっ、みんなコッソリ練習してたんだにゃ♪ どうですかにゃ?」

「かわいい」

「かわいい」


▽『かわいい』

▼『かわいい』2828円

▼『かわいい』50000円

▼『かわいい』3000円

▽『かわいい』

▼『うちの猫が真似し始めた』50000円


 しかもかわいいだけじゃない。手をかざすとほんのり暖かく、寒さでかじかんだ手に一気に血が巡るのを感じる。


 うん。

 今度、猫幽霊さん達へのお礼に鯛焼きパーティーでもしてあげようかな。

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