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第32羽 方向音痴、ウエノダンジョン深層を攻略! 難関ダンジョンに力を合わせて立ち向かえ!

 〜ウエノダンジョン深層〜


 クビオリゴーレムを倒した俺達は、ユリと共に深層を進んでいた。ここから先はユリはおろか、殆どのリスナーも把握していない領域だ。シブヤダンジョンの真相では、幻影(フェイク)壁と隠し通路に苦しめられたが、ここにはいったいどんなギミックがあるのか──?


「──来るぞ、クロネ!」

「にゃ、ネコノタタリッ!!」



    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!



 猫幽霊さん達が"なにもない暗闇"に向かって突撃していく。

 そしてその直後。



     グェ



▽『えっなに!?』

▽『モンスターの悲鳴聞こえた』

▽『なにに攻撃した!?』

▽『もしかして見えない敵なのだ?』

▽『あれ、なんか出てきたぞ』


 悲鳴の聞こえたあたりから、ぎょろぎょろとした大きな目に緑色のトカゲのようなモンスターが姿を現す。カメレオンリザード、自分の姿を周りの景色に溶け込ませて姿を消すモンスターだ。


 姿が見えないといっても、光を当てれば影はできるし、足音や妙な気配もある。それに一撃当てれば擬態も解けるから決して無理ゲーではない。

 しかしこんなモンスターと戦いながら長時間探索をするのは、かなり精神力を使うだろう。


「カラスキック!!」



    グェェェエエエ



 カメレオンリザードは、緑の霧となって消滅した。


▽『これが通常モンスターとか厄介すぎる』

▽『動物系が多かったしカメレオンとかかな?』

▽『こんなの普通の探索者じゃ攻略無理だろ』

▽『しかしカラスくんとクロネちゃんよく気づいたな』


「警戒してなきゃ無理だけど、流石にここまで殺気剥き出しだとな」


▽『殺気って気付けるもんなの?』

▽『けどピエロは気づかなかったよね』

▽『だからピエロなんて居なかったって』

▽『流石チート』

▽『拳法の達人みたいなこと言ってる』

▽『実際カラスくんは拳法の達人みたいなもんでしょ』


「ははは、いやあそれほどでも」

「いや実際たいしたもんだよ、カラス」

「なんだよユリまで照れるじゃねえか」

「油断しなきゃ──な」


 えっ。


 ユリが天井に向かって剣を突き上げると、上からカメレオンリザードが落下してきた。

 もう1匹居たのかよ!?


「おっと。一太刀では無理だったか」


 ユリは逃げようとするカメレオンリザードに数発斬撃を叩き込み、撃破した。それからくるりとポーズを決めてドヤ顔でウインクをしてくる。

 くっ──悔しい、でも、かっこいい──。


▽『有能』

▽『有能』

▽『有能』

▽『あれがほんとの達人だぞ』

▼『油断しちゃダメだぞカラスくん』2000円

▽『仕方ないなあカラスくんは』


「みんな手のひら返すのはやくね!?」

「精進したまえ♪」

「ドンマイにゃ♪」


 ぐぬぬ……クロネまでユリと一緒になってからかってきて……! いやまあ、流石に1匹倒して油断した俺が悪いか。


「わかったよ、ちゃんと気を引き締める」




 カメレオンリザードの奇襲を的確に防ぎつつ、深層を攻略していく。しばらく進むと、鉄格子でできた迷路のようなフロアに出た。


▽『ここで迷路か』

▽『なんで鉄格子?』

▽『動物園モチーフなのか?』

▽『本質的な問題はそこじゃなくて鉄格子である事の副産物なのだ』

▽『つまり???』

▽『隙間から攻撃ができる』



    ビシュッ



 鉄格子の間をすり抜けて、不可視の舌が襲いかかってくる。俺はその攻撃をあえて受け、舌を掴む。カメレオンリザードは苦しそうに呻きながら姿を現した。


「頼むぞクロネ!」

「ネコノタタリ!!」


 鉄格子の隙間から、猫幽霊さん達が離れた敵を攻撃する。カメレオンリザードは逃げようとするが、残念、舌はしっかりと捕まえている。やがて燃え尽きて霧に消えた。


▽『カメレオンと鉄格子の組み合わせか』

▽『なかなか凶悪なギミックだな』

▽『深層だけある』

▽『今みたいにうまく対処できればいいけどな』

▽『カラスくん達が異常なだけで普通はあの舌で即死だからな』

▽『マジ?』

▽『俺なら多分ここで諦めて帰るわ』

▽『クリアさせる気なくて笑う』

 

 勝手に異常者扱いされてるのは置いておいて……確かにあの攻撃は当たりどころが悪ければ致命傷にもなり得る威力だった。このまま迷路を彷徨うのは時間的にもかなりきついな。


「ユリ」

「なんだいカラス」

「プランBでいくぞ」

「OK」


▽『プランB?』

▽『なにそれ?』


 俺は両手で鉄格子を掴む。冷たい感触、やはり材質は鉄だろう。そのまま、思いっ切り左右に引っ張った。


「よっ──こい、しょっと!!」


 ぐにゃりと鉄が曲がる感触。鉄格子が横に歪んで、隙間が大きく広がった。

 こうやって鉄格子を広げていけば、迷路を最短経路で真っ直ぐに突っ切ることができる。カメレオンの奇襲に怯えながら彷徨い歩く必要はないってわけだ。ある意味、裏技だな。


「これあんまり知られてないけど、このくらいの太さの鉄なら、力を入れる方向さえ間違えなければ簡単に曲げられるんだよ」


▽『は?』

▽『また意味わからんこと言ってる』

▽『その常識はカラスくんだけだぞ』

▽『脳筋迷路攻略きちゃ!』

▽『明日からゴリラくんって名乗れ』

▽『ちょっと部屋の鉄格子で試してみたけど無理だ』

▽『独房から書き込んでるのかな?』



    にゃにゃにゃっ  


       にゃにゃ〜〜!!



 足元で猫幽霊さん達が鉄格子曲げにチャレンジしている。

 かわいい。


「けどユリもできるよな?」

「いや素手で鉄パイプを歪めるのは無理だぞ流石に」

「えっそうなの?」

「私にできるのはこれくらいだ」


 ユリは剣を抜くと、スパパパバッ──と鉄格子を三角形に切り裂く。


「お見事」

「これくらい剣を極めれば誰でもできるぞ」


▽『は?』

▽『まず前提がおかしい』

▽『ではその剣の極め方を教えてください』

▼『ユリ様に斬られた鉄格子が羨ましい』3000円

▽『なにいってんだ』

▽『俺はもう常識を求めるのは諦めたぞ』


 ユリと俺は揃って首を傾げる。


「にゃらはははっ♪ 安心して欲しいにゃ、みんな。うちは鉄格子にはなにもできないにゃ」


▽『かわいい』

▽『クロネちゃんが一番常識人だよな』

▽『よかったちゃんとした人がいて』


 お前ら騙されるなよ。

 クロネは常識人じゃなくて常識猫だし、鉄格子は猫に戻れば間をすり抜けられるから壊す必要ないだけなんだぞ。




 〜ウエノダンジョン深層・ボスのいるフロア〜



 迷路を(力尽くで)突破すると、巨大な扉の前に来た。ついにこのダンジョンのラスボス、深層ボスのいるフロアだ。


「クロネくん。この戦いが終わって無事に帰ったら、モフモフさせてくれないか?」

「無駄にフラグを立てるなっての」

「にゃるふふふっ♪ 猫の姿ならいいにゃ」


 シブヤダンジョンのときと比べて、疲労もさほど溜まってはいない。これならいけるはずだ。

 ……下層ボスみたいな初見殺しじゃありませんように。

 俺はそう祈りつつ、扉を開いた。




   ヒュォォオオオオオオオ



「「「────寒ッ!?」」」


 身も凍る程の冷気に、思わず立ちすくむ。扉の先には猛吹雪が吹き荒れ、地面は硬く凍りついていた。


 そして舞う雪の中から、大型モンスターが現れた。

 見上げるほどの巨躯。その荘厳な迫力に怯みそうになる。その毛並みの美しさに息を呑む。背丈が20メートル弱もある、真っ白な狼。


▽『深層ボスきちゃ!』

▽『またまたでかい!!』

▽『氷の世界に白い狼か』

▽『なんか神秘的』

▽『ひょっとしてフェンリルなのだ?』

▽『ユリ様ほどではないけど美しい……』

▽『シブヤのドラゴンよりは小さいし勝ち目ありそう?』

▽『どうだろ……』


 サイズはドラゴンの方が大きかったが、尋常じゃない凍気だ。氷属性の攻撃や、特殊なスキルを持っていると考えていいだろう。



   アオオオオオオオオン



 ──来る!!

 遠吠えとともに、空中に巨大な氷柱が出現する。フェンリルはその氷柱を、此方に向かって発射してきた。この凍った足場で躱わすのはキツい。


「鴉翼ッ!!」


 横に避けられないなら、上に逃げればいい。2人を抱えて高く飛び上がる。そのままフェンリルの背後に着地した。

 よくもやってくれたな。けど、背中がガラ空きだぜ。


「カラスキック」


 俺は背後から全力の前蹴りを叩き込む。完全に隙を捉えた一撃。しかし──



       ガキィィィ……ン……



「なっ、なにいっ!?」


 俺の蹴りは、突如出現した分厚い氷の壁に阻まれてしまった。


▽『そんな……』

▽『なん……だと……』

▽『カラスキックが……』

▽『防がれた……!?』

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