第30豚 悪役令嬢ニニちゃんのストーキング大冒険!?
★大企業の社長令嬢ニニの視点です★
〜ウエノダンジョン中層・ボスのいるフロア〜
わたくしは二二・真珠。
ブターナルコーポレーション社長の高貴なひとり娘ですわ。ニニというニックネームで、探索者をやっておりますの。
ま。探索者と言っても戯れで、庶民とは格が違うのですけれども。その証拠に今日は10人もの使用人を引き連れて、ウエノダンジョンに来ているのですわ。その全員がBランク、攻略なんて楽勝楽勝♪ 少人数でダンジョンに潜る貧乏人は羨んでいいんですのよ? ほほほ♪
そして美しさと気品を兼ね備えたわたくしを見に、今日も視聴者どもが集まってますわ。
▽『ニニちゃ〜ん見てるよ〜』
▽『ファンサクレメンス』
▽『おっぱいおっぱい』
▼『ジャンプして』22円
▽『おっぱい揺らして』
マジでしょうもない豚どもですわ。でもこんな豚でも無碍に扱うとリスナーが減ってしまいますし……底辺配信者になるのだけはプライドが許しませんわ。
「…………………………………………ちっ。」
小さくジャンプする。正直、拳ひとつ分も飛んでないくらいですわ。
▽『舌打ち助かる』
▽『ブッヒイイイイイイイ』
▼『ぶひいいいいいいいい!!』22円
▽『小ジャンプ助かる』
ほほほ、こんなんでリスナーの機嫌が取れるんだからちょろいもんですわね♪ 貧乏人どもが一発逆転を狙って配信者になるのもわかる気がしますわ。
「さて、今日はわたくしの使用人達と一緒に中層ボスのジャイアントパンダベアを討伐しますわ。うまく討伐できたら褒めてくださいませ♪」
ジャイアントパンダベアは強敵ですが、使用人どもが囲んでタコ殴りにすれば倒せなくもない筈ですわ。そしてわたくしは最後のトドメをいただくのですわ♪
扉を開いて、いざ、ボス戦ですわっ♪
(──秘剣・天地一閃ッ!!)
(パァアアァアアアアアアアッ!!)
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
…………は?
ユリがジャイアントパンダベアを一刀両断にしていましたわ。
……あらあらあら? ジャイアントパンダベアってあんなに簡単に倒せるものだったかしら……?
いやいやいやそんなわけありませんわ!!?!?
ジャイアントパンダベアどころかパンダベアですら、Aランク探索者が何発も攻撃してようやく倒せるのが普通なんですわよ!?
あの方なに"いい汗かいた"みたいな涼しい顔でとんでもないことしてるんですの!? てかユリってあんなにお強かったんですのおおおお!?
「お嬢様、あれを」
「なんですの、アレって────」
使用人が指差した方を見たわたくしは驚いた。
バカラス!? それにクロネとかいう備品!?
なんであいつらみたいな庶民があんな所に──
────まさか────横取り!?
昼間の腹いせとばかりに、わたくしが狙っていた獲物を、ユリと共謀して横取りしたんですの!? だっ、だとしたらなんて卑劣なッ!
ユナイテッドファッションのイメージガールだけでなく、ジャイアントパンダベアまで奪っていくなんて! どこまでわたくしの邪魔をすれば気が済むんですの!?
ぜったいにぜったいに許しませんわ、バカラス!
「お嬢様、中ボスは復活まで時間がかかりますし、本日はもう帰宅いたしましょう」
「イヤですわ! 手ぶらで帰るなんてイヤですわ!」
「しかしですね──」
「それよりバカラス達のあとをこっそり追いかけますわよ!」
「追ってどうするのですか?」
「苦戦しているところを見て笑ってやるのですわ!」
「はあ……」
「それから跪かせて、わたくしの下僕にしてやるのですわ!」
うふふ……楽しみですわ……! バカラスを下僕にしたら、毎日、豚のモノマネをさせて、脚を舐めさせてやるのですわ!
「わたくしをコケにした事を後悔させてやりますわ! 首を洗って待ってらっしゃい! ほほほほほ!!」
▼『高笑い助かる』22円
▽『カラス達もう行っちゃったぞ』
────
──
〜ウエノダンジョン下層〜
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」
なんなんですのあいつら、歩くの早すぎますわ……足場の悪いダンジョンをまるでレッドカーペットのようにすたすた歩いて行きますわ……。
▽『息切れ助かる』
▽『汗助かる』
助かりませんわ!!!
だいたいこっちはワンピースなんですのよ!? もうちょっと休憩とか、その、気を遣ってくださってもいいんじゃありませんこと!? このわたくしをこんな目に合わせて! あの貧乏人ども、まったく許せませんわ!
▽『カラス達なにかと戦ってるな』
▽『クレイジーラットの大群だ!』
▽『うげ、ネズミだらけ』
ほほほ、クレイジーラットは先程のようにはいきませんわよ! 小さくてすばしっこくて攻撃は当たらないうえに、数匹倒してもキリがない強敵! さあネズミの大群に囲まれて悲鳴でもあげるがいいですわ!
そこで颯爽と現れたわたくしはこう言うのです。「これまでの非礼を詫びて、わたくしの下僕になるなら助けてあげてもよくってよ」と!!
(──ネコノタタリ!!──)
(──にゃあにゃあにゃあにゃあ──)
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『えっ』
…………は?
クレイジーラット達が猫のおやつにされてますわ。
我が目を疑い擦りましたが結果は変わりませんわね。
な、なんなんですのあの魔法スキルはあああああああ!? 召喚術でもないし、見たことありませんわ!?
どどどどうなっていますの!? どうなっていますの!?!? あのクロネとかいう雌猫、ただのオマケのマスコットじゃありませんの!?
「うぐぎぎぎ……あの役立たずのネズミどもがあ……」
▽『歯軋り助かる』
▼『悪役令嬢みたいな台詞で草生える』22円
▽『あ、こっちにもネズミが』
「え? んぎゃああああああああ!! なにやってますの使用人どもおおおおおお!!! ネズミがわたくしの15万のワンピースの中にいいいい!!?」
────
──
〜ウエノダンジョン下層・ボスのいるフロア〜
「ひぃ……ふひぃ……っ」
ぼ……ボロボロになりながらもなんとかクレイジーラットを撒きましたわ……うう、散々な目に遭いましたわ……。
▽『ニニちゃんの下着ないなった』
▽『上も下もネズミに食われたからな』
▽『黒かったな』
▽『いまノーブラノーパンなんだよな』
▼『下着代』22円
「うるさいですわっ!!!」
それもこれも全部あのバカラスのせいですわ!! 人がこんだけ苦労してるのに、能天気に進んで!! ここ下層ですのよ!? わかってますの!?
「しかしこの下層ボスは対策していなければ即死させられるクビオリゴーレム! 流石のバカラスどもも今度こそジ・エンドですわ! ほほほほほー!!」
「即死したら下僕にできないのでは?」
「────しっ、しまったですわ! ちょ、ちょっと、お待ちなさいバカラス!!」
「もう入っていってしまいましたが……」
「ひえええええええええ!?」
どどどどどど、どうするんですの!?
いえ、いくら礼儀知らずの庶民でも、流石に対策くらいしている筈……そっ、そうですわ、取り敢えず様子を確認しましょう! チラッと中を覗くだけなら平気なはずですわ!
…………。
……ちらっ?
(──斬鉄剣──!!)
(──正拳突き&発勁──!!)
ゴーレムはユリの剣で声もなく真っ二つになり、バカラスの正拳突きで粉々に砕け散りましたわ。討伐完了ですわ。あー無事でヨカッタデスワネ。
ってなんですのこれ!? 悪夢! 悪夢ですわ!
下層ボスのゴーレムがあんな粘土細工の壺みたいにあっさりぶっ壊れるわけないですわ!? あ、あの方々に常識は通じないんですの!?
くっ、吠え面かかせてやろうと思ったのに……ですがこの先は深層ですわ、今度こそ流石に少しくらい苦戦────いやいや、深層!? そんなところに行ったら、こっちが何分生きていられるかわかったものじゃありませんわ!
「ふぎいい〜っ!!」
悔しい! 悔しいですわ!!
腹立ち紛れに地面を踏み潰しますわ!!
▽『地団駄助かる』
▽『おっぱい揺れとる』
▽『しかし規格外だなあの3人』
▼『ニニちゃんもおっぱいも規格外だし(震え)』22円
▽『3人じゃなくて4人だろ』
▽『4人? あれほんとだ……』
▽『なんかいつの間にか増えてるな』
………………はあ?
なに言ってるんですのこの豚ども。
ついに数も数えられなくなったんですの?
▽『いつから居たんだあのピエロ?』
▽『俺にも見える変なピエロ』
▽『錯覚じゃなかったか』
▽『あんなに近くにいるのにカラス達なんで気づかないんだ?』
……ピエロォオ???
何度見ても、バカラス、ユリ、クロネの2人と1匹しか居ませんわ。ピエロなんてここに来てから一度も見ていませんわよ、っと。
▽『あ』
▽『ピエロがこっちに気づいた』
▽『やばい』
▽『来る』
▽『ピエロがこっちに来る』




