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第27羽 方向音痴、ウエノダンジョンを攻略開始!! 鴉と黒猫VSパンダ!?

 〜ウエノダンジョン東口〜


「リスナーのみんなこんからす〜」

「こんくろね〜♪」

「今日はウエノダンジョンに来ています!」

「にゃっ!」


 配信用ドローンを宙に浮かせ、リスナー達にゴキゲンな挨拶をする。放課後のダンジョン攻略配信だ。


▽『こんからす〜』

▽『こんから!』

▽『こんくろ!』

▽『こんからこんくろ〜』

▽『挨拶きまって良かった』

▽『てかクロネちゃんブレザー!?』

▽『シブヤ学園のじゃん』

▽『かわいい』

▽『メイド服も良かったけどこれもいいな』

▽『なんかいけない気持ちになる……』


「にゃらはははっ♪ ありがとにゃん〜♥」


 カメラの前でくるくる回ってみせるクロネ。いつも以上にスカートの中が見えないように気をつけなきゃな………………待ってあいつパンツ穿いてなくね!?


「どうしたにゃ、ご主人?」

「いっ、いや、なんでも……」


 ねえいまパンツ穿いてる?

 ──なんて聞けるわけがない。

 頼む。気のせいであってくれ。


▽『今日はウエノダンジョン攻略するの?』

▽『ニュース見たのだ。ダンジョンクリアの許可出たんだって?』

▽『おめ』

▽『おめ!』


「そうだな、その辺は俺の口からも改めて説明させてくれ」


 記憶に新しいシブヤダンジョンのコア破壊。正規のクリア方法では台座に埋めるべきダンジョンコアを、俺達は見事に壊してしまった。

 正規クリアと同様にモンスターの復活停止とトラップ停止がされているか、別の危険性が無いか等をダンジョン協会の人が厳密に調査してくれたらしい。

 その調査で一体のモンスターも確認されなかった事から、コアの破壊によるクリアは"正規クリアの効果"をそのまま受け継いでいる上、"モンスターの自動撃破という追加効果"を得ることができたと判断された。


 それから様々な審議を経て、"ダンジョンコアの破壊"はこれまでより優れたクリア方法として確立されることになったのだ。

 そのおかげでようやく俺達も、ダンジョンコアへの接触を許されたというわけだ。


 ちなみにこの件の対応で、ダンジョン協会は数十人の職員が交代勤務で徹夜に次ぐ徹夜だったと聞く。やりがいのある仕事だったと言ってくれたが、本当申し訳ない。


▽『これからはコアは壊した方がいいってこと?』

▽『そう。まあ普通は壊せないんだけど』

▽『すげえな…カラスくんのおかげでダンジョンの常識が変わったのか』

▽『ノーベルダンジョン賞はもらえたの?』

▽『そんな賞は無いのだ』

▽『でも結構な報奨金出たらしいね。数千万とか』

▽『マ?大金持ちじゃん』

▽『なにに使うの?』


「そうだな──新しい配信機材買ったりとか、あと服とか、旅行とかにも行きたいし──」

「ご主人、あれ保護猫活動の団体に募金しちゃったから残ってないにゃ」


 なんで言っちゃうのクロネ!?

 打ち合わせと違うんだけど!?!?


▽『カラスくんさあ……聖人か?』

▽『照れ隠しが過ぎる』

▽『バラされてて草』

▽『全額寄付したの!?』

▽『やりやがった』

▽『猫愛護に目覚めたか』


「えっあっ、いやあの、別に隠してたわけじゃないけどさ……なんかこう、むず痒いっていうか……照れるっていうか……キャラじゃないし……」


 クロネと生活する事を決めてから、猫について色々調べる機会が増えた。そして世の中は綺麗事だけでは回っていない事を知った。

 庭を荒らす野良猫の駆除、売れ残ったペットの処理、飼えなくなった猫の放棄、ペット虐待、道路に飛び出して死ぬ仔猫……。

 以前の俺なら"可哀想に"と思うだけだっただろう。けど一度でもこれがクロネだったらと考えてしまうと、まるで肺が締め付けられるようだった。


 すべては無理でも1匹でも多く救えるのならと、自分なりに支援をすることに決めたのだ。



 ただ、そういった事を自分から言っていくのは、善行をアピールする政治家みたいで気が引けた。だからあくまで、ひっそりとやっていくつもりだったのだ。


 しかし、とあるコメントが目に留まる。


▼『堂々とアピールした方がいいのだ。配信をきっかけにそういう活動があることを知って、興味を持ってもらえば支援者が増えるかも知れないのだ。恥ずかしがる事はないのだ』50000円


 言われてみればそうか。いい活動があるなら声をあげていくってのも、インフルエンサーの役割なのかもな。マイナスにはならない筈だ。


 ……大人だな、俺のリスナーは。


「わかった。俺はこれからも、できる範囲で保護猫支援を続けるつもりだ。みんなも、少しでも力を貸してくれたら嬉しい」


▼『あたりまえだよなあ』50000円

▼『立派になってこの子は』50000円

▼『支援』50000円

▼『俺も』50000円

▼『相変わらずかわいい』50000円

▼『支援』50000円

▼『支援』50000円

▼『ネコと和解せよ』50000円


 赤スパの嵐であたりが真っ赤に染まる。みんな優しいじゃねえか……知ってたけど。

 次からは直接概要欄に載せていいか聞いておこう。


「ありがとう、みんな」

「ありがとにゃ」

「──そんじゃ、そろそろ本編開始! いくぞ、鴉と黒猫のウエノダンジョン攻略!」

「えいえいおーにゃ!」


▽『おー!』

▽『えいえいおー』

▽『おーっ!』

▽『おーっ!』

▽『おー』

▽『応ッ!』

▽『おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』


 俺達は掛け声をあげて、ダンジョンへと入っていった。





▽『あれ?今日ってコラボ?』

▽『いやいつもの2人だぞ』

▽『ごめん一瞬3人に見えた』

▽『通行人かな』

▽『幽霊だったりして』

▽『怖いこと言うなよ』





    ぎゃあっ



       ぎゃあっ





 ────

 ──




 〜ウエノダンジョン中層〜


 攻略開始から1時間弱。上層を意外とすんなり攻略しボスも撃破した俺達は、中層に挑んでいた。

 上層とはいえこんなに早く攻略できるようになったのは、俺自身の変化もあるかもしれない。迷子が減ったわけではないが、迷子を恐れる事は少なくなった。支えてくれる皆のおかげだ。


 ウエノの中層からは、かなり個性的なモンスターが出現するので楽しみにしていた。それは──パンダ型モンスターだ。



   パンダー!!




 鳴き声"パンダ"なんだ……。


▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『ビッグベアの亜種パンダベアだ』

▽『パンダなのかベアなのかどっちだ』


 モンスターだと分かっていても、かわいくて倒すの躊躇ってしまう。しかし放っておけば増えてダンジョンの外に溢れ出す。そうなると犠牲になるのは、力を持たない人達や生き物達だ。


▽『かわいいけど倒さなきゃなのだ』

▽『うん……』

▽『見た目がかわいくても戦闘力はビッグベアだからな』

▽『ヒグマの5倍くらいの強さだっけ』

▽『ひぇっ……』

▽『そうだよな。カラスくんが強すぎて感覚麻痺してたけど、モンスターって本来危険な生き物だもんな』

▽『わかった。カラスくん倒してくれ!』


 理解あるリスナー達で助かる。

 せめて苦しまずに逝かせてやろう。


「カラスキック!!」



   パンダァアアアアアアア──ッ!?




 やられ声"パンダ"なんだ。

 パンダベアは白黒の霧になって消滅した。これくらいなら苦戦はしない。


▽『相変わらずクソ強いなカラスキック』

▽『信頼のカラスキック』

▽『安心して見ていられるコンテンツ』

▽『でもネコノタタリも見たい』

▽『魔力消費もったいないだろ』

▽『てか今日絶好調じゃんカラスくん』

▽『確かにキックのキレがいつもよりいいのだ』


「そうか? 言われてみればなんか調子いいかもな」

「なにかいいコトありましたかにゃ?」


 今日は不思議なくらいコンディションがいい。久々の登校だったが、疲れはまったくと言っていいほど残っていない。

 いいことか────ユリと久々に話せた事も大きいけど────今はクロネの可愛らしい制服姿を見ていると、不思議と体温が上がる気がする。まさかの女子高生クロネ効果なのか?


 ──って!

 それじゃ俺が変態みたいじゃあないか!!


▽『それにしてもなかなか個性的なダンジョンだな』

▽『パンダとピエロってサーカスかよ』

▽『ピエロ?』

▽『なに言ってんだ』

▽『あれ?さっきピエロが横切らなかった?』

▽『気のせいだろ』


 ん?

 ピエロ?

 どこかに居たっけ?


「もしかしてピエロも居たのかな、クロネ見た?」

「? うちは見てませんにゃ」


 クロネは首を振る。

 暗闇で目が効くだけでなく、気配にも敏感なクロネがそう言うんだ。見落としたわけではないだろう。


▽『ごめん何か他のものを見間違えたのかも』

▽『ドンマイ』

▽『よくある事だから気にすんなw』

▽『薄暗いしな』


 荒れる流れにならなくて良かった。

 ホントに


「ひょっとしたら他の探索者の人がピエロに見えたのかもな」

「そうだと思いますにゃ。ほら、あそこに居ますにゃ」

「あ、ホントだ」


 進行方向の先で、ひとりの探索者が行ったり来たりしていた。何もない岩陰や地面の隙間を見ては、がっくりと項垂れている。

 ダンジョン攻略、という感じではないな。なにか落とし物でもして、困っているのだろうか?


 ……というかあのポニーテール、なんか見覚えが……


「あれ、もしかして────ユリ?」

「え? か、カラスかい!?」


 ほんの数時間前に別れたばかりの友人と、偶然にもダンジョンで再開した。

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