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第25羽 方向音痴、学校へ行く! 嵐を呼ぶ転校生、クロネ参戦!!

 〜私立シブヤ学園〜


 あらすじ。先生の言葉に、いったいどんな転校生が来るのかと期待を膨らませるクラスメイト達。教室の扉を開けて入ってきたのは、クロネだった。


 ────な────


 なんでクロネがここに!? 家で待ってる筈じゃ!? てかクロバネクロネって!? あと制服可愛いな!? 猫幽霊さん達が作ったのかな!?


「知ってるやつも多いかもしれないがクロバネは──と呼ぶと紛らわしいからこれからは下の名前で呼ぶぞ──クロネは人間に化けている猫だそうだ。この学園にどうしても通いたいというので学園長に聞いたらOKしてくれた」


 寛容だなうちの学校!!


「上目遣いでお願いしたらコロっと落ちましたにゃ♥」

「うちの学園長、猫好きで有名だからなあ」


 クロネの最終奥義"猫の姿でおねだり"!?

 そんなの猫好きの学園長が断れるわけないだろ!!


「あと入学試験やらせてみたら満点だったし」

「にゃらはははっ♪」


 いや凄いなクロネ!?

 どこまでハイスペックになるんだよお前!?

 俺より点数高くない!?


「書類上は教室で飼うための猫という備品扱いだが、みんなは転校生として仲良くしてやってくれ」


 備品かい!?

 まさかの抜け穴だけど、普通に入学させられるわけもないし、まあそうか。


「教材としてお役に立ちますにゃ、皆さんよろしくお願いしますにゃ!」

「よろしくー!」「よろしくクロネちゃん!」「かわいい……」


 拍手と大歓声が鳴り響く。

 制服猫耳美少女が嫌いな人類なんて居ないからな。

 きっとみんな優しくしてくれるだろう。


「さてクロネの席だが──」

「はい先生ィッ!!!」


 ユリ!?


 女好きのユリが物凄い勢いで手を挙げ立ち上がった。

 見れば両目を肉食獣のように爛々と輝かせている。

 さっそくロックオンしやがったな!?


「どうした神代?」

「クロネくんはこの学校に慣れていません! ここは風紀委員であるこの私と、彼女と親交の深いカラス君の間に来て貰えればなにかとサポートもしやすいかと!」

「一理あるな。じゃあ2人の間に入って貰うか」

「では机を運ぶのを手伝いますッ!」


 ユリは手際よく空いている机と椅子を持ってくると、自分と俺の席の間に無理矢理捩じ込んだ。なんてスピードだ。一瞬ユリがダッシュババアに見えたぞ。


「こちらへどうぞ、美しいお嬢さん」

「にゃらはははっ! 流石はご主人のお友達、面白いにゃ♪」


 ユリは席一つ挟んでもわかるほどにキラキラオーラを放っている。初対面の相手にグイグイ来られてもまったく動じないクロネも流石だ。横で見てる俺ですら、若干ヒいてるのに。


「私は風紀委員の神代ユリだ。気安くユリと呼び捨てにしてくれて構わない。困った事があればいつでも力になろう」

「それなら遠慮なく甘えさせていただきますにゃ、ユリ」

「ふふっ。キミとは仲良くなれそうな気がするよ」

「お隣さん同士よろしくにゃん」

「ああ。よろしくな」


 そう言って握手し、ユリは会話を切り上げる。普段のユリの場合、こんな美少女を捕まえたらここまで早く解放することはない。

 配慮してくれたんだろう。クロネと、俺に。


「……来ちゃいましたにゃ、ご主人♪」


 そう言ってクロネは、お日様のような笑顔で微笑む。

 そっか……こいつも家で1人じゃ寂しいよな。

 俺に会えてこんなに幸せそうな顔を見せてくれるなんて。


「もう、しょうがないなあ」

「にゃっ」

「これからは学校でもずっと一緒に居られるな」

「みゃんっ♥」


 そしてなんだかんだ、俺も嬉しいみたいだ。

 やがて、1時間目の授業が始まる。俺とユリはどっちが教科書をクロネに見せるかジャンケンをした。


 退屈な授業。

 窓から吹き込む風。

 黒板を刻むチョークと、ノートを走るペンの音。


 懐かしい日常が戻ってきた。

 ちょっぴりだけ騒がしくなって。




 ────

 ──




 〜昼休み時間・屋上〜


 学校の屋上。それはコミュニケーション弱者にとってのオアシスである。アニメや漫画だと何故か都合よく主人公達しかいないあのご都合主義的スポットだが、この学園の屋上にも人影はない。



    ぎゃあっ



       ぎゃあっ



 数ヶ月前から住み着いた鴉が弁当や持ち物を盗んでいくため、他の生徒は近寄らないというわけだ。鴉達は俺を仲間だと思ってるのか危害を加えないため、ここは絶好の穴場である。


「ふう。ここなら落ち着いて休憩できるな」



    ぎゃあっ



      ギャアぎゃああっ



「………………落ち着けるか?」

「鴉達なら平気だって。うちの近くにもよく来るし」

「というかキミはいつも昼どこかにいってると思ったら、こんな寂しい場所でひとりで食事を……?」

「い、いいだろ別にっ!!」


 教室に居たら男子達の視線が痛すぎる。"こんな可愛い子と同棲しやがって"という憎しみのこもった眼差しを耐え続ける自信がない。

 それにクロネも休み時間は質問責めにされたりナンパされそうになったりと、ゆっくり落ち着くこともできなかっただろう。


「けどユリはいいのか? いつもはファンクラブの子達と食べてるじゃん」

「ははっ、今日はクロネくんとカラスが優先さ」


 俺達3人は狭いベンチに並んで座る。

 クロネ、俺、ユリの順番だ。


 ──あれ?


「ユリ。お前クロネの隣じゃなくて良かったのか?」

「じつは……キミと席が離れてしまってちょびっと寂しい」

「お前が提案したんだろ」

「大切なものは失ってから気づくんだな……」

「なにシリアスっぽく決めてやがる」

「はっはっは、まあいいじゃないか!」


 恋人のように腕を絡ませてくるユリ。男友達とじゃれるような態度で、すぐ俺にこういう事をするから油断ならない。といってもユリの方が背が高いせいでまったくサマになってないが。ちくしょう。


 そして、何故かクロネも反対側から俺にくっついてきた。さらに俺の腰に尻尾まで巻きつけてくる。う、動きづらい……!


「お、お腹減ったしはやく昼飯にしようぜ!」


 両側から美少女に挟まれて心臓がもたなかった俺は、話題を逸らす。

 いつものようにクロネは作ってきてくれたお弁当を広げる。今日のメインは5種類のサンドイッチ、どれも美味しそうだ。普段ひとりで齧ってるパンだけの昼食とは比べようもない。


「はいご主人、"あ〜ん♥"だにゃ♪」

「あ…………あ〜ん」


 これを断るとクロネが悲しそうな目をするのがわかっているので、大人しく口を開ける。顔から火が出るくらい恥ずかしいが、今はユリに見られるだけだし、全世界に配信された事を思えばどうって事ない。


「クロネくんクロネくん、わたしにもその、"あ〜ん♥"してくれないだろうか?」

「なんでだよ」

「まあまあご主人、ご友人とは仲良くするものにゃ」


 律儀にユリにもサンドイッチを食べさせてあげるクロネ。よくできた猫ちゃんだ。


「というかユリ、自分の昼飯はどうしたんだ?」

「ああ、勿論作ってきたぞ、2人分!」

「2人分? 誰かと食べるつもりだったのか?」

「キミの分に決まっているだろう」

「俺……?」

「というか、今日は最初からカラスを誘うつもりだったんだ」


 え?

 弁当?

 ユリが?

 俺に?


 なんで???


「ファンクラブのレディ達がいつも私におかずをくれるんだが、私もなにか返してやりたくてな。休みの間に料理の練習を初めたんだ」

「甲斐甲斐しいな、偉いぞ」

「しかしまだ自信がなくてな。第三者の意見も取り入れたいが、女の子は私に気を遣って正直な感想は言ってくれないだろうし」

「俺に感想を聞きたかったってわけね。了解」


 二段重ねの弁当箱の蓋をあける。

 上の段は女の子が好みそうなカクテルフルーツサラダと、夏野菜メインのグラタン。野菜だらけだな。

 下の段はミートボールやら春巻きなど、ガッツリしたおかずだ。


「これまた対照的だな」

「野菜だけだと食べ盛りのカラスには足りないだろう? そっちはキミ専用だから、味付けも適当だぞ」

「わざわざありがとうな」


 俺は取り敢えず野菜を食べる。味付けはかなり薄めで、素材の味って感じだ。男子には物足りない味だが、女子ウケはするのかもしれない。具材も小さく切りすぎな気はするが、女子向けと考えれば妥当なところだ。

 その感想をそのまま伝えると、ユリは苦笑いしていた。


 上の段を食べ終わると、ユリはミートボールを箸で掴む。


「はい、"あ〜ん♪"」

「お前もそれやるのかよ」

「一度やってみたかったんだ」

「女の子にやってあげたら喜ぶと思うぞ」

「取り合いになるんだよ……」

「だろうな……」


 俺はユリの箸からミートボールを貰う。


「旨っ」


 外はカリカリで中はしっとり、それでいてぎゅっと肉の旨みが詰まっている。甘辛いタレも絶品だ。冷めたミートボールをここまで美味しくできるなんて!

 俺もクロネの影響で料理に手を出し始めたからわかる。適当でこんなものは作れない。手間を惜しまず仕込んでくれたんだろう。


「もう……すき……」

「いい友達を持って幸せだな、カラス?」

「幸せ……」


 それから俺は2人のお弁当に舌鼓を打った。クロネとユリもすっかり打ち解けたようで、お互いにおかずを交換したり食べさせあったりしていた。

 それから家でのクロネの様子とか、俺の様子とか、ユリのこととか、色々なことを話した。



    ぎゃあっ



       ぎゃあっ



「「「──ご馳走様でした」」」


 お弁当を食べ終わった俺達はのんびりと片付けを済ませる。気をつけていたし、今回は頬におかずをつけるような失態はしていない。2人の前だからな。


 昼休みはまだ30分ほど残っている。


「まだ時間もあるし、校舎の案内でもしようか?」

「キミが? 大丈夫なのかい?」

「慣れた学校だし、久しぶりだけど教室と屋上には迷子にならずに来れたしな。ちょっとくらい俺にも格好つけさせてくれ」


 それに、弁当のお礼を2人にしたいし。

 ユリはハンカチを取り出し、わざとらしく目元を拭う。


「カラス……立派になったなあ。移動教室のときに私の後ろをよちよち歩いてきてたキミが……」

「そ、そんなペンギンみたいな歩き方してないだろ!?」

「にゃらはははっ♪ よろしくにゃ、ご主人♪」

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