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第24羽 方向音痴、学校へ行く! チビのカースト最下位男子が一躍有名人ってそれマ?

 〜私立シブヤ学園〜


 私立シブヤ学園は、中高一貫のエスカレーター式の学校だ。東京のいわゆる名門校で、授業料は恐ろしく高い。

 血が滲むほど努力してなんとか特待生の枠に滑り込むことができたが、本来なら俺みたいな貧乏人は敷地に入ることすら烏滸がましい場所だ。


「すぅ〜……っ……はぁ〜……っ……」


 俺の名前は骸屍(くろばね)鴉守(からす)

 年齢16歳。私立シブヤ学園に通う高校2年生だ。


 俺は2-Aと書かれた教室のドアの前で深呼吸をする。なにせ高熱で休んでいるうちに創立記念の大型連休に入ってしまったので、部活にも所属してない俺は登校するのも久しぶりなのだ。

 "バズりまくってニュースに出て有名人になってからの登校"という括りなら、初登校だ。


 どうなってしまうんだ?


 クラスでも目立たないモブキャラその1みたいな俺が、あんな大事件を起こしてしまった。ネットのみんなの前やダンジョンでは堂々とした態度でいられたが、クラスでも同じようにできるのだろうか?


 ここにクロネが居なくてよかった。俺のこんな情けないところを見せて失望されたくないからな……。今頃彼女は家で休んでいる筈だ。


 というか、いつまでもここにはいられない、よな。

 頼む、鎮まれ俺の心臓よ……!

 俺は息を殺して後ろの扉から飛び込み、窓際の席に向かって隠密歩行を試みる。頼む、誰も気づくなよ……!


    わいわい──


        ──がやがや



  「──おい、カラスが来たぞ!!」



 やすやすと捕捉された俺はクラスメイトの輪に取り囲まれる。ま、待ってくれ、まだ心の準備が!!


「おはようカラスくん配信見たよ!」

「世界的ニュースになってるじゃん!」

「お前はなにかやってくれる奴だと思ってたよ」

「芸能人とかに会った!?」

「コラボとかしないの?」

「そろそろうちの陸上部に入ってくれないか」

「うちの母親がユナイテッドファッションの服全部捨ててたよ!」

「クロネちゃんとはどこまで進展した?」


「あっ、あの……久しぶり、みんな」


「「「「「「久しぶり!!!」」」」」」


 普段ろくに話したことのないコミュ強クラスメイトの包囲網にたじたじになる。それからはなにを話したかよく覚えていない。リスナーのコメントには脊髄で返事できるのに!

 テレビでファンに囲まれる俳優やスポーツ選手を見て"いいなあ"とか思ってた過去の俺よ、実際は全ッ然羨ましくないぞ!


 やがて始業のチャイムが鳴り、担任の先生が"席に着け〜"と教室に入って来たことでようやく解放された。




「くくっ、朝からへろへろじゃないか、カラス」

「なんだよユリ。助けてくれたって良かっただろ」

「なかなか貴重な表情だったな」


 椅子に座るやいなや、隣の席の女子に揶揄われてしまった。

 彼女は神代(かみしろ)・ゆり。17歳。風紀委員。

 ユリというニックネームで配信者をしている。


 風紀委員のくせに女好きの肉食系女子で、女子どころか女教師すらも落としていると噂の危険人物だ。校内には彼女のファンクラブがあり、女子達からは"王子様"と呼ばれているらしい。


 圧倒的カースト上位。女子の枠なら頂点。むしろカーストはるか上空に立って品定めをする側。


 そんなわけで俺とはまるで縁のなさそうな少女なのだが、なぜか高確率で隣の席になり、なにかと気にかけてくれる。俺も不思議と、あまり気後れしない。

 

「なあに、どうせこれからも似たような目に遭うんだ。場慣れしておきたまえ」

「勘弁してくれ……」

「ほら、キミが休んでた時のノートとっておいてやったぞ」

「サンキュ、助かるわ」


 さらっとこういう事ができるからモテるんだろうな。


 ノートは蛍光ペンや赤ペンで几帳面にまとめられていて、とても見やすかった。自分のノートですらここまで丁寧には書かないだろう。所々に鴉のゆるキャラの絵が描かれていて、吹き出しでポイントを教えてくれている。

 最後の吹き出しは"最後のポイント!健康第一、あまり無理はしないように"だった。


「もう……すき……」

「いいんだぞ、ハグしても?」

「いやだよファンクラブの連中に殺されたくないし」

「ははは、カラスならきっと許してくれるさ。たぶん私の小さい弟みたいなものだと思われてるから」


 え? ……嘘だろ?

 しかもただの弟じゃなくて小さい弟?

 同級生に対する評価かそれ……?


「今度お礼するよ、なにがいい?」

「最近この近くに新しいラーメン屋ができたらしくてな。一緒に行ける男友達を探してたんだ」

「了解、また予定教えてくれよ」


 王子様が女子のファンをぞろぞろ引き連れてラーメン屋ってわけにもいかないもんな。こいつもこう見えて脂っこいものとか好きだし、たまには男同士で羽根を伸ばしたくなるのだろう。


 ──いや男同士じゃないだろ。

 なにいってんだ俺。

 



「お〜い神代に骸屍。HR中にいつまで話してるんだ〜?」


 やばい。久しぶりにユリと話せて楽しくなってしまっていた俺は、先生から槍のような視線に気づかなかった。


「骸屍。いま、お前の事について話そうとしてたんだぞ?」

「え? お、俺のことって──?」

「お前、他校の生徒に暴力を振るったそうじゃあないか?」


 胸の奥がざわつく。

 そうだ。俺はダンジョン内で人を殴ったんだ。しかも全世界に配信されている中で。


「あっ、あれはっ、その────」

「教育委員会から特待生を取り消すべきではないかというクレームが来ていたぞ。少しは普段の振る舞いを見直したらどうだ?」


 先生の呆れ返った溜め息に、教室中がシン……と静まり返った。

 ……どうしていままで許されてると思ってたんだろう。特待生取り消しどころか、退学、いや前科がついたっておかしくないじゃないか?


 心配そうにユリに袖を引っ張られて、ようやく唇が動くようになる。


「────すみません」

「ああ。まったくだ」


 情けない。

 俺はただ、頭を下げることしかできなかった。


「──しかしだ。いじめられている弱い命を見捨てなかった骸屍の行動は立派だった」

「……先生……」

「教育委員会のやつらを黙らせるために、先生も色々と苦労したんだからな。少しは感謝してくれてもいいんだぞ?」


 頬をぽりぽりと掻き、暖かい眼差しで微笑む先生。

 思わず涙が滲む。俺、まだここに居ていいんだ。


「あ、ありがとうございますっ!」

「まあ。先生も猫は嫌いじゃないしな」



    ぱち……

 

         ぱち……



 静かな教室内に、ぱらぱらとまばらに拍手の音が響く。

 気恥ずかしくて顔を背けると、ユリも小さく拍手してくれていた。

 

「いや、俺は別に褒められるような事したわけじゃ……」

「しかしだな。お前らの気持ちもわかるが、全員少し浮かれ過ぎだ」


 拍手が大合奏になる前に、先生は少し厳しい口調で皆を制する。再びシン……と静寂が戻ってくる。


「骸屍の件を皆に話したのは、周りがいたずらに騒いであまり大事にしないで欲しいという注意喚起をしたかったからだ。わかってくれるな?」


「はぁ〜い先生」「気をつけます」「猛反省」


 確かに俺も、どこか浮ついた気持ちがあった。

 有名になってしまったからこそ、これまで以上に自分の態度を律しなくてはいけないのだ。

 皆と一緒に反省する。


「よし。それじゃあ硬い話はこの辺にして、みんなに嬉しいニュースだ! なんと今日からこのクラスに、新しい仲間が加わることになった!」


「「「おおおおおオオ〜〜ッ」」」


 沸き立つ教室。

 ひょっとして転校生?

 いや、この時期に募集なんてかけてないだろうし、留学生とかかな?


「美少女かな!? なあ美少女かな!?」

「急にテンション上がるじゃん」

「美少女だろうな!?」

「知らんがな……」


 ユリが瞬時に身嗜みを整えている。

 美少女だったらどうする気だ?


 

「待たせたな、入ってこ〜い」


 先生が廊下に向かって声をかけると、元気よく扉が開く。

 ブレザーに身を包んだ、さらりとした黒髪の美少女が教室に入ってきた。ぴこぴこと可愛らしく動く猫耳に、楽しげに揺れる2本の猫の尻尾を引っさげて。



「黒猫のクロバネクロネといいますにゃ! 人間のみなさんよろしくお願いしますにゃ♪」



 ────クロネ!? ナンデクロネ!?

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