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第20羽・番外編 方向音痴とダッシュババア。前編

 〜オチャノミズダンジョン入り口〜


 俺の名前は骸屍(くろばね)鴉守(からす)

 年齢16歳。カラスというニックネームで配信者をやっている。

 今日も俺は自動追跡ドローンの電源を入れて、配信を開始する。まずはリスナーへの挨拶だ。


「闇夜を舞う漆黒の翼──深き深淵の理を暴く──! 刮目せよ! 闇夜に轟く鴉と黒猫のダンジョン配信!」


▽『……………………えっ?』

▽『カラスくん!?!?』

▽『急にどうした?』

▽『なんだその挨拶』

▽『深き深淵って意味被ってるのだ』

▽『闇夜って2回言った?』

▽『まだ朝だぞ』

▽『俺は好き』

▽『どうしたのカラスくん、思春期?』


 ………………あ、れ…………?

 リスナーからの反応はすこぶる微妙だ。

 なんでだ? 三日三晩考え尽くした会心の挨拶なのに!


「ご主人……昨日うちに"楽しみにしておけ"っておっしゃってたのってコレのことだったにゃ……?」

「いっ、いいだろ別に! 昨今のダンチューバーは挨拶に個性を求められる時代なんだよ!」

「にゃ、にゃらははは♪ まあ、うちはご主人らしくて可愛いと思いますにゃよ♥」


 かわいい……?

 かっこいいじゃなくて……??


▽『飼い猫に呆れられとるぞ』

▽『クロネちゃんあんまりカラスくんを甘やかしちゃ駄目だよ』

▽『やさしい』

▽『クロネちゃんもやってみてよ、挨拶』


「かしこまにゃ!」


 いきなりリスナーに無茶振りをされた黒猫の少女クロネ。しかしそんな無茶振りに困る様子もない。

 ちなみに今日は評判の良かったメイド服だ。フリフリのスカートからはみ出た2本の尻尾が揺れている。かわいい。

 メイドだとしたらクロネは、だいたいのことはそつなくこなすハイスペックメイドだ。しかし、流石にセンスはダンチューバー歴の長い俺の方が優っているはず。


 勝負だ、クロネ!!


「こんくろね〜♪ みんなのメイドクロネだにゃ♪ 今日もい〜っぱいご奉仕するにゃん♥」


 クロネは尻尾でハートマークを作る。

 おいおいおい、いくらなんでもあざとすぎるぞ?

 やっちまったなクロネ!


▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『推せる』

▽『こんくろね〜』

▽『こんクロ〜』

▽『パーフェクトじゃん

▽『そうそうこういうのだよな』

▽『見習うんだぞカラスくん』


 …………………。

 俺は静かに両手でハートマークを作る。


「こ……こんからす〜♥ 今日はオチャノミズダンジョンに来てま〜す♥」


▽『それだよそれ』

▽『こんからす〜』

▽『やればできるじゃねえか』

▽『カラスくんの成長を感じる』

▽『ちっちゃいハートかわいい♥』

▽『明日からその挨拶で行こう!』

▽『もっとカラスくんのメスが見たい』


 俺のメスってどういうことだよ!?

 俺男なんだけど!?

 ま、まあ褒められるのは悪い気分しないけど……


 ……ってダメに決まってるだろ!!

 取り返しがつかなくなる前に普通の話し方に戻さないと!


「前回シブヤダンジョンを攻略したので、新しいダンジョンどこ行こうかなって考えてたんですけど。リスナーのみんなにアンケート取ったところ、オチャノミズがかなり人気だったんですよね」

「うんうん。なんか面白い噂があるって聞いたにゃ!」


▽『噂ってなに?』

▽『もしかして"ダッシュババア"の事か?』

▽『そうそう』

▽『最近バズってるよね!』

▽『真偽はかなり怪しいけどな』

▽『カラスくんは知ってるの?』


「話くらいなら、な」


 ダッシュババアというのは、かなりポピュラーな都市伝説だ。深夜に車で走っていると、後ろから凄い速度で老婆が追いかけてくるというものだ。

 場所はトンネルだったり高速道路だったり、追いつかれたり追い越されたりといった細かいバリエーションも多いが、異常に脚の速い老婆が出てくる点は共通している。


 その高速移動老婆が、この令和のダンジョンで目撃されているという噂だ。しかしあまりに移動速度が速いのと、配信者の多くは走る老婆を怖がって逃げてしまうため、その姿ははっきりとは残っていない。

 白髪に赤い着物だったとか、いや白い着物だったとか、裸だったとか、特徴も様々だ。


 果たして見間違えか、モンスターか、やらせなのか、それとも──?

 と、どうやらこの噂がリスナーの間では大きな話題(トレンド)になっているらしい。


▽『カラスくんもそういうの興味あったんだ』


「まあ会えるなら会ってみたい、かな。探索者として」


 以前までの俺だったら、たかが都市伝説と笑い飛ばしていただろう。しかしダンジョンでは、この世で説明できない事が起こる。アカリさんの件もそうだし、クロネが人の姿になったのだってダンジョンに入った事が影響しているのかも知れない。


 本当にダンジョン内を高速で走り回るお婆さんが居るのなら、一目見てみたい気もする。


「目撃情報は主に下層のあたりらしい。まずはそこまで行ってみようと思う。それからダッシュババアを探そう」


▽『なるほど今回の目的はダッシュババアか』

▽『オチャノミズダンジョンの攻略は狙わないの?』


 そうだ。それも伝えておかないとな。


「まだ協会からダンジョンコアへの接触は禁止されてるんだ。シブヤダンジョンのダンジョンコアを破壊した事後調査が終わっていないからな。ダンジョンに入るのはいいらしいけど」


▽『あらら』

▽『そういややらかしてたんだっけ』

▽『【悲報】カラスくんまだ許されてなかった』

▽『じゃあクリアはできないのか』


「いまのところモンスターが復活する様子もなければ、ダンジョン内部の地形にも影響はないらしいけど。念のためにダンジョン内の魔力調査っていうのが必要らしくて、それが終わったら"コアの破壊"が正式なクリア方法として認められる。俺が新しいダンジョンをクリアできるようになるのは、その後だ」


▽『協会の人も大変なんだな』

▽『そうなのだ。新しいクリア方法の定義は日本初なのだ』

▽『実現できたら大手柄じゃん!』

▽『それなら暫くは我慢するか』

▽『すこし残念だけどダッシュババア見れるならいいよね』


 心配してくれていたリスナーも、ちゃんと納得してくれたようだ。けどみんな、こんなに俺の配信に期待してくれているんだな。

 ダッシュババアが実在するかはわからないけど、なにかしら見所のある配信にしなきゃな。


「じゃあ行こうか、オチャノミズダンジョン探索スタートだ!」

「えいえいおーにゃ!」


▽『おー!』

▽『えいえいおー』

▽『おーっ!』

▽『おーっ!』

▽『おー』

▽『応ッ!』

▽『おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』




 ────

 ──




 〜オチャノミズダンジョン中層・ボスのいるフロア〜



「鴉翼&カラスキック!!」

「ネコノタタリ!!」



    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!




     ギャァアアアアアアアアアス……



 俺達は連携技で中層ボスの双頭ワイバーンを撃破した。双頭ワイバーンはダンジョンの天井付近を飛行していた。2つの頭があり、同時に倒さないと復活するすこし厄介な敵だ。

 というわけでリスナーからのリクエストもあり"ネコノタタリ"との合体技を披露した。初めてやってみたがうまくいくもんだ。


「みんなかっこよかったにゃ〜! バイバイにゃ〜」



    にゃあっ♪


         にゃあっ♪

  にゃあっ♪


       にゃあっ♪



▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『ネコノタタリ久々だな』

▽『カラスキックがかわいくなった』

▽『ありがとう猫の霊ちゃんたち』

▽『バイバーイ』

 

 リスナーの気持ちはわかる。俺も久しぶりに猫幽霊さんが見れて気分が癒されたし、思わず手を振って見送っていた。

 あとで編集のとき最高にかっこいいエフェクトをつけてあげよう。きっと喜ぶはずだ。


▽『もう下層か』

▽『シブヤダンジョンと比べるとサクサクだな』

▽『オチャノミズはルートも単純で迷路やトラップが少なめなのだ』

▽『その分モンスターが少し強いんだよな』


 ここまで順調に来れたのは迷子になるタイミングが少なかったからで、決して難易度は低くない。

 同じ中層ボスでもリトルクラーケンと比べると、双頭ワイバーンは厄介な特性もあるし僅かにランク上のモンスターに感じた。


 "勝って兜の緒を締めよ"だ。ここからも油断せずにいこう!


 さてと…………来た方向はどっちだっけ…………?


「──────んん?」

「どうしたにゃご主人? そっちはただの壁にゃ」

「いや、あんなところに誰か────」


 ワイバーンの居た岩陰のあたりで、赤い着物を着た小さな人影が右往左往している。と思えば蹲ったり、ぐるぐるとその場で回転したり、奇妙な動きをしている。


▽『迷子かな?』

▽『いやカラスくんじゃあるまいし』

▽『でもカラスくんと同じくらい小さいぞ』

▽『本当に迷子なら保護しないとなw』


 リスナーめっ、言いたい放題言いやがって!

 けどもし俺と同じように困ってるなら、声をかけた方がいいかな……? なんか、足取りがおぼついてないように見えるし。


「あの。すみませ〜ん、大丈夫ですかにゃ?」


 クロネの大声にぴくりと人影が反応する。


 その様子を見てから俺は"しまった"と思った。

 緊急事態などを除いて、配信中に一方的に絡みに行くのはマナーがいいとはいえない。


「あっごめんなさい、配信止めますね!」


 俺はアイテムボックスのスマホに手を伸ばす。

 しかし、その必要は無かった。




      タタッ




「え?」「にゃ?」


 その人物は高速でフロアの端に駆け抜けて行った。

 動きは殆ど見えなかった。しかし視界の端に、バサバサの白髪と、赤い着物の裾から枯れたススキのような腕をとらえた。


 ──老人、か──?


▽『え』

▽『え』

▽『え』

▽『まさか』

▽『ダッシュババア!?』


 高速で走り去る老婆の姿に、俺の心臓は高鳴る。

 想像していたよりもずっと速い。

 俺が全力で走っても、直線なら悠々と振り切られるだろう。


 間違いない。

 あれこそ俺達が探しに来た、ダッシュババアだ!


▽『キタキタキタキタキタ!!!』

▽『都市伝説きちゃ!?』

▽『カラスくんどんだけ運良いんだよ!!』

▽『道わからなくてきょろきょろしてたのが役に立ったんだな』

▽『てかダッシュババアって下層に出るんじゃ無かったの!?』

▽『モンスターとかじゃないし他の層に出る事だってあり得るのだ』

▽『すぐに追いかけないと見失うぞ!』


「わかってる! 追いかけるぞ、クロネ!!」

「にゃっ!!」


 どこまで迫れるかはわからない!

 だがこのチャンス、諦めるわけにはいかない!

 俺達は全速力で駆け出した!

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