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第17羽 方向音痴、お風呂でピンチ!? 猫耳少女のスク水ご奉仕大作戦!

 〜カラスのアパート・風呂場〜




     ジャアアアアああ……



 晩酌配信を終え、片付けを済ませた俺はひとりシャワーを浴びていた。溜まった疲労が熱いお湯と共に排水溝へと流れていく。



      キュキュッ



 手に少しだけシャンプーをつけて、しっかりと泡立てる。頭皮を爪でかき回す。配信や探索でいくらか金が入ったとはいえ、1人のときはどうしても貧乏性が出てしまう。まあ、悪いことではないだろう。


 身体は上から洗う派だ。誰も聞いてないだろうが。


 そういや風呂で頭を洗ってるときに"だるまさんが転んだ"について考えちゃいけないって、都市伝説があったっけ。水場は霊を引き寄せやすいのと、目を瞑って"だるまさんが転んだ"の事を考えていると、遊んでくれると勘違いした霊が背中を触りにくるだとか。


 背中を触られたら、どうなってしまうのだろうか。



 ……こういうのって、何故か考えないようにしようとすればするほど、考えてしまうよなあ。



     ……ジャアアアアああ




 なんかちょっと怖くなってきた。泡も流れないし、なんか別のことでも考えるか。そういやバタバタしてて忘れてたけど、カミテッドのやつらってどうなったんだ?


 カミテッドは、シブヤダンジョンの中層で俺達に酷い暴言を吐いてきた奴らだ。あいつらはクロネに隷属の首輪をつけて弄ぼうとした。


 思い出したらまた腹立ってきたな。

 しかもあいつら、クロネにまで酷い暴言を吐きやがって──

 




(── たっ、確かにオレたちはそいつに隷属の首輪をつけようとした! だっ、だけどそれだけじゃないんだよ!! お、オレ達だって、アイツに殺されかけたんだ!!──)





 ──馬鹿馬鹿しい。


 あの優しくて可愛いクロネが、人殺しなんてするわけないじゃないか。あんなの、口から出まかせに決まってる。カミテッドとクロネのどっちを信じるかなんて、比べるべくもない。


 それより、さっさと頭の泡を流してしまおう。



     ……ジャアアアアああ




「ふう。さっぱりした」

「ご主人」

「ひゃいいいいっ!?」


 俺の真後ろにクロネがすっと立っていた。びびって声が裏返っちゃったじゃないか! っていうかどっから入ってきたのこの子!?


 それに──なんだこの見慣れない格好は?

 薄い真っ白な布がはちきれそうなくらいぴっちりと肌に吸い付いている。いかがわしい。水捌けは良さそうで、腕と脚が露出している。いかがわしい。


 まあいわゆる白スク水だ。


 ってなんで白スク水!? なんで白スク水!?

 なにやってんだよ猫の霊ちゃん達!! いい仕事しやがって!!


 あと俺のソーセージ、思いっ切り見られちゃったんだけど!?


「どっ、どど、どうしたクロネ? 何か用だった?」

「にゃるふふっ、ご奉仕にきましたにゃ、ご主人♥」

「ほ、奉仕って──?」

「お背中流しますにゃん♪」


 そう言ってクロネは腕捲りのジェスチャーをした。

 折角の好意を無下に断るわけにもいかず、俺は借りてきた猫のようにおとなしく風呂イスに座る。なおソーセージは膝にタオルを置いてしっかり隠した。


 なんだこの恥ずかしくも少し嬉しい感覚──ひょっとして姉と風呂に入るのってこんな感じなのか──?



 

    キュキュッ わしわしっ



 クロネは石鹸を泡立てて、俺の背中を揉むように洗ってくれた。

 ……心地良い。まるでマッサージのように、血の巡りが良くなるのを感じる。それでいて手の平で優しく、疲れと汚れを拭い取ってくれる。カリカリと窪みをかくのも忘れない。

 これは夢見心地になりそうだ。


「ご主人、気持ちいいにゃ?」

「ああ。クセになりそうだよ、ありがとうクロネ」

「にゃるふふっ♪ それなら明日からは毎日、ご一緒させていただきますにゃん♥」

「ああ。────えっ流石にそれは困るんだけど!?」

「困ってるご主人もカワイイにゃん♪」


 ……ひょっとして俺、揶揄われてる……? 

 こんな調子で毎日風呂に入ってこられたら、俺の理性がもたないかもしれない……っ! ここは毅然と断らなければ!


「あ、あのさクロネ」

「ご主人。いま、幸せにゃ?」


 背中と後頭部に、重さを感じる。

 クロネの手のひらは、背にぴたりと添えられたまま止まっていた。そして俺の頭に少しだけ身体をもたれかけていた。


 まるで母が子に対して尋ねているようだった。どこか切なく、温かく、儚く、まるで何かを噛み締めているかのような声だった。

 

「……なんだよ。今度は急にしおらしくなって。あたりまえだろ?」


 俺は振り返り、正面からクロネの顔を見る。


「リスナーが増えたことや、ダンジョンを攻略できたことも勿論そうだけどさ。なによりも、俺はクロネと出会えて、クロネと一緒に居られてさ。そのことが一番幸せだよ」

「ご主人──うちは──うちは──」

「クロネ?」

「────嬉しいにゃあああああっ♥」

「へ!?」


 いきなりテンションをぶち上げたクロネに、正面から抱きしめられる。こいつまさか、しおらしくしてたのは演技か!? 身長差のせいで、俺がクロネのたわわなエアバックに顔を埋める形に────


 ────ってやばい! 水をたっぷり吸ったスク水をそんなに押しつけたら! 息が! 息ができないからっ!?



 ────

 ──




 〜カラスのアパート・リビング〜



 つやつや。すべすべ。

 全身艶々になるまで磨かれてしまった。

 危うく窒息しかけたが、思いの外リラックスしている。


「あ。ちょっと待って」


 流し台の方に向かうクロネを止める。


「背中流してくれたし、皿洗いくらい俺がするよ」

「気にしなくてもいいですにゃ、うちはご主人にご奉仕したくてやっただけですにゃ」

「いいからクロネはソファで休んでてよ。ほら、もうすぐ猫と行く旅番組が始まるみたいだし」

「そこまで言うならお言葉に甘えさせていただきますにゃ」


 ぺこりと礼儀正しく頭を下げ、ソファに腰掛けるクロネ。俺はリモコンのスイッチを押してチャンネルを回す。





『──────────────────────

 ──────────────────────


 ──今夜9時30分はにゃんこ旅!


 今夜の猫ちゃんは

 でっぷりと太った"あんこもち"ちゃん!

 陽気なご主人と一緒に、

 東北の絶景スポットを旅します──


 ──────────────────────

 ──────────────────────』





 スポンジに泡を含ませて、流し台の器を擦り重ねていく。なんかこういう家事みたいなの久しぶりだな。一人暮らしになってからカップ麺やらズボラな生活だったし。


 なんていうか、いいな、こういうのって。

 そう、まるで新婚生活──────いやいやいやなに考えてんだ!? クロネは猫だって!! くそっ、二つ並んだコップとかフォークとかのせいで変な想像してしまう!!





『──────────────────────

 ─────────────────────


 ──旅の"目標"は山奥にある隠れ家カフェ!

 あんこもちちゃんは辿り着けるかしら?


 チャンネルはそのままで!


 続いては明日の天気です──


 ──────────────────────

 ──────────────────────』




「ご主人」

「んー? どうした?」


 コップの内側に泡を擦り付けながら、相槌を打つ。


「うちにも、目標がありますにゃ」

「目標? ああ、配信のときに言ってたのの事か」

「ダンジョンがご主人の居場所なら、うちの居場所はご主人ですにゃ。うちは、ご主人を護りますにゃ。……たとえ、どんな事をしたって」

「ありがとな、クロネ。けど、あのときみたいに、無茶なことはしないでくれよ?」

「にゃ? あのとき?」


 クロネは首を傾げる。


「ほらシブヤダンジョンの中層で、カミテッドの奴らをひとりで連れてったときだよ」


 カミテッドに絡まれたとき、クロネは俺やリスナーが暴言で傷つかないように、やつらをひとりで説得しようと迷路に連れて行った。

 しかし危うく、隷属の首輪を付けられそうになった。そればかりか、下手をしたらデストラップに嵌って命を落としていたかもしれない。


「もうあんな、危ない真似はしないでくれ」

「わかってるにゃよ。ご主人はあのとき"目の前で誰かが死んだら嫌な気分になる"とも言ってたにゃ。ちゃんと覚えてるにゃん」

「──あのな、お前にもしもの事があったら"嫌な気分"どころじゃ済まないんだからな? クロネは、俺がダンジョンで見つけた最初の宝物なんだから」

「にゃっ、わかったにゃ」



 ……なんか俺、結構キザなこと言っちゃってないか?

 リスナーのコメントが目に浮かぶようだ。配信してなくてよかった。


 気恥ずかしさを誤魔化すように蛇口を捻り、食器についた泡を綺麗に洗い流す。水の音で、クロネの声も、テレビの音も聞こえなくなる。それから俺の心臓の音も。


 急げば、猫の旅番組には間に合いそうだな。




 

    ザアァァァ──ッ

 




『──────────────────────

 ──────────────────────

 

 ──続いてのニュースです。


 今日午後、都港にある廃倉庫で

 4人の男性が焼死体で発見されました。


 4人は頭から灯油と着火剤を被っており、

 ライター等で火をつけられたと見られています。


 灯油や着火剤は彼等が購入したものであり、

 またSNS上では民家への放火を示唆する

 投稿があった事から、

 放火の準備をしていた際に誤って

 自分達に火をつけてしまったと見られています。


 亡くなった4人は配信者仲間で、

 カミテッドというグループで活動をしており、

 隷属の首輪を所持していた疑いで──


 ──────────────────────

 ──────────────────────』

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